掲載日:2020年08月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
PEUGEOT DJANGO 150
プジョーは1898年にバイクを世に送り出しており、実は現存する世界最古のバイクメーカーでもある。今回取り上げたジャンゴは、プジョーが1950年代に販売していた伝説のスクーター「S55」「S57」にインスパイアされて復刻したネオレトロ調のスクーターだ。同じボディで50、125、150ccモデルをラインナップする(50ccモデルのみリアブレーキがドラム式など多少の違いがある)。
ジャンゴ150の特徴といえばいちばんに挙げられるのは、やはりデザインだろう。丸みを帯び、流麗な曲線を描く美しいボディラインと、随所に配されたメッキパーツが程よく調和し、ビンテージ感を高めている。ロー&ロングな車体は意外と大柄で、その存在感はデザインと相まって、街中で周囲の目を引き付けるものとなっている。要するに、おしゃれで目立つのである。
しかしこのジャンゴ150、ただデザインが美しいだけではない。ウインカーやテールランプにはLEDを採用し、メーターはアナログにデジタル液晶をプラスし、多くの情報を表示できる多機能タイプ。レッグシールド内側右のグローブボックスにはシガープラグタイプのアクセサリーソケットを備えている。また、シート下にはラゲッジスペース、ハンドル下にはコンビニフックも備えるなど、収納力も確保している。フロントのみではあるが、もちろんABSも装備。つまり、現代のコミューターに求められる実用的な装備を過不足なくきちんと持っているのである。
ジャンゴ150のシート高は770mm。ホンダのPCX150が764mmなのでスペック上はこのクラスでの一般的な高さといえる。ただ、シートが厚めで横幅のある形状のため、足つき性はあまりいい方ではないと感じる。ポジションはごく普通でハンドルも近すぎず遠すぎず、適度な位置にある。
信号待ちからのゼロスタートでは、初期の加速がちょっとスローに感じる。国産の150ccクラスのように弾かれたような機敏なダッシュ力ではなく、スピードが増すとともに徐々にモリモリとパワーが出てくるタイプのエンジンだ。同じジャンゴの125ccモデルと比べても、一般道で乗る分にはそれほど速くなった印象はない。しかしだからと言って遅くて使い勝手が悪いのかというと、決してそんなことはない。30~60km/hあたりのシティランでもっとも多用する速度域では、アクセルをクッと軽くひねるだけで力強い加速を見せてくれるので、自由自在に他の交通の間を泳ぐように走れるのだ。この走りがストレスフリーでかなり心地がいいのである。
走っていて気持ちがいいな、と感じるのは、乗り心地の良さとも大いに関係がありそうだ。ジャンゴ150のシートは厚めで足つき性が良くないと先に述べたが、その分座り心地は抜群で、まるでソファにでも座っているかのようにお尻がふわりと包み込まれる印象だ。4輪の世界ではよくヨーロッパ車のシートは出来がいい、なんて話を聞くが、まさにそれをバイクで体験できるのだ。
サスペンションも特に高級なパーツが使われている気配はないが、セッティングが上手いのか、路面のギャップで不快な突き上げを感じさせることがなく、うまく衝撃をいなしてくれる。4輪のプジョーはスポーティでしなやかな足回りを「猫足」と表現されたりするが、それに通じるしなやかさを持っていると感じた。
高速道路を走ってみると、大柄な車体としなやかな足回りのためか、150ccとは思えないほどのどっしりとした安定感がある。ただしパワーに関しては平地でギリギリ100km/h巡航ができるぐらいなので無理は禁物。90km/h程度でのんびりと走るのが良さそうだ。それにしても、125ccクラスに比べて行動範囲がぐっと広がるのが150ccクラスのいいところ。たとえば250ccクラスからの乗り換えなら、125でなく150を選んだ方が制約が少なく、今までに近いバイクライフが送れるはず。また、従来125ccクラスに乗っていた人も、任意保険の負担が増えるという面はあるにしろ、ジャンゴ150を手に入れれば「高速に乗れる」という大きな翼を得ることができるわけで、きっと新たな世界への扉が開くだろう。
加速自慢のスクーターが競い合うようにカリカリと走るのを横目に、優雅でスタイリッシュに颯爽と乗りこなす……ジャンゴ150は、そんなエレガントで余裕のバイクライフが似合う大人のマシンだ。