掲載日:2022年06月07日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
GPX POPz 110
タイのGPXは新興メーカーでありながら、タイ国内での販売実績3位を誇るなど、近ごろめきめきとその頭角を現し、日本市場でも多くの車種をリリースしている。そのうちの一つであるPOPz110は、アンダーボーンフレームを持ついわゆる「スーパーカブルック」のマシンで、以前販売されていたPOPz125(ポップス125)の進化版後継モデルに当たる。前モデルからの変更点は、新たに110ccエンジンを搭載したことに加え、カラーリング、シート形状、マフラーサウンドなどが挙げられる。
一見するとPOPz110の外観はスーパーカブそっくり……と思ったが、よく見るとかなり違う。まずフォルムだが、スーパーカブは全体に丸みを帯びて柔らかな雰囲気なのに対して、POPz110はシャープで引き締まった雰囲気。レッグシールドもカブより少し小さく、シュッとしたイメージだ。ヘッドライトの位置もスーパーカブより少し低い場所にある。また、シートは最初からタンデム使用を前提としたロングタイプとなっている。
これらに加えてPOPz110の大きな特徴と言えるのが、名前のとおりポップで派手な色遣いのボディカラーを採用していることだ。今回お借りしたオレンジのほか、ビビッドなレッドやグレー、ブラック、グリーンという5色を展開している。レッグシールドにはイギリスのモッズ・カルチャーを意識したターゲットマークやユニオンジャックをモチーフとしたデザインがあしらわれるなど、遊び心もプラスされている。カラーリングやシート形状などから導かれるのは、スーパーカブがビジネス用途主体で歴史を築いてきたのに対し、POPz110は最初からレジャーバイクとして“乗る楽しみ”を主眼として造られたということ。もちろんPOPz110も実用性で引けを取らないと思うが、こちらはより乗って楽しめるバイクなんだよというメーカーからのメッセージが、設計の随所に盛り込まれていると感じる。
ちなみにキャストホイールとフロントディスクブレーキの採用は、スーパーカブでは2022年春に発売された最新モデルで実現したのに対し、POPzシリーズでは125ccの前モデルから採用しており、本家より導入が早かったことになる。車両をお借りしたGPX千葉のスタッフによると、すでにスーパーカブを持っている人が買い足す例が意外に多いらしく「カブのミーティングにあえていじめられに乗って行く(笑)」とのこと。実際はカブオーナーも興味津々で、質問攻めにされるというから面白い。
実車を目の前にすると、POPz110はスリムでとてもコンパクトだ。シート高は760mmで、スーパーカブ110よりも22mm高いが、気負わずに乗れる車格なので全く気にならない。ポジションはシートに腰をおろし、そのまま手を伸ばせばハンドルがあるというごく自然なものだ。
エンジンをかけると、「ストトトト……」とアイドリングでは軽い排気音。だが、少しスロットルをあおると「ドゥルン」と低めで迫力ある音が響く。「単なるビジネスバイクとは違うのだよ」と自己主張をしているようで、ちょっと期待させてくれる音だ。走り出すと、エンジンはかなり元気よく吹け上り、力強くパワフルで、110ccにしてなかなかの加速を見せてくれる。ロータリー式の4速ミッションではあるが、法定速度プラスアルファの領域まではスムーズに速度を乗せることができるので、流れの速いバイパス状の道路などを除き、ごく一般的な県道や1車線の国道などでは、車に置いて行かれることもなく普通に走ることができる。最高出力は公表されていないが、スーパーカブ110よりも少しパワフルな印象だ。シティランにおいては背筋がすっと伸びた状態で乗れて意外と視界が広いので、疲れが少なく、道路状況もよく把握できる。
興味深いのはリアサスで、レバーを動かすことによりワンタッチで1人乗り用と2人乗り用、それぞれに適した硬さに切り替えられるのだ。ロングシートの採用もそうだが、このあたりはタンデムが当たり前であるタイ製のバイクだな、と感じる。ソロで乗る場合でも、キャンプツーリングなど荷物が多い場合などには重宝するシステムだ。
基本的には街乗りをメインとするバイクだが、元気のいいエンジンとタンデム走行も気軽にできるというキャラクターなので、ふだんは通勤・通学の足として、週末はちょっとしたツーリングまで楽しめるという、マルチパーパスなマシンと言える。とにかく気軽に乗れて、走るだけで楽しい気分にさせてくれるのだ。ちなみに撮影&試乗中には「かっこいいバイクだね」「これカブじゃないよね? どこのバイク?」など、短時間で多くの人に話しかけられた。車体色のせいもあると思うが、それだけ注目度が高く目立つマシンである、ということは間違いないだろう。