掲載日:2024年04月15日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
KAWASAKI Ninja e-1
遡ること2021年10月のこと。カワサキが川崎重工業から分社化したカワサキモータースの創立にあたって今後の事業方針説明会を行った際にカーボンニュートラルへの実現を目指し、2025年までに10モデル以上の電動バイク(BEV、HEV合わせ)をマーケットに導入、さらに2035年までに先進国向け主要モデルをEV、HEV、水素エンジンなどにするという目標を掲げたのだ。
それから1年後のEICMA(ミラノショー)にてプロトタイプとして発表された3機種のうちの一台が今年1月13日に発売された。それが今回ピックアップする「Ninja e-1」である。BEV=バッテリーとモーターで走るカワサキ初のスポーツモデルであり、カワサキを代表する”ニンジャ”のイニシャルが与えられたことも大きなポイントだ。そんなNinja e-1を約10日間使用し分かった完成度と使い勝手をじっくりとお伝えしていこう。
日本はバイク、クルマを問わず次世代動力(ここでは主にBEVを指す)を活用した乗り物の開発製造に対し、欧米や中国に後れを取っている感が否めないと言われて久しい。もちろん化石燃料の枯渇や地球環境を考えた二酸化炭素排出量の軽減などに対応するための努力はしなければならないが、いま一つ将来のことが不透明であるということや、内燃機エンジンという完成された動力が不変に思えている人が多いというのも問題の根底にあるのだと考えている。
そのような中、先だってカワサキが打ち出したカーボンニュートラルへの取り組みとしてBEV、HEV、水素エンジンなどのモデルを続々とマーケットに導入していくという今後の事業計画はバイク乗りだけでなく社会的に見ても受け入れなければならない選択が迫られているということを実感させるものだった。
その第一弾として登場したのがフルカウルスポーツモデルであるNinja e-1と、ストリートファイターモデルのZ e-1の2車種だ。欧州のA1ライセンス(排気量125cc以下かつ最高出力が11kW(15 馬力)以下の車両に対応するライセンス)に対応しており、つまりそれは日本の原付二種区分に当てはまるということになる。注目すべきポイントは家庭用コンセントから充電可能とされており、取り外し可能なリチウムイオンバッテリーを採用していることだ。
BEVではどうしても航続距離や充電インフラなどの問題が提起されがちだが、通勤通学のような日常的に往復するシーンであれば、予備のバッテリーを用意しておくことで、上手いルーティン使用が可能だと考えられるのだ。そこで今回はカワサキが送り出す次世代モーターサイクルNinja e-1を日常生活において実際に使い、走行性能や実用性を探ることにした。
Ninja e-1の実車を目の前にすると、サイズはほぼNinja250と同等だということが分かる。スペックシートで確かめてみると全長で10mm、全幅で25mmNinja e-1の方が短く、シート高に関しては10mm抑えた785mmなので、跨ってみると良好な足つき性に誰でも乗ることができそうだということがすぐに分かった。さらに驚くのは車両重量だ。なんとNinja e-1はバッテリー搭載状態で140kgしかない。Ninja250も相当軽いのだが166kgなので、その差24kgもある。Ninja e-1はフルサイズでありながらも軽量コンパクトというのが第一印象だ。
スタイリングに関しては、フロントの逆スラントノーズやエッジーなボディライン、シルバーベースに差し色に用いられたライムグリーンなど、誰の目に見てもカワサキのスーパースポーツモデル【Ninja】のDNAをしっかりと感じさせるものとなっており、もしかするとサイドカウルなどはNinja250と見た目の違いが見当たらないため共通なのかもしれない。
走行や充電などの説明をカワサキのスタッフから受けて走り出す。セルモーターによるエンジンの始動など無いので、イグニッションキーをオンまで回し、通常セルスタートが配置されている箇所のボタンを長押しすると走行可能状態となる。
厳密に言えば暖機運転も必要なのだと思うが特に要求されるようなことも無いので、いきなりスロットル全開にしてもスーッと無機質な加速をしてくれる。Ninja e-1が原付二種クラスでパワーも控えめだから大きな問題ではないが、もしBEVハイパワーモデルであれば、乗り出し時のタイヤや駆動系を温めるよう意識することを忘れないようにした方が良い。
Ninja e-1は想像通り快適な走りを得られる。必要にして十分なパワー感は街中で扱いやすくストレスフリーである。他メーカーのBEVモデルにも相当試乗してきたが、その中でもNinja e-1のスロットル制御は良くできており、全閉からチョイ開けの”ツキ”は自然で、さすがは日本4大メーカーの一つが手掛けたものだと思わせてくれる。
テスト期間中はしばしば市街地を抜けてワインディングロードに持ち込んで走らせたがこれもまた好印象だった。セパレートハンドルや高い位置にセットされたステップバーからなるスポーティなライディングポジションや、想像以上に良い働きをする足まわり(特にリンク式のリアサスの動きは好み)、さらにはNinja250と比べて10mmサイズが細い前後タイヤなどからなるトータルでのバランスが良く、この上なく軽快な走りを楽しめるのだ。ミッションを持たないシングルギアでありながらスタートダッシュからクルーズまでしっかりとカバーできているのも良いと思う。
Ninja e-1のフューチャーポイントとしてロードとECOのモード切り替え機能があるのだが、実際のところECOモードではパワー不足を感じ、ほとんど使うことがなかった。一方で最大15秒間出力を向上させるe-Boost機能は、加速感や最高速など全体的なパワーアップを顕著に体感することができる。ただ電力消費は激しく、それはつまりバッテリーの減りも早くなることに直結するため、幹線道路への合流や、追い越しなど場面を考えて使うようにしていた。
私の場合はBEVスクーターを所有していたことがあり、家に戻ってからすぐに充電器を繋いだり、出掛ける数時間前に充電器を接続したりと、BEVの利便性や使い方などを理解しているということがあるのかもしれないが、Ninja e-1においても充電時間や日常生活圏内での航続距離に問題は無かった。
さてここから本題に入っていこう。みんな気になっているNinja e-1は”アリ”か”ナシ”なのか、だ。
まずバッテリー及び充電に関してから。取り外し可能で二つ搭載することができるバッテリーは、もし普段のパーキングスペースに充電環境を設けることができなくとも、家の中に持ち込んで充電することができるが、バッテリー単体で11.5kgある。ちょっとした筋トレになると考えて良い。だからできることならば車両に充電器を接続できる環境を整えることができた方がベターだ。
搭載する二つのバッテリーが満タン状態で最大72キロ走行可能と言うのがスペック数値で、実際には満タン時でもメーター内の残走行距離は45~46キロと表示されることが多かった。ただ数キロ走っても数値が減らない場合がほとんどなので、航続距離に関してはe-BoostやECOモードを上手く使うことが肝となってくるだろう。
そして価格面だ。車両本体価格は106万7000円となっている。国のCEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)制度を利用することができ12万円を受け取ることができる。これは大きいメリットだ。さらに東京都では独自の電動バイク普及促進事業を設けており、それらをすべて合わせると最大58万円の補助金が出るとある。先日、東京都外のカワサキプラザ店に伺った際「東京都は補助金がたくさん出るので良いですよね」とスタッフに言われた。
遠く離れた地方ならいざ知れず、首都圏近郊で格差が出てしまうというのは、中には越境して登録するようなユーザーも出てきてしまうのではないかといらぬ心配をしてしまう。個人的にはそもそもの設定価格も高いと思えている。もちろん新たにBEV開発に掛かった費用などもあるとは思うが、Ninja250は70万4000円であるし、Ninja250 e-1の充電器類は別売りとなっている。いくら補助金が出たとしても若者や学生からすれば高価であるし、オトーサンオカーサンのお小遣いでも厳しく感じてしまうことだろう。本気で普及させたいのならば価格に関しては一段、いやもう二、三段引き下げた方が触手が伸びるというのは間違いない。
むしろ提案したいのは地球最強のBEVモデル開発だ。Ninja H2Rを軽々と凌駕する時速500キロオーバーモデルであり、その最高速を出すためには一瞬でバッテリー電力を消費してしまっても構わない、車両価格が1000万円を超えても買う人は絶対にいる。次のトップガンにもきっと登場する!!カワサキだからこそできるモノヅクリだと思うが、いかがなものだろうか。
動力には定格出力0.98kW、最大出力9.0kW (12PS) を発揮するブラシレスモーターを採用。優れたレスポンスと低速域での力強いパワーを実現している。扱いやすく実用領域に関して過不足無し。
BEVなので化石燃料は使用しない。ただ通常燃料タンクがあるところにバッテリーが収められている。ぱっと見はバイクと言うのも大きなポイントで、無音で走る姿を見るとみんな振り返っていた。
ダミー燃料タンクカバーを開けると、その下は防水されたストレージボックスとなっている。ちょうど充電器が収まるサイズであるが、充電器自体に振動対策がされていないので、積載して走るのはやめた方が良い。
ストレージボックスの底面となるバッテリカバーを開けると、二つのバッテリーパックが収まっている。単体で11.5kgとやや重いが取り外して充電することが可能だ。バッテリーには残電力を確認できる機能も備わっている。
TFTカラー液晶インストゥルメントパネルを採用。スマートフォンとの接続機能も備えている。写真はイグニッションキーをオンにした状態で、表示されているスタートボタンの長押しをすることで走り出す状態になる。
通常走行時の表示画面。速度表示を中央に配置し、そのまわりをブースト表示としており、ノーマル走行ではスロットル操作に応じて目盛が増えるのに対し、e-Boostボタンを押すと、最大目盛からはじまりブーストが作動している15秒間のカウントダウン表示となる。
インナーチューブ径φ41mmの正立フォークに100/80-17サイズのタイヤをセットする。ステリングアングルは左右35度ずつと広く、セパレートハンドルでありながらも取り回しがしやすい。
リアタイヤサイズは130/70-17。前後とも原付二種クラスに最適な細身のタイヤが採用されており、そのおかげでシャープで軽快なハンドリングを楽しむことができる。ABSも標準装備している。
フロントマスクやサイドカウルのパネルなどはNinja250と共通と思われる。シルバー/ブラックのツートーンカラーをベースにライムグリーンを差し色に用いていることで近未来感が伝わってくる。
ライダー側のシート高は785mmと低く抑えられている上、前方に向かってシートが細くシェイプされているために足つき性は良好。パッセンジャーを乗せてタンデムテストも行ったが、走行面に問題は無かった。
原付二種クラスでピンクナンバーが使われる。三角マークはナンバーステーにセットされていた。テールライトやウインカーはフルLEDタイプ。スポーティな印象を受けるシャープなデザインのテールセクションだ。
テスト車両にはオプション設定とされているオフボードチャージコネクター(1万9305円)が装備されており、私の場合はここから充電していた。なお、バッテリー充電器は3万8610円となっている。
ステップバーは後方高めにセットされており、スポーティなライディングポジションとなる。ヒールプレートもしっかりしており、コーナーリング時に体重をかけても問題ない。ミッションがないのでシフトチェンジレバーが無い。
駆動方式はチェーンドライブで無段階変速のシングルギア。リアサスペンションはプリロード調整機構式モノショックをリンクを介してスイングアームにセットしている。
セパレートハンドルだが垂れ角はきつくなく、スポーティでありながらリラックスしたポジションを得られる。左側のスイッチボックスには歩行に近い速度で前進、後退ができるウォークモードや、ライディングモードの切り替えスイッチが備わる。
右手側のスイッチボックスには「e-Boost」スイッチが備わっている。加速時に押すと一定時間高出力を得られる。スロットルは少量だが前側にも回転させることができるようになっており、ウォークモードで後退することができる。
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