掲載日:2016年06月07日 トピックス
取材・文/西野 鉄兵(『アウトライダー』編集部)
400ccクルーザーは日本の伝統のカテゴリーと呼べるだろう。ハーレーダビッドソンやインディアンといったアメリカンスタイルを普通自動二輪免許でも乗れるよう、開発が進んでいった。1980年代前半にはヤマハのXV400スペシャル(のちにXV400ビラーゴ)やホンダのスティードなど、細身のチョッパー風ともいえるスタイリングが人気を博した。
今のどっしりとしたスタイルが流行するのは90年代半ばあたりからである。ヤマハからはXVS400ドラッグスターが96年にデビュー。2016年に20周年を迎えるドラッグスターの初代モデルだ(写真上)。一方、ホンダはスティードと並行し、重厚感のあるシャドウ400を97年にリリース。スズキはイントルーダー400を94年に発売し、96年にデスぺラード400シリーズへと移行する。カワサキはバルカン400を90~93年に発売し、95年からは「400」をネーミングから外し「バルカン」として2003年まで発売していた。
現在、400ccクルーザーカテゴリーの人気は、この30年ほどの歴史から見ると落ち着いてきている。カワサキは現行車がなく、スズキのイントルーダークラシック400とブルバード400は生産終了となった。現行モデルではヤマハのドラッグスター400とドラッグスタークラシック400、ホンダのシャドウクラシック〈400〉のみとなっている。
シェアでいうと、この長期インプレで使用しているドラッグスター400が抜きん出ているようだ。いずれも大柄でロー&ロングな傾向がある。街で走っている車両をパッと見てもどの車種なのか判別がつかない人も多いだろう(筆者もときどき間違えます)。こんなに似ているルックスをしたカテゴリーは、他にはあまり見られないものだ。
では、実際に比較を行なっていこう。今回は現行販売中のヤマハ・ドラッグスター400、ドラッグスタークラシック400、ホンダ・シャドウクラシック〈400〉と、生産は終了してしまったが新車でまだ購入ができるスズキのイントルーダークラシック400、ブルバード400の主要スペックを見ながら比較を行なっていく。
車種名 | ![]() ヤマハ ドラッグスター400 | ![]() ヤマハ ドラッグスタークラシック400 | ![]() ホンダ シャドウクラシック〈400〉 | ![]() スズキ イントルーダークラシック400 キャストホイール仕様もあり | ![]() スズキ ブルバード400 |
●全長/全幅/全高 | 2,340mm/840mm/1,065mm | 2,450mm/930mm/1,110mm | 2,510mm/920mm/1,125mm | 2,500mm/955mm/1,110mm | 2,420mm/890mm/1,105mm |
●シート高 | 660mm | 710mm | 660mm | 700mm | |
●軸間距離 | 1,610mm | 1,625mm | 1,640mm | 1,655mm | |
●最低地上高 | 140mm | 145mm | 130mm | 140mm | |
●車両重量 | 234kg | 247kg | 255kg | 275kg | 267kg |
●エンジン | 空冷・4ストローク・SOHC・2バルブ・V型2気筒 | 水冷・4ストローク・SOHC・3バルブ・V型2気筒 | 水冷・4ストローク・SOHC・4バルブ・V型2気筒 | ||
●総排気量 | 399cc | 398cc | 399cc | ||
●ボア(内径)×ストローク(行程) | 68.0mm×55.0mm | 64.0mm×62.0mm | 65.0mm×60.2mm | ||
●最高出力 | 22kW(30PS)/7,500rpm | 23kW(31PS)/7,000rpm | 24kW(33PS)/8,000rpm | ||
●最大トルク | 31N・m(3.2kgf・m)/6,250rpm | 33N・m(3.4kgf・m)/3,500rpm | 33N・m(3.4kgf・m)/6,000rpm | ||
●燃料タンク容量 | 15L | 14L | 15L | ||
●フレーム形式 | ダブルクレードル | ||||
●キャスター/トレール | 35°00′/153mm | 35°00′/145mm | 34°00′/161mm | 33°20′/141mm キャストホイール仕様 33°20′/138mm | 33°20′/141mm |
●タイヤサイズ(前/後) | 100/90-19M/C 57S(チューブタイプ)/ 170/80-15M/C 77S(チューブタイプ) | 130/90-16M/C 67S(チューブタイプ)/ 170/80-15M/C 77S(チューブタイプ) | 120/90-17M/C 64S(チューブタイヤ)/ 160/80-15M/C 74S(チューブタイヤ) | 130/90-16M/C 67H (キャストホイール仕様はチューブレス)/ 170/80-15M/C 77H (キャストホイール仕様はチューブレス) | 130/90-16M/C 67H(チューブレス)/ 170/80-15M/C 77H(チューブレス) |
●ブレーキ(前/後) | 油圧式シングルディスクブレーキ/機械式リーディングトレーリングドラムブレーキ | ||||
●駆動 | シャフトドライブ | ||||
●メーカー希望小売価格 | 78万1,920円 | 82万2,960円 | ソリッド 81万円/ ツートーン 84万2,400円 | 85万3,200円/ キャストホイール仕様 88万5,600円 | 86万4,000円 |
スペックを見てもかなり似通っていることが分かると思う。フレームはいずれもダブルクレードル。「クレードル」は揺りかごという意味で、エンジン下部に回るパイプが2本のものがダブルクレードルとなる。ネイキッドカテゴリーにも使われる、多く普及しているタイプだ。
ブレーキも前が油圧式シングルディスクで後ろが機械式リーディングトレーリングドラムという点で共通している。これも中型クラスのオートバイでは一般的で、クルーザーモデルのようにキビキビ走ることを主の目的としていない車種には充分だろう。
タンク容量も14~15Lで拮抗していて、ほとんど気にすることはないと思う。いずれも満タンにして200kmは無給油で走れるはずだ。
駆動はいずれもチェーンではなく、シャフトドライブで共通している。これは「クルーザーモデルならでは」と言える。シャフトドライブが採用されている点として、まずすっきりしたスタイリングで後輪周りが美しくなるということが考えられる。性能面でのメリットは、メンテナンス頻度がチェーンに比べ圧倒的に少なくてすむこと。チェーンと違い、シャフト内部でエンジンからの駆動を後輪へ伝達しているので、泥汚れなど外部からの影響を受けない。チェーンに比べるとダイレクトで駆動が伝わることも美点だ。デメリットは万が一壊れてしまった場合、チェーンに比べると高価なことが挙げられる。
排気量はほぼ400ccで共通といっていい。ポイントになるのは、ヤマハ車だけが空冷ということ。ラジエーターがない分、燃焼効率は他の水冷勢に負け、燃費も劣ることになる。ただ、クルーザーは見た目で選ぶ人が多い車種だと思う。ハーレーの主な車種同様、空冷車はラジエーターがない分、すっきりとしている。また水冷に比べて軽量化でき、パーツも少なく構造も簡単になるので、価格も抑えられるのだ。
注目すべきは出力特性。同じVツインエンジンでも乗り心地や鼓動感の違いを生むポイントにもなる。目立っているのがシャドウクラシック〈400〉の最大トルク発生域の回転数。他の車種が秒間6000回転以上で最大トルクを発揮するのに対し、3500回転で最大トルクを生む。低速から力強く感じることができる車種といえるだろう。
バルブの数も各社、ひとつずつ異なっている。一般的に少ないほど低回転域が得意で、多いほど高回転域型の特性になる。高速道路をロングツーリングするならヤマハ勢よりもスズキの2車種の方がエンジン形式的には分がありそうだ。
ドラッグスター400のインプレをこれまで行なってきて、400ccでは大柄だと思っていたが、このなかでは最小サイズだった。シャドウクラシック〈400〉やイントルーダークラシック400とは、全長に16cm以上の差がある。単体では分かりにくいが、実際に並べてみると大きく見える差だろう。
ペダルの位置はいずれもフォワードコントロールで脚を投げ出すかたちとなる。ただ、シート高やハンドル位置の差で、それぞれのポジションはだいぶ異なる。車両重量はドラッグスター400が最軽量で234kg、最重量のイントルーダークラシック400が275kg。その差は41kgもあるので、取り回しや軽快感(とくに街中など低速時の)は違いが出るだろう。
ただ、ポジションにしても、エンジン特性にしても、乗りやすさや好みは各々あるので、販売店などで試乗を行なってみるのが一番いい、と付け加えたい。
タイヤはヤマハ・ホンダ勢がスポークでチューブタイヤなのに対し、スズキ車はキャストホイールでチューブレスを採用しているモデルもある(上の写真は左がドラッグスター400の前輪・右がイントルーダークラシック〈キャストホイール仕様〉の前輪)。パンクしたとき、チューブレス車は即座に空気が抜けて走れなくなってしまうが、チューブレス車は幾分か走れる。そしてタイヤ交換もショップで行なってもらう場合、容易だ。
チューブタイヤのメリットは、スポークホイールがショックをキャストよりも吸収してくれるということと、パンクしてもタイヤの交換をせず、チューブの補修だけですむ場合があるということだろう。
タイヤの径の差は走りに影響する。小さいほど小回りが利き、大きいと直線での安定性が増す。後輪はいずれも15インチで同サイズだが、前輪はドラッグスター400が19インチと抜きん出て大きい。オフロード車の場合は大径なほど未舗装路の走破性が高くなるが、クルーザーにはあまり関係ないだろう。それよりもコーナー性能より直進安定性を優先させたと考えられる。ワインディングや街中では他者の方がヒラヒラと走れそうだ。
いろいろ比較してきたが、やはり似ているカテゴリーだと筆者は思う。筆者の周りで400ccクルーザーを乗っている仲間たちに「なぜその車種にしたのか」と尋ねてみたが、スタイリングが気に入ったとか、ホンダが好きだから、とかスペックとは関係のないことばかりだった。
シェアや歴史から考えるとドラッグスターシリーズは群を抜いていて、毎年、北海道・信州・九州の3会場で「スターミーティング」という公式ミーティングを開催しているほど。歴史や人気があれば、オプションパーツも純正・社外品ともに充実しているので、カスタムもしやすいだろう。それに中古車の玉数も多い。
でも、人気があれば「人とカブる」という面もある。それを嫌う人がいるのも事実。ブルバードのような独特なスタイリングは他車のクルーザー然としたルックスとは異なるものだ。
各社ともに、ルックスに力を入れているカテゴリーであると思うので、直感や好み、価格を優先して考えるのも悪くなさそうだ。性能面はいずれも熟成を重ねたモデルたちなので、決定的な欠点はない。もし、仮に筆者が一台購入することになったとしても、デザインや色の好み、思い描く最終的なカスタムの展望に近いものだったり、またがったときのフィット感など主観的な判断を優先して決めるだろう。
次回はこの長期インプレの最終回〈まとめ編〉を行ないます。
これまでドラッグスター400と過ごしてきて、よかったことと気になったことを記してきます!
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