掲載日:2019年05月28日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 撮影/山家 健一
V85TTはモト・グッツィの伝統とスタイルを継承したクラシック・トラベル・エンデューロという位置付けだ。最近は高性能化の一途をたどるアドベンチャーセグメントに一石を投じる、古き良き時代のラリーマシンの雰囲気を現代に再現したモデルである。
エンジンは伝統の空冷縦置きVツインでシャフトドライブという唯一無二のレイアウト。乗り味も個性的で、アクセルオンで右に傾ぐ独特のトルクリアクションと柔らかな鼓動感、極低速での分厚いトルクを生かしたテイスティな走りが魅力になっている。こうしたモトグッツィらしさは受け継ぎつつも、エンジンの中味は全面的に見直されてよりスムーズかつ軽やかに。クラッチ操作も軽くなりシフトタッチも節度感が増した。
乗り味は大らかだが、現代的に洗練されている。サスペンションはソフトな作動感の中に適度なコシもあり、基本的にはオンロード向きのセッティングと思われる。ストローク量も前後170mmでアドベンチャーの中では短めだが、逆に動き過きすぎても乗りづらいので舗装路でのサジ加減としては丁度いい感じ。その分シート高は830mmとこのセグメントとしては非常に低く設定され、身長179cmの自分はヒザも十分に曲がる。
タンクは大きく存在感があるが、シート前側は絞られていて足を真下に延ばしやすい。ライディングポジション的にもロングタンクの後ろにドカッと座れるシートがあり、昔気質というかゆったり乗れる感じだ。ハンドルは高めでステップ位置は低め。上体を起こして堂々と跨るクラシカルなスタイルが似合う。
感心したのがリアセクション。赤いトラス状の多目的ステーはグラブバーを兼ねた構造で、タンデムライダーが握りやすくデザイン的にもアクセントになっている。これがとても機能的でシートレールを補強する剛性メンバーであり、パニアやトップケースを取りつけるためのベースでもあり、リアまわりを保護するプロテクターとしても機能するなど秀逸。V85 TTの装備を見ていると、タンデム+荷物でのロングライドを想定しているのはもちろん、「そういう使い方をしてほしい」という積極的なメッセージが伝わってくるのだ。
高速道路では従来のモトグッツィとはやや異なるカチッとした乗り味の一面も見せてくれる。意外にも、と言ったら失礼だが、見た目の印象からは“らしくない”車体の剛性感がある。倒立フォークやエンジンマウント部の強化が奏功しているのだろう。ステップ荷重でさっとレーンチェンジしてみても車体にヨレ感はなく、フロントにもしっかり地に着いた安心感がある。大らかだが曖昧さはない、現代のバイクらしいハンドリングだ。スクリーンも高さは控えめだが、かえって視界は良く、幅はあるのでけっこう広い範囲で走行風を効果的にプロテクションしてくれる。上体が立ったリラックスした姿勢のままでも顔半分より下は、ほぼカバーしてくれる感じだ。
ブルーが基調のTFTディスプレイもすっきりと見やすくスタイリッシュだ。走行モードによって出力特性やABS、トラコンのレベルなども最適化される最新式だ。走行中はセルボタンが切り変えスイッチも兼ねていて走行中は2度押しで簡単にモードを切り変えることができる。例えばドライ舗装路面向けの「ロード」だとパワフルな走りが楽しめるし、滑りやすい路面を想定した「レイン」では穏やかなパワーになりトラクションコントロールやABSがいち早く介入しホイールスピンを防ぐ。また「オフロード」ではトラクションコントロールが最小限でリアのABSもカットされてスライドを許容する。状況に合わせて最適なライディングを支援する機能がデフォルトで入っているため、設定であれこれと迷わないところがいい。機能を盛りすぎるとかえって扱いづらいが、その点V85 TTはすぐに使いこなせて気楽に楽しめる。
街に溶け込むクラシカルなデザインと程よいサイズ感で、気負わずに普段から乗り回せる手軽さがいい。今までアドベンチャーを敬遠していた人にもすすめられる、親しみやすいモデルと思う。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!