『バイク乗りの勘所』

想像力が事故を防ぐ

掲載日:2012年08月06日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

オートバイによる山道での重大事故が後を絶たない。スリップダウンやオーバーランによる自損事故、対向車(オートバイを含む)との正面衝突、脇道から出てきたクルマへの側面衝突などが主なものだ。事故件数自体は、1980~90年代の、いわゆるオートバイブームのころより少ないとはいえ、死亡や重傷に至る事故の割合は増えているようだ。そうなった原因はいくつか考えられるが、根本的なところに、ライダーの “想像力の欠如” があるのではないだろうか。

例えば、ハイスピードで左のブラインドコーナーに入って、道路のイン側に停まっているクルマを発見し、それを避けるためにマシンを起こし、センターラインを超えたとする。たいていはそれで回避できるが、それを “何ともなかった” 経験のひとつとして積み上げていくのか、運悪く対向車が来ていれば衝突したかもしれない…と想像し、今回は “たまたま難を免れた” 一例として肝に銘じるのか。その違いが(大げさではなく)ライダーの生死を分けるのである。

だれでも、乗車中に “ひやっ” とした経験はあるはずだし、中には転倒や軽度の事故に遭った人もいるだろう。大切なのは、その経験を、どう生かすかである。ひやっとしたときの状況(自分の態勢と速度、相手の向きと動きなど)を忘れず、乗車中に反芻していれば、その経験と、今、自分を取り巻く状況を比較することによって、上に書いた “想像” の精度や確度を高めることができる。そうすれば、大丈夫と思っていた状況に潜む危険の数々に気がつくはずだ。

そうした “状況” と合わせて、転倒や事故に遭ったときの “状態” (宙を舞う無重力感、自分の意志ではどうすることもできない無力感、何かにぶつかったときの衝撃力、負傷時の痛み、精神的・経済的損失など)を思い出し、今、自分がしているのが、そうしたリスクを抱えた行為だと認識する必要もある。そうすれば、上に書いた “想像” が、より具体的なものになる。必要なのは、想像をたくましくし、事故につながるわずかな可能性をも見過ごさないことである。

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