ステムベアリングへのグリスアップ

掲載日:2017年01月14日 特集記事    

文・写真/田口勝己、栗田晃

登場車両:ホンダ エイプ100

スレッドコンパウンドなどカッパー系グリスのような雰囲気もあるが、ボール表面にはまったく粘り気がない。エイプは樹脂リテーナータイプなので球が落ちないのが良い。

ハンドリングの要であるステムシャフトとベアリング
グリス無し状況が続くと最悪のフィーリングに……

まっすぐ走っていても、前輪は路面の凹凸や傾きによって小刻みに左右に切れており、これを無意識に修正してスムーズに走行するために重要なのがステムベアリングだ。その状態をチェックする際、前輪が接地したままハンドルを切っても、車重の影響を受けて状態を正しく判断できない。フレーム下にジャッキを掛けて前輪を浮かせば少しは分かりやすくなるが、もっとも確実で明確なのは、フロントフォークを抜いてステム単体で左右に切ることだ。そんな大掛かりにやるなら、ステムを外してベアリングやレースを直接目視した方が手っ取り早いが、ハンドルを握る手で「ガクガク……」というフィーリングを体感すると、前輪が着地して走行している時にいかに不具合を捉えづらいかが理解できる。

ベアリングを保護しながら好調なハンドリングを維持するにはグリスアップが不可欠だ。ボールでもテーパーローラーでも、グリスがあれば球やローラーとレースの間の膜によってサビを防止し、潤滑を保ちフリクションロスを軽減できる。また極圧性によって路面からの突き上げなどによる衝撃も緩和できる。

ではこのエイプはどうか。前輪を浮かせてハンドルを切るだけで、カクカク……と連続的なクリック感があり、アンダーブラケットを抜いてみると下側のベアリングが泥水のような茶色いサビで覆われていた。最初はカッパーグリスを塗ったかな?と思ったのだが、指先で拭うと油分がない。そして洗浄したレースにはうっすらとボールの圧痕が確認できた。

ベアリングやレースのダメージは転倒やウイリーなどの外的要因だけでなく、グリス不足やステムナット締め付けトルクが原因となることもある。せっかくステムベアリングを交換しても、ステムナットの締め付けトルクが低すぎて、ボールとレース間のガタで再び傷つくこともある。ナットの締め付け方法はトルク管理や角度管理など機種によって異なり、エイプの場合はトップスレッドを25?Nmで締めた後に完全に緩めて3Nmで締め直す。3Nmは非常に低いトルクだが、トップブリッジ越しにステアリングステムナットを74?Nmで締め付ける。この状態でステアリングを操作して軽すぎたり重すぎる場合は再調整を行う。

今回は部品の準備の都合で洗浄とグリスアップを行ったが、グリスをたっぷり塗布してトップスレッドとステムナットの調整を入念に行うことで、分解前のカクカク……という手応えは明らかに軽減され、タイヤを装着した状態ではまったく違和感のないレベルまで改善できた。何はともあれグリスアップを定期的に行い、良好なハンドリングをキープしよう。

フロントフォークやトップブリッジを外して、ステムシャフト上部のトップスレッドナットを緩めればアンダーブラケットが外れる。リテーナーがなく、グリスを塗ったレースにボールを並べるタイプだと、ブラケットが下がった時点でボールが転げ落ちることが多いので、手を添えて慎重に下げていこう。

ボールレースに打痕を発見したら要交換

トップブリッジを外したら、ステム単体で左右にフルロックしてゴツゴツ感の有無を確認しよう。エイプのトップスレッドはシングルだが、2個のナットを重ねるタイプもある。

下側に比べれば、ステム上側のベアリングにはグリス感が残っている。全般的に劣化しているところを見ると、古いグリスを除去してからグリスアップしているようだ。レースにはうっすらと線状痕が見える。

エイプのステムベアリングは上下同じ部品を使用するが、上と下の程度の差が大きいので違和感がある。リテーナーがなくレースに直接球を並べる機種は、球の径や数が上下で異なる場合もある。

ヘッドパイプに残ったレースを洗浄する。コテコテに堆積したベアリングを取り除くと、ボールとレースは点で接触していることが分かる。だから転倒やウイリーの衝撃などでレースが凹むのだ。

点接触のボールベアリングに対して、テーパーローラーは線接触となり耐荷重性能が向上する。過去にレースを打ち替えた際に傾いて圧入していると、ボールやローラーとの当たり方にムラが出る。

ベアリングレースに打痕が付いた場合でも、ボールがダメージを受けている例は少ないようだ。ただしボール表面に赤サビが発生している時は使えない。パーツクリーナーで洗浄して確認しよう。

走行中に路面から受ける衝撃は主に前後方向から加わるため、打痕も前後方向に残ることが多い。このエイプの場合、爪先でも存在感がないほどごく薄い接触痕が全周にわたって残っていた。

以前のメンテナンスを何年前に行ったのか分からないが、潤滑性や極圧性が低下したグリスを新品にするだけで、不具合や不満が好転する場合がある。ボールとリテーナーの隙間にもしっかり押し込む。

下側も同様で、レース表面にグリスをたっぷり塗布してボールを置いたら、その上から再びグリスをこすりつける。ステム側のレース表面にも塗布してからステムをアンダーブラケットに挿入する。

ステムを右に切ってストッパーに当てて25Nmで締める。この時はかなり動きが渋いので、何度か左右に切ってからトップスレッドを完全に緩めて、改めて3Nmで締める。

ハンドルやトップブリッジ、メーターやライト周りを外す際は、ガソリンタンクの上に古いタオルケットや毛布を被せて、傷つきを防止しよう。ちょっとした気遣で作業のクオリティがアップする。

パーツリストを見ると、下側のレースは金属製のワッシャー⑥とゴム製のダストシール⑤を併用して組み付けることや、ステムパイプに圧入されるレース①とリテーナー付きボール②は上下共通パーツであることも分かる。





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