『バイク乗りの勘所』

暖機に続き、それとよく似た慣らしの話

掲載日:2011年12月19日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

前回、暖機の話をした。あの原稿を書いていて、慣らしもまた、ロングスパンの暖機のようなものだと気がついた。暖機の目的が、普通に走っている状態に近づけることなら、慣らしの目的は、普通に走れる状態に近づけることである。そこに達するまでの間、急加速、急減速、高回転、高速度を避けるという点でも、慣らしと暖機は似ている。そして、アイドリング放置が良くないのと同様、単なる低回転・低速走行では慣らしにならない。

話をわかりやすくするために、フロントフォークを例にとる。ストロークが 100mm あったとして、ゆっくり走っているときに 50mm 使うとする。この設定では、どんなに走っても、アタリがつくのは 50mm の部分だけであり、残る 50mm はアタリがつかないまま、走行距離だけ伸びる。そして、慣らし運転終了の距離数に達し、普通の走りを始めたとき、まったくアタリのついていない部分にいきなり高荷重がかかることになる。

エンジン回転数の上限を、新車からの走行距離が増えるに従って徐々に高めていくのは、それなりの効果があり、安全性の面でも好ましいことだが、これだって、昨日まで 5,000rpm だった上限を、いきなりなくしていいわけではない。要は “急” のつく走りと “過” のつく運転を避け、段数の少ない階段状ではなく、なめらかな坂道のように、普通の(ときには高回転、高荷重、高速走行もするだろう)走りに向かって徐々に登っていくのが望ましい。

高速道路を淡々と走って距離を稼ぐなどというのは、エンジンの特定部分の慣らしにはなっても、ミッションやシフターの慣らしにはならないし、前後サスペンションも特定のストローク域にしかアタリがつかない。新車の慣らしはもちろん、どこかをオーバーホールしたあとの慣らしは、初期の段階では暖機と同じく高回転と極端な低回転を避ける必要があるが、最後のほうでは普通の走りに近い状態で、“急” と “過” を避ける程度で充分である。

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