掲載日:2026年08月08日 フォトTOPICS
取材協力/MV Agusta 写真・文/小松 男

2026年4月、MVアグスタの日本正規輸入代理店が、KTMグループ体制からコシダテックへと移った。全国24店舗のライコランドやBMWモトラッド正規ディーラー6店舗を運営し、自動車・半導体・IoT/AIソリューションまで手がける総合商社が、なぜプレミアムモーターサイクルブランドの舵取りを引き受けたのか。
その答えはシンプルだ。コシダテックには、すでに二輪の販売網とアフターサービスの基盤がある。それは「買いたくても買えない」「窓口がわからない」と迷子になっていたユーザーにとって、何よりの安心材料になる。新設された株式会社オートグローバルコシダを中心に、ディーラーとサービスパートナーの体制は旧14法人から新15法人へと再編され、空白エリアの開拓も視野に入っている。
プレミアムブランドの再起動に必要なのは、むしろこうした地に足のついた再構築なのだろう。

JR山手線において最も新しく、東京を代表する玄関口として整備が続く高輪ゲートウェイ駅目の前に誕生した「Motorcycle Art Gallery」。2026年8月9日まで開かれ、6台のMVアグスタが展示される。

会場には世界限定500台となるLXP ORIOLIも展示。アドベンチャースタイルのタフな佇まいと、細部まで作り込まれたディテールが来場者の目を引いていた。

漆黒のボディが際立つスーパースポーツモデル、F3-RRも用意された。彫刻的なフォルムそのものが、MVアグスタというブランドの美意識を雄弁に物語っている。なおレースベースモデルのオーダーも受け付ける準備をしているとのこと。
登壇したアジア・中東地域統括責任者マクシミリアン・コール氏の説明からは、MVアグスタがここ数年でモノづくりの現場そのものを変えてきたことが見えてきた。
象徴となるのが、日本発の“KAIZEN”だ。開発から生産、アフターフォローまで、その考え方を各工程に取り入れた結果、生産効率は76.4%向上。初期不具合は71.5%減少し、新車保証も3年から5年へと延長されたという。
コール氏は、「MVアグスタは量で勝負するのではなく、質を追求する。KAIZENによって、決定の早さや柔軟性も増した」と説明する。

コシダテックグループが手掛ける事業は自動車関連から半導体、IoT・AI、モバイルセールス、抗菌剤事業まで多角的で、中でもモーターサイクル事業も力を入れており、MVアグスタを支える土台となっている。

プレゼンテーションに臨むMV Agusta Motor S.p.A.アジア・中東地域統括責任者、マクシミリアン・コール氏。品質改革とブランド哲学について、自らの言葉で語った。
つまり、単純に「良いバイクを作る」という話ではない。良いものを安定して作り、届け、所有してもらう。その一連のプロセスそのものを見直したということだ。パートナーとなるサプライヤーにも恵まれ、パーツの安定供給が実現したことで、信頼性も大きく引き上げられたという。
その先に掲げるブランド哲学が“BEYOND PERFORMANCE(ビヨンドパフォーマンス)”だ。性能はあくまで出発点。その先にあるデザインや扱いやすさ、そして所有する喜びまで含めて、MVアグスタというブランドの価値を考える。
これは、かつてのMVアグスタが持っていた「速く、美しく、特別である」というイメージを捨てるのではない。むしろ、その価値を確実にユーザーへ届けるための土台を整える、ということなのだろう。
ちなみに、レースシーンへの復帰については「現段階で進めていることではない」としながらも、可能性そのものは否定しなかった。いまMVアグスタが優先しているのは、あくまで生産体制を徹底すること。華やかな未来を語る前に、まず足元を固める。その現実的な優先順位も、今回の話から感じ取ることができた。

説明のために用意されたスライドに「KAIZEN APPROACH」の文字が浮かぶ。日本発の改善手法を製造現場に取り入れたことが、生産効率76.4%向上という数字に結実している。

2026年3月には、世界最大の国際輸送・物流会社グループDHLとパートナーシップを結んでいる。これにより、従来以上に車両やパーツなどの安定した輸送を行うことができ、その結果、既存オーナーの安心にもつながっていく。
一方、株式会社オートグローバルコシダ代表取締役社長・外山和也氏の話からは、より日本市場に近いところでの現実が浮かび上がった。
「国内における新規登録台数は、2023年以降減少している。しかし、グローバルマーケットでは伸びている」
決して景気のいい話だけではない。だからこそ、その差を埋めるために販売網を再構築し、認知を広げていく。そして2030年には年間200台の登録を目指すという、具体的な目標も示された。
都合のいい数字だけを並べるのではなく、現在の苦戦を正直に認めたうえで、そこからどう巻き返していくのかを示す。今回の発表で印象的だったのは、むしろこの姿勢だった。

テーラーメイドにより地球上に一台の特別なモデルを作ることができる「SARTORIA MECCANICA」サービス。ESSENZIALEからICONICOまで、無限に近いカスタマイズの可能性を示すオーダーメイドプログラムだ。ただ年間受注台数は6~7台とハードルは高い。

2025年のEICMAで発表された新型「5気筒クアドラート」エンジンの解説スライド。850〜1150ccの可変排気量で240PS超、単体重量はわずか60kgというコンパクト設計。ネイキッドやツーリングモデルに採用予定。
外山氏が強調したのは、「所有する喜び」「圧倒的な希少性」「比類なきステータスホルダー」というMVアグスタならではの価値である。限定車や希少モデルについても、イタリア本社と連携しながら積極的に確保していく方針だという。
年間200台という数字だけを見れば、大量販売とはほど遠い。しかし、そもそもMVアグスタは、街にあふれることで価値を高めるブランドではない。希少性そのものを価値に変えながら、所有することの意味をどう再構築していくのか。今回示された数字は、その方向性をむしろ端的に表しているようにも思える。

株式会社オートグローバルコシダ代表取締役社長・外山和也氏。国内市場の現状と今後の販売網再構築について、飾らない言葉で語りかけた。

新規登録台数の推移を示すグラフを背に説明する外山氏。2023年以降の落ち込みという現実を隠さず提示したうえで、2030年に向けた巻き返しの道筋を語った。
MVアグスタと聞けば、航空機やヘリコプター、ボートまで手がける名門一族のプレミアムブランド、あるいは往年のロードレース世界選手権で通算270勝・37タイトルを積み上げた無敵の歴史を思い浮かべる人も多いだろう。
だが、筆者にとってのMVアグスタは、何よりもまずマッシモ・タンブリーニが手がけた「F4」の登場だった。
あの一台が世に出た衝撃こそ、このブランドの名を世界中に轟かせた瞬間だったと、今も思っている。
経営面での紆余曲折を経て、MVアグスタは独立企業として再び自分の足で歩き出した。創業時から積み重ねてきた歴史と独自の美学に、コシダテックという新しいパートナーが加わったことで、日本市場にもようやく本腰を入れた展開が始まる。
数字と正直に向き合いながら、一台一台、丁寧なモノづくりで応えていく。
その先にどんな体験が待っているのかを判断するのは、最終的にはユーザー自身だ。
だからこそ、この新体制がこれから積み重ねていく一つひとつの実績を、楽しみに、そして少し厳しい目で見届けていきたい。








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