『ツーリングのつぼ』

キャンドルランタン(3)

掲載日:2012年05月29日 タメになるショートコラム集ツーリングのつぼ    

Text/Kosuke KAWAI

ローソクは無音なのもうれしい。たき火と同じように、時々倒れそうな芯を養生してあげると長持ちするので、いい暇つぶしにもなる。私のような熟練者になれば「ローソク一本が終わったから寝る」とか、時計代わりにも使える。長旅の夜は、いつも長くてヒマなのだ。

年に数回ある無風の夜には、食後のお茶を沸かし終えてバーナーのノズルを閉めれば、そのあと何の音もしない。音がないと、荒野では昆虫や野生動物が集まってくるのが体感できる。そんな時、ローソクと短波ラジオを消してテントから顔を出すと、視界にはまったく人工の光が見当たらず、見上げると満天の星空だったりする。鈍い私にでさえ、見えなくても良いモノまでうっかり見えてしまいそうだ。うらめしやと言われても言葉が分からないかもしれず、これが宗教の始まりなのだろうか。

ローソクの欠点は風に弱いことがある。それはアルミフォイルで容器ごと囲って風防にすれば解決する。光を反射する素材を使えば明るさも倍増するので便利だ。風防を少し厚めのアルミで作ればゴトクにもなり、シェラカップを乗せて保温することもできる。旅には、なるべく複数の使い方ができる道具を持参すると便利だ。

気温が高いと勝手に溶けるという欠点もある。曲がるだけならまだしも、溶けたロウが繊維に付着すると溶け込んでしまう。そのため容器に溜まったロウがこぼれないようにフタが必要なのだが、たいていフタが固着して開かなくなる。

明かりをめざして虫が寄ってくることもある。大きな蛾だと溶けたロウに入っても羽をばたつかせ、あたり一面にロウを飛び散らせることもある。虫が一匹や二匹なら風情があるかもしれないが、カゲロウのような羽虫が地平線の彼方から無数にやってくる時には、度量の大きさが試される。その境遇を悲惨だととらえるか、それとも大自然に抱かれていると考えるのか。このあたりが長旅を好むライダーと、そうでないライダーとの境目かもしれない。

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