掲載日:2015年07月30日 試乗インプレ・レビュー
レポート/和歌山 利宏 写真/吉見 雅幸 記事提供/ロードライダー編集部
※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『New Model Impression』を再編集したものです
バルカンSを目の前にして、正直に言って「華」がないと思った。
車両に注目すると、エンジンは並列2気筒で、車体構成は2010年型以前の従来型ER-6n/fを思わせる。ニンジャ650ベースだと考えると、お手軽な“とりあえずアメリカン”と言ったところに見えて、ワクワクしてくるものもなかったからだ。
ところが跨り、走り始めたら、どうだろう。出来上がりの良さと使えて楽しめる走りに、文句の“も”の字も出てこないではないか。当初のネガティブな印象はどこへやら、といった具合だったのである。
まず、跨ったときのフィット感が素晴らしい。実はこの国内仕様車は、ステップが3段階位置調整式になっており、最後部位置を標準としている。ハンドルバーは海外向けよりも44mm、ライダー側に引かれていて、さらに試乗車には、ストッパーを厚くしたオプションのカスタムシートが装着されていた。
おかげで、ライディングポジションは日本人向きに最適化され、多くのフォワードコントロールのアメリカンモデルのように、脚や腕が伸びきることがない。もちろん、足着き性も抜群で、身長161cmでも膝の曲がりに余裕を持たせて両踵ベッタリだ。ハンドルが手前に来たことで、最初はハンドルが狭く高めに感じられないでもなかったが、すぐに慣れるし、すると自然体そのものだ。
走り出しても跨ったときの心地良さが損なわれることはない。
ハンドリングは素直で、キャスターが寝たモデルにありがちな低速でのステアリングの切れ込みもない。ストレスなく普通に取り回せて、街乗りバイクとして楽しめる。
しかもエンジンは日常域向けにキャラクターが改められている。何しろ、吸気ポート形状、吸排気バルブタイミング、クランクマスなどにまで最適化の手が及んでいるのだ。
ニンジャより低中回転域が強化され、がっちりトルクが出てくる感じで、それにともない不等間隔のビート感も強くなっている。鼓動を味わいながら、街中で爽快にダッシュできるのだから、この面では意外なほどアメリカンっぽくもある。
バルカンSの魅力はそれだけでない。スポーツバイクとしても楽しむことができるのだ。
コーナリングも素直で、バンク角もアメリカンとしては大きめ。ワインディングを気持ち良く流せる。前輪径は18インチに大径化され、適度の大らかさもある。この大らかさとニンジャ譲りのスポーティさのサジ加減も絶妙で、ゆったりした気分で、爽快に楽しめるわけだ。
もちろん、この大らかさは車体ディメンションとのマッチングによって得られたものでもある。キャスター角は31度まで寝かされ、ホイールベースはニンジャよりも165mmも長い。ロー&ロングはスタイリングだけでなく、先の走りにもしっかり反映されている。
確かにエンジンの最高出力は、ニンジャよりも10ps低い。でも、上限まで引っ張ってパワーを引き出して走るキャラではないのだから、それをハンディと感じることはない。むしろ、低中回転域が強化されていることのメリットが大きいのである。
バルカンSに乗って僕は、1970年代後半期、北米市場向けに普通のロードバイクをアメリカンタイプに仕立てたモデルが多かった頃を思い出していた。普通のロードバイクであるニンジャをベースとし、快適かつスポーティに楽しめたからだ。
でも、このバルカンSはかつてのアメリカンもどきよりも、はるかに完成度が高く、アメリカンらしさが作り込まれている。
僕にかつてのバイクを思い出させたことは、バルカンSのネガかもしれないが、見方を変えると、そのことが大きな魅力でもあるのだろう。気負わずに乗れるアメリカンタイプの、普通のストリートバイクというわけである。スポーティでありながらも、アメリカ的な土壌に溶け込めて、日常の煩雑さから解放してくれるキャラクターなのである。
エンジンの基本はニンジャ650で、車体構成は従来型ER-6n/fに準じるが、ミドルクルーザーとして専用設計を受けている。キャスター角を寝かせ、前輪を18インチ化、ホイールベースは165mm長い1,575mm。試乗車はスクリーンやサドルバッグなどオプション品を装備していた