掲載日:2019年12月17日 試乗インプレ・レビュー
写真/井上 演 取材・文/小松 男
VESPA LX125 i-GET
当時航空機製造をメインに手掛けていたピアジオから、スズメバチを意味するイタリア語であるVespa(以下ベスパ)というバイクが発表されたのは、今から73年前の1946年の事。初代モデルの登場後、排気量を引き上げたモデルや、バリエーションを増やしつつ60年代までに立て続けにニューモデルを生み出し続けたベスパは、第二次世界大戦の終焉を迎えた直後であり、日本、ドイツとともに敗戦国となったイタリアの復興を支えた先駆けとなったバイクでもあった。
1953年に公開された映画「ローマの休日」の劇中で、主人公を演じるオードリー・ヘプバーンが、ベスパでローマ市内を巡るシーンがあり、日本をはじめ世界中で注目を浴びるようになる。ここで紹介するLX125 i-GETは、そのベスパの血脈を現在へと繋げるモデルのひとつであり、初代モデルが登場したのは2005年。すでに14年が経過しており、その熟成具合を検証してゆきたいと思う。
1996年に登場したベスパETシリーズの後継モデルにあたるLXシリーズ。発売当初は2ストロークエンジンを搭載するLX50、4ストロークエンジンのLX125/150とラインアップされていたが、現在は4ストローク125ccエンジンのLX125 i-GETのみとなっている。
スチール製モノコックフレームにコイルスプリングとショックアブソーバーを備えた片持ちフロントフォークというベスパの伝統的な骨格に、ユーロ基準をクリアしたインジェクション仕様の125cc空冷3バルブシングルエンジンを組み合わせる。現行モデルではエンジンとシャーシ間のリンクが改善されており、振動を軽減し、より快適なライディングを得られる。そのようにパフォーマンスも優れたものであるし、追って詳しく記述するが、走りそのものもかなり上質なのだが、ベスパを求めるライダー層は、走りに関するポテンシャル云々の前に、まずデザインから入ることが多いと思う。それに対してもクラシカルな中にしっかりとしたベスパのアイデンティティが凝縮されている。
トラディショナルな丸型ヘッドライトを備え、有機的で緩やかなラインを描いたハンドルまわり、背面パネルまでもボディカラーと同色でペイントされたレッグシールド、その昔スペアタイヤが設置されていたことをイメージさせるサイドパネルなど、ベスパらしい懐かしさを感じさせつつも、モダンなデザインとなっており、これこそがLX125 i-GETの魅力なのだと思う。国産ブランドをはじめ世界中のバイクメーカーも、このようにレトロフィーチャースタイルのスクーターを手掛けてきたが、それらの物を一蹴してしまうような本物感がLX125 i-GETには備わっている。やはり長年培ってきたブランド力には敵わないのだ。
イグニッションキーをオンへとまわし、セルボタンを押してエンジンをかける。4ストロークシングルエンジンは、以前存在した2ストロークエンジン時代のベスパからすれば、かなり静かではあるが、心地の良い歯切れのよいサウンドを奏でる。スロットルを少しひねるだけで、軽々と車体を押し出す。この排気量の4ストロークエンジンは目覚ましい勢いで進化を続けており、排出ガス量を抑えつつ高いパフォーマンスを発揮するようになっている。タンデムもテストしたが、力不足は感じなかった。
ひとしきり走り回ってまず感じたのは、小型スクーター特有の軽快さを持ちながら、しっとりとしたキャラクターとなっていること。そして二つ目に、以前はもっと着座位置が高く、ハンドル位置が抑えられていると感じていたライディングポジションが、現行モデルではシートとハンドル位置の関係性がまとまっており、扱いやすくなっていたことだ。これらのポイントは、昔のベスパの乗り味を知っており、それをイメージしている人たちは驚くかもしれないし、ベスパ未経験者が初めて乗った時、これは良いバイクだと思えることだろう。クラシカルなスタイリングをしているが、良い意味で現代的な内容に纏められているのだ。
クラシックモデルにあった腰高なライディングポジションと、左手でガチャガチャと操作するハンドシフトチェンジは、スポーティなベスパというイメージを確立したものだったが、現在の進んだ技術の前では、そのような装備を施すことなく、スポーティでエレガントなスタイルを打ち出すことができるようになった。むしろこれは正常進化と呼べるものだ。なんといってもベスパ特有の高級感やお洒落さは、他にはまねのできないものである。
昨今のラインアップでは普通自動二輪免許区分のモデルが多くなり、そちらに目が行ってしまいがちだが、小型自動二輪免許区分であるLX125 i-GETは、スクーターの便利さ、そして気軽さを存分に楽しむことができる。今一度注目したいモデルなのだ。