ロードライダーインプレッション~スズキ グラディウス(650)~

掲載日:2010年05月21日 特集記事    

記事提供/2010年1月24日発行 月刊ロードライダー 3月号
Report/石橋知也  Photo/徳永 茂

SUZUKI GLADIUS (650)

等身大でスポーツ満喫欧州型ミドルVツイン

長くヨーロッパで支持されてきた650cc90度Vツインエンジン。それを新型トラスフレームに積み、洗練されたスタイリングでまとめ上げた。乗ればスポーツはいつも、そこにある。

回してスポーツもでき
下で鼓動感も味わえる

見栄を張らず、等身大とはこのことだ。最高級ではない。でも、ちょっと酒落ている。燃料も含んだ装備重量202kg(ABSなし)、100psに満たないパワーのミドルツインは全身でスポーツできる。同じミドルクラスの600ccスーパースポーツのように1万6000rpmも回るわけでもなく、その高回転域での鋭いレスポンスがあるわけではない。でも、フル加速すればフロントも上がるし、ワイドオープンが躊躇なくできる。ワインディングロード、特に中速コーナーでは本当におもしろいし、僕のようにロードレース上がりではない普通のライダーでもかなり速く、痛快に走れてしまうのだ。

ベースとなったSV650の頃から、この90度Vツインは気に入っていた。日本では残念ながら650も400もそれほどの人気車にはならなかったけれど、ヨーロッパでは650が発売から10年以上、根強い支持を集めてきた。このVツインはGSX-R750の開発と進化の過程で得たノウハウや材料・技術が随所に生かされて、ある意味でスズキの質実剛健な誠意が見られる。4バルブのレイアウトや燃焼室、コンロッドの材料や後処理などは、とかく安価に作りがちなミドルクラスの中で贅沢なものだ。だから、パフォーマンスを今なお維持している(要するに生まれが良いエンジンなのだ)。

 


石橋知也:ツイン好き。173cm、66kg。「僕ぐらいの腕だと、短いサーキットなら4気筒より速く走れるんじゃないかな。コーナー後半の加速は最高。体力いらずで大人にお薦め」

4速まではレッドゾーンまで気持ち良く、ストレスなく回っていく。リミッターが効くのは1万1000rpm辺りか。5、6速の高速域ではそれまでの伸びが鋭くなるけれど、これはエンジン本体というより、燃料噴射量などが制御されているんじゃないかと思う(メーター読みで200km/hオーバーはする)。

一方、低中速ではツインらしい鼓動間がたっぷり。これは傍で聞いているより、ヘルメットを被って乗っている本人の方がそう感じるから不思議だ(傍で聞こえる音量自体は静か)。6000~7000rpmぐらいからは、エンジンがもっと回せ回せといってくれる。90度Vツインだからバランサーなしで1次振動がキャンセルされていて、不快感も無理してる感じもなくビンビン回る。トラクションもバッチリかかるし、お尻にそのリヤタイヤの感覚が伝わって、ますますイケる気分になる。ほんの少しだけれども場合によって、前閉からチョイ開けの部分で、スロットルと実際に回転の上がり方がズレることがあったけれど、それは僕の腕でもカバーできる範囲。とにかくこの650ccVツインはイイ。

車体はスリム・コンパクトさが、すべて安心感につながり、人間が常に主導権を握っていられる。車体に堅さを感じることはない。でも、ヨレる感じもない。ハンドリングは終始軽快で自然。高荷重高速域では、さすがにリヤショックの吸収力不足になって、車体全体がトンと動いてしまうこともある。でも、φ41mm正立のシンプルなフロントフォークは十分な動きと吸収性を見せるから、グレードアップを望むならリヤショックを交換して、Fフォークをオイル(粘度と油面)でセッティングすればいい。そんな程度で十分なぐらい、この車体はバランスが良いのだ。前後ブレーキの効きは車格や速度に見合っている。ABSなしだったが、リヤブレーキもコントロールしやすい。効き過ぎないエンブレを生かせば、フルブレーキキングは高回転型4気筒ほどの神経を使わないで済む。これも余裕が生まれる一因だ。前後17インチタイヤは、定石通りフロント120幅だが、リヤは180幅ではなくやや細い160幅を使っていて、この見栄を張らない幅が自然でいかも寝せやすく、バイクの芯を感じさせるハンドリングにつながっていると思う。グリップ不足を感じることはない。

もちろん街乗りは楽しい。快速。そしてデザイナーズバイクと呼べるほどのスタイリングで無骨感がなく、スズキのスイフトやヨーロッパ製コンパクトカーのように街の風景に自然に溶け込む。苦手かなと思った高速道路も、最高速付近外は直安もしっかりしているから苦にしない。6速のままでも十分な追い越し加速なのだが、回せるからやっぱりギヤダウンした方がおもしろい。

こんなミドルVツインが受け入れられるようになると、日本のバイク界も成熟していくと思うのだが……。

エレガントなミドルVツイン

輸出用に'09年から発売が開始されたグラデゥウス650。国内販売が始まった400とは基本的に車体が同じで、エンジンの排気量が異なる。フレンドリーでエレガントなVツインスポーツがコンセプトで、スリム・コンパクトな車体はミドルVツインならでは。ABS仕様も用意される

 

美しい専用スチールトラスフレーム。ピボット部にはカバーが付く

'99年発売のSV650をベースに改良が進められた水冷DOHC4バルブ90度Vツインエンジンはφ81×62.6mm、645cc。SCEMめっきシリンダーを採用。EFIはダブルスロットルバルブで電動のサブスロットル側にアイドルエアをコントロールするISCを内蔵。冷間時のスタート直後でもアイドリングは安定していて、排ガスも低減する。インジェクターは10ホール(400は8ホール)。イリジウムプラグを標準装備

 



異形マルチリフレクターヘッドライト。慣性モーメントを減少するため、フロントフォーク近くにマウントされ操縦性への影響は最小

グラブバーやテールランプなどリヤまわりのデザインもエレガント

 

 

こちらの記事もおすすめです

この記事に関連するキーワード

新着記事

タグで検索