掲載日:2021年03月08日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/伊井 覚
KTM 250 ADVENTURE
390アドベンチャーの次は250アドベンチャー。ここ最近のKTMの動向を考えれば、その展開は至って自然な気がするけれど、よくよく考えてみると、ちょっと意外である。何と言っても250ccストリートバイクの主要市場は、日本を含めた東/東南/南アジア地域で、ヨーロッパとアメリカでの需要はわずかしかないのだから。
ちなみに、近年のKTMが販売したアンダー400ccストリートバイクを振り返ってみると、まずネイキッドのデュークシリーズは、2011年:125、2012年:200、2014年:390、2015年:250という順序で登場。そしてフルカウルスポーツのRCシリーズは、14年に125/250/390がイッキにデビューし、250の追加は翌2015年だった。でもアドベンチャーに関しては、2020年型390に続く形で、2021年から250の販売が始まったのだ。
つまりアンダー400ccのアドベンチャーツアラーで、KTMは今までとは異なる手法を選択したのである。逆に言うなら、日本を含めた東/東南/南アジア地域で勢力を拡大するには、やっぱり250ccが必要と考えたのだろう。なお今現在のKTMの世界各国のウェブサイトを見ると、欧米では250アドベンチャーの販売は行わないようだ。
エンジンに関しては、125/200用と250/390用で基本設計が異なるものの、KTMがこれまでに手がけたアンダー400ccストリートバイクは、シリーズ全車で車体の基本設計の多くを共有している。と言っても排気量や車両のキャラクターに応じて、さまざまな最適化は行われて来たのだが、基本的には2011年に発売した125デュークの発展型として、多種多様なモデルを生み出して来たのだから、非常に効率のいい手法と言っていいだろう。
もちろん、250アドベンチャーもその点は同様で、スチール製トレリスフレームや特徴的な外装部品、F:19/R:17インチのアルミキャストホイール、豊富なサスストロークの前後サスペンションなど、基本構成の多くを390アドベンチャーと共有している。1430±15mmのホイールベースや855mmのシート高、200mmの最低地上高、26.5度/98mmのキャスター/トレールといった車体寸法も、390と250アドベンチャーに通じる数値だ。
ただし、390アドベンチャーの構成をそのまま踏襲したのでは、価格面での戦闘力がいまひとつ……と判断したのだろうか。細部を観察すると、250アドベンチャーはコストダウンが行われている。具体的な話をするなら、前後ショックは調整機構の多くが省略されているし、タイヤはコンチネンタル→MRFに変更。また、メーターはTFTカラー液晶→モノクロLCD、ヘッドライトはLED→ハロゲンバルブ、スロットルは電子制御→ケーブル式、ハンドルはアルミ→スチールに刷新された。
この事実をどう考えるかは人それぞれだが、390アドベンチャーの75万9000円より8万円安い、67万9000円という価格に、グラっと来る人は少なくないんじゃないだろうか。なお日本市場でライバルになりそうなモデルの価格は、ホンダCRF250ラリー:74万1400円、カワサキ・ヴェルシスX250ツアラー:70万4000/72万500円、スズキVストローム250:61万3800円だ。
全然OKじゃないか! 250アドベンチャーで10分ほど走った段階で、僕はそう感じた。兄貴分と比べると、最高出力が44→30ps、最大トルクが37→24Nmに下がっていることを考えれば、非力さを感じても不思議ではないのだが、右手の操作に対する反応が忠実なこのバイクに乗っていると、試乗前に数字を見て勝手な心配をしていた自分が、何となく恥ずかしくなって来る。もちろん、出足のトルクや最高速は排気量が約1.5倍の390に軍配が上がるのだけれど、少なくとも250を単体で乗っているぶんには、物足りなさを感じることはないだろう。
それに加えて、足まわりの動きもなかなか好感触だった。この件についても、僕は最高出力と最大トルクの低下による硬さを危惧していたのだが、そういう気配はほとんどなく、スロットルやブレーキを操作した際の姿勢変化は至ってナチュラルで、乗り心地もなかなか良好。もっとも調整機構の簡略化以外に、390と250のショックの設定がどう違うのかは定かではないものの、個人的には250としての最適化が図られているように思えた。
そのあたりを踏まえての話だが、ロングランを気軽にこなせる快適性や、峠道でのスポーティなハンドリングは、兄貴分と同様である。厳密に言うなら、ブランドがMRFとなったタイヤからは、コンチネンタルほどの信頼感や接地感は得られないのだけれど、乗り手を優しく導いてくれるかのような車体の動きや、アイポイントの高さとサスストロークの豊富さのおかげで、見通しが悪い峠道を安心して走れる特性は、きっちり維持されている。
ではオフロードの乗り味はどうかと言うと、車重が軽くてフロントに21インチを履くCRF250ラリーには及ばないものの、エンジンが並列2気筒のヴェルシスX250ツアラーやVストローム250よりは上、という印象。ちなみにこれらの中で、まったり巡航に適しているのはヴェルシスX250ツアラーとVストローム250、それに次ぐのはCRF250ラリーで、250アドベンチャーはどんなときでも乗り手に積極性を求める傾向だ。このあたりはKTMの基本姿勢で、既存の250デュークやRC250などと同様に、250ccだからと言って変更は行われていない。
そういった性能はさておき、このモデルにとって日本市場でネックになりそうなのは、855mmのシート高だろう。僕は決して低いシート推奨派ではないのだが、Vストローム250:800mm、ヴェルシスX250ツアラー:815mm、CRF250ラリー:830mmという数値を考えると、どう考えても250アドベンチャーは不利である。と言っても、KTMはシート高が25mm低くなる純正アクセサリーパーツとして、リアショック+サイドスタンドのローダウンキットを設定しているのだけれど、390との差別化を図るという意味でも、250アドベンチャーはローダウンキットを標準装着するべきだったのではないか……と、個人的には思わないでもない。