【Page3】サスペンションチューニング

掲載日:2010年05月19日 特集記事2010カスタム最前線    

記事提供/2010年1月24日発行 月刊ロードライダー 3月号
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Photo/富樫秀明 Text/石橋知也

今年やりたい最新カスタム

サスペンションチューニング

   

調整機構を回すのはステッピングモーター

①2009東京モーターショー時点でのスマートEC。FフォークはTTXだが、実際は上側の調整機構を持つワン・バイ・ワンになる。下は新発売のレース用【FGR900]TTX20 ②左は従来型のシングルチューブ。右はTTXで、調整機構が上側に集中している ③TTXの減衰力調整ダイヤルのイメージ ④スマートEC用調整機構ではステッピングモーター。後からダイヤルとも交換可能だ。奥に見えるのはECユニット(試作)

 

今秋にも発売か!? 
後付け版オーリンズ・電子制御サス

オーリンズのSmart ECコンセプトは、アフターマーケットで一般市販を前提に開発中の電子制御サスペンションシステムだ。全容はまだだが、東京モーターショー時点よりも明らかになった部分を紹介しておこう。

 

実は電子制御サスペンションが試されるようになってから、結構長い。オーリンズで言えば約20年(フレディ・スペンサーがヤマハ時代に実戦で使用)。そして'09年東京モーターショーで参考展示されたスマートECコンセプトは、前後サス+ステアリングダンパーを電子制御するもので、アフターマーケットでの市販を前提にしたものだった。さらに新型ドゥカティ・ムルティストラーダ1200には、OEMとして同社の電子制御サスが装着された。

 

「正直言ってサスの制御は、燃料噴射と比較するとだいぶ遅れてますよ。FIはものすごく進化してますからね。サスもそうならないと。スマートECに関しては、今年の秋以降の市販を考えています。詳細は発表できないんですけど」

 

とラボ・力ロッツェリアの塚本裕之さん(以下同)。従来あったECサスは、電子制御と言うより遠隔操作。つまりツーリングとかスポーツという予め設定された仕様(減衰力やイニシャルプリロードの設定)を、手元スイッチで切り換えるものだ。調整機構のダイヤルをそれぞれ手で回す代わりに、ECユニットに記憶されたモード通りに調整機構を電気的に(モーターなどで)回す。

「今度のスマートECは、センサー類からの情報を使うので、さらに進化した制御になるハズですよ。センサーで得る情報はサスストローク、ブレーキ、スロットル、リーンアングル(バンク角)などです」

 

どこまで情報をフィードバックさせて、特性を切り換えられるのかは不明だが、遠隔操作だけでないことは確かだろう。予想するに、スポーツモードの中でも速度や走りのパターンなどによってECUが車両の状態を判断して、イニシャルなり減衰力なりを可変させてくれるのだろう。単にツーリングとスポーツに2種類を使い分けるだけではないハズだ。

 

「開発中でもありますが、ただの遠隔操作ではスマートECの意味がありませんからね。それと組み合わせるのは、リヤショックはTTXで、Fフォークはワン・バイ・ワンになります。これはアクチュエーター(ステッピングモーター)をサス上側にまとめる意味でも必須条件です」

 

手動のダイヤルの代わりにモーターを使う。リヤショックで言うと従来型のシングルチューブでの調整機構は、上側に圧側減衰力とイニシャル、下側に伸び側減衰力が配置されているから、上下にモーターを装着しなければならず、特に下側の伸び側用はインナーロッドを回すので、構造的にモーターを取り付けるにはちょっとやっかいだ。オーリンズの新世代TTXはツインチユーブ式で、上側に3つの調整機構が集中し、しかも圧倒減衰も伸び側も同じタイプのダイヤルが付いている。だからモーター駆動させるには理想的なのだ。

 

一方Fフォークのワン・バイ・ワンは、数年前にレースに投入された機構で、片方が伸び側、もう片方が圧側(両側ともベースバルブ=圧側は共通)の減衰を受け持つというもの。Fフォーク自体と車両側とが高剛性でないと成り立たない機構だが、EC化でのメリットは調整機構が上側に集中するということ。

 

「ワン・バイ・ワンFフォークは、現在レースには使っていませんが、構造がシンプルですし、スマートECには最適でしょう」

 

ワン・バイ・ワンは、1本が伸び側か圧側かの専用ダンパーなので減衰力に余裕があり、セッティング幅も広いのが特徴だ。ただ、レースの現場では、そのセッティング幅の広さから、使いこなせないチームもあった。でも、スマートECは、予めオーリンズが設定した基本マップによって自動的に制御してくれるのだから、ユーザーがセッティングに迷うことはない。

 

「前後ともバルブ自体を可変させるのではなく、調整機構で設定を変えます。ダンパー本体は決めておいて、20段中15段が標準=ツーリングだとしたら、10段がスポーツというようなのが基本になりますね」

 

そこから走行状況(荷重=サスストロークやスロットル開度=速度やエンジン回転数など)をフィードバックさせて、さらに調整を行ってくれるのだろうか。

 

「Fフォーク、Rショックなどを含め全システムの価格は当然高くはなりますが、OEM(純正)にはECサスの設定がない車種でもEC化ができるメリットは大きいでしょう。もちろん車種毎の設定になります」

 

ターゲットとなる車種はスーパースポーツ、メガスポーツ、大型ツアラーなどになるだろう。詳細は今秋のどこかのモーターショーで発表されるハズだ。車両メーカーのOEM装着ではなく、アフターマーケット製サスも電子制御の時代になるのだろうか。ただ、TTXなどサス本体の進化があってこそのEC化だということを忘れてはならない。

 

FI用サブコンのRapidBikeも2010年はより充実

   
   

①ステッピングモーターを伸び側/圧側減衰調整部に装着したスマートEC用TTXリヤショック(試作品)。TTXのTTはTwin-Tubeの意味で、従来型はシングルチューブ
②現行版TTXの減衰力調整機構。ダイヤルはゴールドが圧側、黒が伸び側。ガス圧は従来の半分で低抵抗も特徴
③従来型ショックの圧側減衰力とイニシャルの調整機構は本体上側にある。ピストンはφ46mm(TTX:φ36mm)
④従来型の伸び側は下側。中空ダンパーロッド内のニードルを回して、ピストン中心のオリフィスとのすき間を調整する機構で、正確には伸び側も圧側も変化してしまう構造だ。中空ダンパーロッドはニードルを内蔵するのでφ16mm。対してTTXは中実のφ14mmを採用する

ラボ・カロッツェリアL/C事業部・営業課長の塚本裕之さん:元国際級ライダー(GP125)。公道用愛車はGSX-R750K7

   

TTXのシリンダーは2重構造だ。ピストンはオリフィスも積層バルブも持たないソリッドプレートで、オイルの押し引きの役目のみ(右のステダンと似た構造)行う。減衰力発生部はシリンダーヘッドとリザーバータンク基部で伸び側と圧側が独立。お互い影響を受けない

 

オーリンズ製電子制御サスをOEM装着した'10ドゥカティ・ムルティストラーダ1200S。イニシャルと減衰力を制御する。同時にABS、エンジン特性4モード×8段階トラクションコントロールも装備

●Fフォークは1by1、RショックはTTXを使用

●ステッピングモーターで調整機構を作動させる

●今秋以降の市販を予定。価格、車種別設定は未定

ワン・バイ・ワンFフォークは現時点では市販品はなく、数年前にレースで使った機構だ。TTXは現製品から調整機構のダイヤルをステッピングモーターに交換して使う。東京モーターショーの展示ではステアリングダンパーにもステッピングモーターが付いていて、これも同時制御になるだろう。現段階ではRショックのイニシャル調整機構にモーターはないが、これもいずれ付き、電子制御されるハズだ

 

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