掲載日:2015年05月15日 週刊メンテナンス講座
記事提供/モトメンテナンス編集部(※この記事はモトメンテナンス101号に掲載された内容を再編集したものです)
取材協力/ポッシュフェイス、井上ボーリング
ポッシュフェイス製ボアアップキットを組込むことにより、シリンダーボアは、W650のノーマル72mmから78.5mmまで実に6.5mmも拡大されることになる。当然、それだけ大きな削りしろは純正スリーブに残されてないため、スリーブ打替えが必要だ。当然、作業は内燃機加工のプロに依頼することになる。ここでは、本誌ではすでにお馴染みの井上ボーリングにスリーブ打替え依頼し、同時にボアアップの効果を最大限発揮できるよう、プラトーホーニングを施工した。
プラトーホーニングは、シリンダー内壁にV溝状のオイル溜まりを残しつつ、通常のホーニングを大きく上回る平滑度を実現するもので、ピストンの摺動抵抗を大きく減少させる効果がある。これにより、慣らし運転時間の短縮や初期磨耗の低減などメリットは様々。特に今回のようなチューニングに際しての恩恵は少なく無いため、是非とも一緒に施工しておきたい処理である。
同様にシリンダースリーブの打替え時に必ず実施しておきたいのが、仕上げの面研磨だ。いくら精度の高い加工を行なったとしても、シリンダー面からスリーブのツバが出っ張ることがある。面研磨を行なうことで、シリンダー面の水平がキッチリと出て、ヘッドを載せた際の組付け精度が高まるのだ。
ボアアップキットの組込み作業では、このスリーブ入替えが作業のハイライトとも言える。二輪エンジンの作業実績が豊富でありつつ、われわれ一般ユーザーの依頼に対し、他の量産仕事と分け隔てなく応えてくれる井上ボーリングならば、確実な仕上がりを望むことができる。
今回依頼した作業の料金は、スリーブの入替えが2,000円/1本、シリンダーの拡大が6,000円/1シリンダー、シリンダー面研磨が8,000円、ボーリングとホーニング作業が2気筒で2万3,000円となる。(価格はすべて税抜き)
依頼した内燃機加工が終わるまでの間、エンジン内にゴミや水分が混入しないよう、梱包用ラップで、エンジンを丸ごと覆っておいた。自分で作業する場合は、作業前に車体や部品の保管法を考えておきたい。今回はヘッド加工も同時に依頼。バルブ周辺部品は元の通りに復元できるよう、何処に付いていたものか分かるようにビニール袋に分類した。
ボアアップに伴うスリーブ打替えを依頼する場合は、新たに使用するスリーブ、ピストンを同梱する。また、ピストンクリアランスをオーダーシートに記入の上、指定することが必要だ。
シリンダーに熱を加え、熱膨張を利用してスリーブを抜き取る。このようにシリンダーを熱するとアルミと鉄の熱膨張差により、スリーブが浮いてきてしまうこともあるので焼付け塗装時などは注意。
スリーブが抜けたら、マシニングセンターでシリンダーのスリーブ孔を拡大する。このときの圧入公差は、井上ボーリングさんにお任せした。油をかけながら切削していく。
スリーブ孔の拡大後、ボアアップキット付属のスリーブを挿入する。挿入時は、シリンダーに熱を加えた後、プレスでスリーブを圧入し、プレスで押したままの状態で冷えるのを待つ。
スリーブが圧入できたら、いよいよシリンダーボーリングを行なう。まず、ボアアップキット付属ピストンのボアをマイクロゲージで測定する。この時必ずスカート部で数値を算出する。
【左】シリンダーをマシニングセンターにセットし、シリンダーボア内径を測定する。2つの気筒内を自動で縦横に機械が動くことで、空間上の座標を算出。シリンダーセンターと数値を正確に割り出す。 【右】続いてスリーブの切削量に合うように、バイトの歯の突き出し量を正確に調整する。今回はピストンのクリアランスを1000分の45mmに指定したので、それに合うように調整した。
【左】量産の仕事と同じ縦型マシニングセンターを使用し、シリンダーボーリングを実施。機械が先にメモリーした数値を基に作業はすべて全自動で行なわれる。2気筒ともに終わったら、次の工程に移る。 【右】ボーリングが行なわれたシリンダーは、仕上げのホーニング作業が行なわれる。ピストンとシリンダーボアが精密に計測され、指定クリアランスを目指し、砥石でシリンダー内壁を研磨していく。
【左】シリンダー内壁に均一なプラトーホーニング仕上げを行なうには、ボーリング加工による真円度と寸法管理が非常に重要となる。仕上げに専用の特殊な砥石を使用してプラトーホーニングを仕上げる。 【右】ホーニング作業とシリンダーボアの測定を繰り返しながらプラトー仕上げが行なわれていく。このプラトーホーニングを行なうことで、エンジン磨耗を抑制し、超寿命化を望むことができる。
次に平面研磨機を使用し、シリンダーの面研磨が行なわれる。ボアアップによって高まった圧縮をしっかり逃がさぬよう、是非とも実施しておきたい作業だ。以上でスリーブ打替え作業は完了となる。
面研磨を行なったシリンダー面には、切削跡が一切残らず、プラトー仕上げのシリンダー内壁もしっとりとした美しいツヤを放つ。今回は時間の都合上、作業が前後したが、ペイントを行なう際は、アルミナでブラスト下処理をした後、加工を依頼し、ガラスビーズで仕上げるのが良いようだ。ただし、作業内容や機種によっても順序が異なることもあるので、ペイント前提の場合、加工を依頼する前に相談すると良いだろう。
プラトーホーニング後は金属表面の平滑さを測定する、面粗度計で仕上がりがチェックされる。下側に谷が残り、上側の山がフラットになる、プラトーならではの測定グラフのデータは、依頼者へ届けられる。
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