掲載日:2018年03月29日 特集記事
写真・文/田口勝己
記事提供/モトメンテナンス編集部
※この記事は『モトメンテナンス vol.126』に掲載された内容を再編集したものです
以前はモンキーだったので乗り味が相当違うが、50cc時代と比べて88ccになってからは発進加速が圧倒的に楽になったそうだ。ナンバーも黄色登録済み!!
社内の地下駐車場で放置され続けてきた、人気モデルの 2004年式リトルカブラ(Little CUBRA)。粘り強い交渉!? で、前オーナーから格安で譲り受けることに成功したのが新オーナーだ。過去にはモンキーカスタムを所有し、カスタム経験があったので、このリトルカブラのノーマルエンジンが「どれだけ遅いか!?」を身体で知っていた。「もっとよく走るようにメンテナンスできたら……。ボアアップやカスタムパーツを取り付けてお気に入りの一台に仕上げてみたいです」と新オーナー。
エンジンはスーパーカブなので「そこそこのパワーアップで十分です!!」との希望もあって、ノーマルヘッドのまま組み込める88ccボアアップキットとノーマルヘッド用のハイカムを組み込むことに決定。
今回、購入したボアアップキットとハイカムは、大阪のシフトアップ製。シフトアップは高品質で知られるエンジンパーツコンストラクターで、バイクいじりを趣味にする大人のライダーにファンが多い。
ボアアップ&ハイカム仕様にモディファイしたカブラに試乗すると、実にバランスが良いチューニングだと感じられた。それが試運転での第一印象だ。現時点ではマフラーやキャブはノーマルパーツのままだが、エアクリーナーケースだけは吸入エアー量の増大を目的に、クリーナーケースのエアーインレットパイプに穴加工を追加している。それでもノーマルマフラーのままなら、ノーマルキャブのジェットセッティングのままで、ほぼベスト!! おそらく抜けの良いマフラーに交換すれば、メインジェットが一気に10~15番程度は大きくなるのではないかと思う。
ピストンが大きくなったことで、キック始動時の踏み降ろしが重くなっているが、昔の4ミニチューンのようにケッチンが無いのは嬉しかった。これは明らかにデコンプ仕様のハイカムの恩恵だと思うが。この機能はチューンドエンジンにはありがたいものだろう。
① 今回組み込んだノーマルヘッド用88ccキットはシフトアップ製。同社キットのピストンリングは日本の「帝国」製を採用。信頼性はピカイチだ。
②/③ ノーマルヘッド対応のハイカムにはデコンプ機能が組み込まれている。キック始動時にケッチンでクランクが逆回転するとロッカーアームがカム山にのり上げ圧縮を抜き、ケッチンを回避する構造だ。
④ 組み換え後に圧縮圧力を測定すると良い。ややハイカムなのでオーバーラップが増えて実圧力は落ち気味になるが、88cc化によって挽回。15kg/cm2弱とハイコンプでイイ感じ!!
⑤ エンジンをバラしてからボルトを緩めようとすると緩みにくいことがあるため、エンジン搭載状態で関連ボルトはできる限りすべて「緩めておく」のが苦労しない秘訣!! これは必ず実行しよう。
⑥ クランクセンターキャップを緩めてTレンチかソケットレンチでクランクシャフトを回す。セルモーター付きエンジンはフライホイールカバーがキック専用エンジンと違ってキャプ付きなのだ。
⑦ 右ヘッドサイドカバー中央のボルトを緩めて左丸カバーを取り外し、フライホイールのマークのTマークと刻み線を合わせ、このときにカムスプロケのOマークがヘッドカバー側中央に来ていることを確認する。
⑧ カムスプロケのOマークがヘッドの頂点に来る位置でカムを固定する9mmボルトを抜き取る。次にカムスプロケットとチェーンを手前に引いて逃がし、スプロケを拭き取ってヘッドナット4個を取り外す。
ヘッドを締め付けるスタッドボルトのナットを緩めたらヘッドを抜き取れるが、前述したようにタペットキャップもバラシ前に緩めておこう。ヘッドを抜き取ったら燃焼室を確認。燃え方がやや濃い。
カムスプロケットのOマークが頂点になっていればカム山にロッカーアームが載り上げていないことになりロッカーシャフトはスーッと抜ける。ここではマグネットツールを利用した。
ロッカーシャフトを抜けばロッカーアームを取り外すことができる。この際はIN側、EX側のロッカーアームとシャフトをペアにして管理するのが一般的だが今回はロッカーアームを交換する。
ここまでの作業を行ったらデコンプ機能付きのハイカムをシリンダーヘッドに組み込む。デコンプカムの山の位置を合わせておくと後々作業性が良くなるのでハイカム説明書を確認しておこう。
このプレート中央のレバーにデコンプカムの突起が引っ掛かってケッチン防止になる。デコンプカム専用のロッカーアームを準備しながらロッカーシャフトで固定していく。ロッカー横にプレートが収まる。
デコンプレバープレートと専用ロッカーアームを同時に保持しながらロッカーシャフトを差し込む。同じ作業をIN/EX双方で行うとこのようになる。ロッカーアーム横にデコンプレバーがセットされる。
いよいよノーマルピストンとシリンダーの取り外し開始だ。シリンダーのカムチェントンネル内のガイドローラーを取り外したらプラハンで軽く叩いてピストンからシリンダーを浮かせて抜き取る。
ピストンピンクリップを抜き取る前に、フッ飛ばし防止でコンロッド周りやカムチェーン穴にウエスをしっかり押し込む。精密ドライバーのマイナスを利用してピストンピンクリップを取り外した。
紙製のシリンダーベースガスケットはスクレパーで剥がすが、これがなかなか剥がれない。そんなときにはガスケットリムーバースプレーがあると作業は楽々!! 固着ガスケットが浮いて簡単に剥がせる。
ガスケットリムーバースプレーにはデイトナ製を利用した。手元に無くてなかなかスクレパーで剥がれないときには防錆オイルスプレーを吹付け、しばらくしてから作業すると少しは剥がれやすい。
シリンダーベースガスケットをスクレパーで剥がしたらオイルストンで面出しを行う。ガスケットリムーバースプレーを利用していればガスケットの小さな張り付きも無くオイルストンも楽々だ。
取り外した50cc用のピストンと88ccになるφ52mmピストン。この大きさの違い、わかりますか? これだけ大きくなると平らなピストンでも高圧縮になってしまう。その回避でピストンは凹形状に。
ピストンリングを組み込むときには裏表があるので要注意。厚い2枚のリング面にTマークがある側が上向きになり、外周がシルバーの方をトップリングとして使う。オイルリングはバネを先に組み込む。
ピンクリップの片側にはバリが出ていることがあるのでバリはオイルストンで除去しよう。このバリを残すとクリップを組み込む際にスムーズにクリップを回すことができなくなる。
ピストンピンクリップを組み込む前にピストンピンがスムーズに抜き差しできるか確認しておこう。コンロッドにもピストンピンを単品で差し込みスムーズインできるか確認。クリップは片側にセット。
進行方向左側から組み立てたのでピストンピンクリップは右側だけに組み込み、左からピンを差し込みながらコンロッドと合体。ウエスでクリップを落さないように注意しながらクリップを取り付ける。
ピストンを挿入するときにはシリンダー内側にオイルを吹付ける。ピストンリングの合口向きは120度刻みで合口を移相させ、オイルリングはバネ合口に対して上下リングを反対側に10度ずつズラした。
工具ショップのストレートで購入してきたピストンリングコンプレッサー。ミニバイクには使い勝手良好だ。最大サイズの商品でΦ52mmピストンに対応できた。70mmボア前後用があれば、いいね~♪
ピストンリングの合口移相がズレないようにリングコンプレッサーを利用してピストンリングを縮めて指先で保持し、コンプレッサーの輪切り面にシリンダースリーブエンドを当ててスーッと挿入。
リングの合口が引っ掛かりそうなときにはピストンが倒れていないか確認しつつピストンの向きを整え挿入する。この際にビギナーは仲間に手伝ってもらうのが成功の秘訣だ。オイルリングは特に注意。
アイドルローラーを仮固定したらカムチェーンをシリンダー内に押し込みシリンダーヘッドを載せて4本のスタットボルトを仮締めする。オイルラインになる左下のナット部は銅ワッシャを利用。
ヘッドを載せる前にピストンはほぼ上死点付近にしておき、フライホイールのTマーク刻線とケース側刻線を合わせて厳密な上死点にする。このカムタイミングが4ストエンジンの頭脳だ。
クランクシャフトの上死点をキープしつつカムスプロケのOマークがヘッド頂上(左側)になるようにスプロケをチェーンに掛けて2本のボルト(頭9mm)でカムシャフトに締め付ける。
Oマークのヘッド側にV溝がある。フライホイールのTマークとカムスプロケのOマークが一致した状態でカムチェーンが張れていればカムタイミングはOK。カムスプロケはしっかり締め付けよう。
まずは20Nm程度の締め付けトルクでスタットボルトを締め付け、キックをゆっくり踏み降ろしてスムーズに回るか確認しよう。大丈夫なら各ボルトの締め付け忘れがないように確認&トルクチェック。
タペットクリアランスは吸排気ともに0.05mmのシックネスゲージが入って0.08mmは入らないように調整しよう。組み付け時のアジャストボルトとロックナットはユルユルにしておくと良い。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!