スズキ GSX400FW(1983)

掲載日:2014年03月14日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

SUZUKI GSX400FW(1983)
強烈なハイテク指向の’80年代前期に
スズキ初の水冷4スト・マルチとして登場したGSX400FWは、ウエルバランスの先駆車だった。

レプリカの影に隠れた秀作

レーサーレプリカ全盛期へ向けてハイテク満載のバイクが矢継ぎ早にデビューしたのが1980年代前期だ。水冷DOHC 4バルブエンジン、前輪16インチ化、アンチノーズダイブ機構、リンク式リヤサスペンションなどがその代表例。

今回紹介する、’83年3月発売のGSX400FWもまさにハイテク満載の作り込みだった。ホンダとヤマハを中心に各社が販売シェア争いを激しく繰り広げる中で生まれた、良質感溢れるミドルスポーツ車だ。

そのメーカーのスズキは、4ストエンジンで日本の4社における最後発というハンデをDOHC 2バルブのGSシリーズで乗り越え、次作では独自の燃焼室を持つDOHS 4バルブのGSXシリーズで他社にそのアドバンテージを見せつけた。そして次の入魂の作が、スズキ初の水冷4気筒エンジンを持つGSX400FWだったのだ。同年にデビューした弟分のGS250FWは同スタイルに250cc量産車として世界初の水冷DOHC4気筒を採用。スズキの4スト戦略への意気込みは実に熱かった。

GSX400FWは、どっしりと落ち着いた走行感覚に加え、滑らかな回転フィールが大きな魅力だった初期型に対して、’84年型ではTSCC(2渦流燃焼室)という理想的な燃焼方式をさらに進化させたニューTSCCをこのエンジンに採用。新作はシリンダーヘッドを理論上最適とされる真円化しつつ、圧縮比もアップした。

また、小径スパークプラグの採用でスペース確保が可能となったり、大径バルブを採用して吸排気効率を大幅に改善。ちなみにバルブ径はインレット側が19から21mmへ。アウトレット側は17から18mmに拡大された。

さらにコンロッドやクランクシャフトの軽量化、ピストンリングの薄肉化などでフリクションロスを低減。キャブレターはひとつのキャブでふたつのシリンダーをまかなう2バレル式ツインだが、既述の改良が進んだことによって、最高出力は50馬力から一気に59馬力へアップした。

これは’83年デビューのホンダCBR400F(空冷58馬力)、ヤマハXJ400Z-S(水冷55馬力)に対向するためで、’80年代後期に向ける馬力競争激化の序章でもあった。

GSX400FWは高剛性を約束する角断面パイプ(高張力鋼管採用のL-BOX構造)によるダブルクレードル型フレームを採用。スズキは量産車としては世界初となるアルミフレームのRG250Γが’83年にデビューしてビッグヒットを飛ばしたこともあってフレーム作りのトレンドは一気に角形パイプへシフトしたのだ。フレームカラーも従来の黒一辺倒からシルバーなど個性を際立たせる配色へと変化した。

ブレーキはフロントにきっちりした効きの対向ピストン式を採用。ホイールは前輪16インチ。当時は前輪の小径化によるクイックな操安性とタイヤ接地面拡大が主目的だったが、一方でタイヤの接地長と接地幅の比率が滑り出したタイヤのコントロール性を大きく左右する事実をまだ把握していない時代で、トリッキーな16インチホイールは’80年代後期には17インチホイールへとシフトした。 フロントフォークにはアンチノーズダイブ機構ANDFを左右にセット。リヤサスはスズキ独自のフルフローター式を採用した。スプリングイニシャル調整はリヤシート左下のダイヤルで遠隔操作できるリモート・コントロール・プリロード(=RCPL)を装備。このクラスでは異例といえる高級な装備であった。

’84年にアルミフレームに水冷4気筒400ccのGSX-Rが鮮烈デビューを果たし、2スト250のRG250Γとともに、スズキは強い前傾姿勢のレーサーレプリカ路線へと傾注。一方、その流れの中で大人しい外観のGSX400FWの存在感はいまひとつ及ばなかった。

ちなみに同じエンジンで最高出力・最大トルクだけではなく、ギヤレシオ、二次減速比、ホイール形状にホイールサイズも同じ。しかし、フレーム形状とその素材の違いによって乾燥重量はGSX-Rの152kgに対してGSX400FWは178kg。26kgもの重量差があったのだ。だが、カタログで当時のスズキワークスライダーだったフランコ・ウンチーニが語るように、乗り心地などを含めたトータルバランスで侮れないのが、このGSX400FWだったのである。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

スズキワークスライダーだったイタリアン・ライダー、フランコ・ウンチーニ(スズキRGΓを駆り、’82年のGP500クラスチャンピオンとなった。前年もマルコ・ルッキネリがチャンプを獲りスズキが連覇した)が、GSX400FWを絶賛した。これは今もカタログによく使われるパターンだが、レプリカ全盛時代がやって来なければもっと評価されていたに違いないバイクだった

特筆すべきは滑らかな回転フィール。しなやかに動くフルフローター式リヤサスペンション、優れた空力特性を持つカウルなどで、同クラスのライバルたちよりも明確にツーリング性能でアドバンテージを誇っていた。アルミ鍛造のセパレートハンドルは絞り角と垂れ角が、ともにやや大きめだったのも特徴。ハンドルの切れ角はGSX-Rと同じ左右30度で最小回転半径も同じ3.3m

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