掲載日:2026年08月19日 フォトTOPICS
写真・文/小松 男


インディアン・モーターサイクルが2026年に迎える125周年。その節目に送り出されたのが「Chief Vintage Sturgis, SD Edition」だ。
このモデルを語るうえで外せないのが、その名前にも冠された「Sturgis(スタージス)」である。
サウスダコタ州スタージスで最初のモーターサイクル・ラリーが開催されたのは1938年。伝説的なモーターサイクルクラブによって企画された第1回には、9名のライダーを中心に約200名の観客が集まったという。
美しいブラックヒルズの景色を楽しみながら走り、レースを行い、そしてライダー同士が交流する。そんな小さな集まりが、やがて世界最大級のモーターサイクル・ラリーへと成長していく。
そして、その最初のイベントにはインディアン・モーターサイクルも参加していたのだった。

つまり「スタージス」という名前は、単なる開催地の名前ではない。アメリカンモーターサイクルカルチャーが大きく育っていった、その原点のひとつなのだ。
今回のChief Vintage Sturgis, SD Editionは、まさにその歴史へのオマージュである。つまり1938年当時のライダーたち、そして彼らがバイクに注いだ情熱を現代に蘇らせるためのスペシャルモデルなのである。

ベースとなるChief Vintageそのものが、現在のインディアン・モーターサイクルのなかでも、とりわけヘリテージ感の強いモデルだ。
そこにスタージスの歴史を重ねたのだから、スタイルは当然ながら濃い。
象徴的なのが、クラシックなIndian Motorcycle RedとCreamによるツートーンペイントという1930年代のインディアンを想起させるカラーリングで、マルチカラーのヘッドドレスロゴが組み合わされる。
さらにサイドプレートには「56」の数字。これは当時、サウスダコタ州スタージスでレーサーたちがレースバイクに手描きしていたナンバーへのオマージュなのだという。
スカート・フェンダー、イルミネーション・ヘッドドレス、ワイヤースポークホイール、ヴィンテージ・エスプレッソ・ソロシート、ヴィンテージ・ハンドルバー……。
現代のバイクであるのに、見れば見るほど、どこか遠い時代からタイムスリップしてきたような雰囲気がある。

もちろん、その中身まで懐古趣味に振り切っているわけではない。
搭載されるのは156Nmの最大トルクを発揮する空冷Thunderstroke 116 Vツイン。ライディングモードは「ツアー」「スタンダード」「スポーツ」の3種類を備え、4インチの円形タッチスクリーンにはRIDE COMMANDシステムを搭載する。
つまり、見た目は徹底的にヘリテージ。しかし走りの部分では、現代のインディアンとしてきちんと最新のパフォーマンスを持っている。
この「古き良きアメリカン」をそのまま再現するのではなく、現代の技術で走らせるというバランス感覚こそ、このモデルの面白さだろう。

そして、このバイクを特別な存在にしている最大の理由が、その生産台数だ。
世界限定125台。
インディアン・モーターサイクルの125周年を記念して、125台までのシリアルナンバーバッジが与えられる。そして、そのうち日本に導入されるのは、たった5台である。
「限定車」と聞けば、ある程度の台数が用意されるケースも珍しくない。しかし5台となると話は別だ。

全国のインディアン・モーターサイクル正規ディーラーを回ったところで、偶然実車に出会える可能性は極めて低い。ましてや街中を走っている姿を見るとなれば、さらに難しいだろう。
しかも販売方法は通常販売ではなく、抽選販売となる。
2026年9月30日までに専用Webフォームから事前登録し、その登録者のなかから10月中旬以降に抽選。当選者には指定または最寄りの正規ディーラーから連絡が入る。車両の入荷予定は11月だ。

価格は398万円。希少性まで含めて考えれば、その意味は単なる価格以上に大きい。むしろ、インディアン125年の節目に、スタージスというアメリカンモーターサイクル文化の聖地をテーマにしたモデルを所有できる機会そのものが、極めて希少なのである。

こういうバイクを見ると、つい「コレクターズアイテム」という言葉が頭をよぎる。
もちろん、世界125台、日本5台という希少性を考えれば、大切に保管したくなる気持ちはよく分かる。シリアルナンバー入りの限定モデルなのだから、将来的な価値を期待する人がいても不思議ではない。
だが、もしこのバイクに当選したなら、個人的にはぜひ乗ってほしいと思う。

スタージスの原点は、ガラスケースのなかに飾られたオートバイではないからだ。
走ること。
レースをすること。
仲間と集まり、バイクについて語り、また走り出すこと。
1938年に9名のライダーから始まった小さな集まりが、世界的なモーターサイクル・ラリーへと成長した背景には、そんなバイクを「使う」文化があったはずだ。
だからこそ、このChief Vintage Sturgis, SD Editionも、ガレージの一番いい場所に置いて眺めるだけでは少しもったいない。
週末のツーリングに連れ出し、ワインディングを走り、街を流し、時には遠くまで旅をする。
しっかりと陽の光を浴びさせ、走り終えたらガレージに戻して眺める。その繰り返しこそ、このバイクには似合う。
そして、そんな姿で走っているところを誰かが見たとき、「あれ、何だ?」となる。それでいい。
なにしろ、日本に5台しかないのだから。

一生のうちに一度出会えるかどうか。まして自分のガレージに迎え入れられるかどうかは、誰にも分からない。
だから、少しでも気になるのなら応募してみる価値はある。
どうせ5台。倍率がどれほどになるかは分からない。
でも、応募しなければ絶対に当たらない。
2026年、インディアン・モーターサイクル125年の節目に現れた、スタージスの名を冠する特別なChief Vintage。
これは「買えるかどうか」を悩む前に、まず手を挙げてみるべき一台なのかもしれない。









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