スズキ ブルバード M109R – アメリカの人気モータースポーツから生まれたマッシブモデル

スズキ ブルバード M109Rの試乗インプレッション

日本のストリートシーンを飛び越えた
モータースポーツカルチャーの申し子

M109Rを前にして、まずその大柄なボディに圧倒される。ロー&ロングなフォルムに加え、マッシブな横幅にやや面食らってしまうのだ。跨がってみると、幅広いシートもあってか、足ががに股気味に外に開く。イグニッションをスタートさせると、約1,800ccの排気量が生むすさまじいトルクが体を震わせる。水冷エンジンなのでシャープなフィーリングがあるかもと考えていたが、まるで空冷Vツインのような荒々しさが際立っていることに驚かされるばかりだ。ハンドルもかなり幅広で、ライディングポジションはしがみついているという表現がしっくりくるほど。逆輸入車という大前提ではあるが、なるほど日本人以上のサイズ感を想定した構造に、アメリカの薫りを感じ取ることができる。

走り出して最初に感じたのは、低速域でのパワフルかつクイックな走り出しと、重量級のボディを安定させる難しさだ。ロー、そして2速とあげるにつれ、強力なエンジンが生み出す出だしはかなりスポーティで、まるで背中を蹴飛ばされているかのよう。それでいて車重は350kg近くあるので、しばらくそのバランス取りにかなり気を使った。しかしそれも慣れで、クルーザーモデルらしく重心がかなり低く設定されていることから、コツを掴めば優れた直進安定性をすぐに体感できる。ストップ&ゴーが多い都心部では大体50～60km/hほどでの流れとなり、一般的なオートバイなら3速でちょうど良い速度感になるところ、このM109Rのエンジンだと2速でちょうど同じぐらいのスピードを出せるので、そのまま引っ張ってエンジンブレーキで減速させながら流れに合わせて走る感じになる。ただ、トルクそのものがかなり強力なので、急にスロットルを戻すと何かに衝突したかのようなスピードダウンに驚いてしまうことも。

コーナリングは、やはりかなり不得意分野のよう。ホイールベースの長さはもちろん、240mmという極太リアタイヤ、350kg近い車重、そしてビッグパワーを生むエンジンという組み合わせから、交差点で曲がる際はクリアするコース取りを大きめに意識せざるを得ない。それでも、ちょっと入り方がズレると相当に大回りになってしまう。東名や名神のような大型ハイウェイならあまり急なカーブはないが、首都高だとかなりコーナーがキツいところがあるので、うかつにスピードを出して飛び込むとかなりキモを冷やすことになりそうだ。

ひとしきり都心部を走った後、ハイウェイへと入っていく。この直線番長がもっとも得意とするフィールドでどこまでその性能の高さを感じさせてくれるのか……と、長いストレートシーンで次第に速度を上げていったのだが、3速で引っ張っただけで100km/hへと軽々達してしまった。そこからさらに4速まで入れてみたのだが、そのままスロットルを開けると法定速度域など軽く飛び越えてしまいそうな勢いだったため、そこで打ち止めとした。トランスミッションが5速という設定なのだが、一般道で5速を使用するケースはまず稀だろう。また、ギアレシオの設定もかなりクイックなものとされているので、一速ごとに引っ張って速度をあげ、わずかの時間でマシンが引き出せる最高速度に達することが目的であることが分かる。M109Rはスポーツクルーザーという冠を授けられてはいるが、改めて一般道を軽く流せるモデルなどではなく、ハイスピードを瞬間的に楽しむレーサーであることを実感させられた。ブレーキングに関しては、とりわけGSX-R1000にも装備されているラジアルマウントの4ポットキャリパーとφ310mmディスクローターが生むストッピングパワーが強大だ。なので、ハイスピード時にフロントブレーキだけかけると、大きなパワーを生んでいるリアがその制動力についていけず車体バランスを崩しかねない状態になることも。まずリアブレーキで減速させてから、フロントと合わせてしっかりブレーキングするというマナーが必要なモデルだと感じた。

想像以上の凶暴性に、ただただ驚かされるばかりのM109R。フルカウルのスーパースポーツとは違った趣のスポーツバイクで、日本のストリートシーンにおいてその能力を存分に引き出せるところがなかなか想像しがたいが、モータースポーツカルチャーが盛んなアメリカの薫りとともに走りたい人にうってつけのモデルと言えるかもしれない。