沈黙の巨人が動いた日──Brembo×CFMOTO、電撃パートナーシップの深層を読む

掲載日:2026年07月16日 フォトTOPICS    

写真・文/小松 男

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2026年7月8日、中国・杭州で交わされた一本の契約が、世界中のバイク好きをざわつかせた。相手はあのBrembo。ブレーキの世界で"宇宙一"と称される名門が、中国メーカーCFMOTOと長期的な戦略パートナーシップを結んだのである。私はかつてベルガモの本社を訪れ、アルベルト・ボンバッセイ氏にも直接話を聞いたことがあるが、Bremboが、今CFMOTOと手を組む理由とは何か。公式発表されたリリースを読み解きながら、その裏側を考察する。

独り勝ちに見えたブランドに、
静かに忍び寄る足元の陰り

まず整理しておきたいのは、Bremboが決して「困っているから中国(CFMOTO)に頼った」という単純な話ではないということだ。とはいえ、数字を見れば同社が置かれた環境が一筋縄ではいかないことも見えてくる。

2025年、Bremboグループの二輪分野の売上は伸び悩んでいた。第1四半期には前年同期比で二桁のマイナスを記録し、主力である四輪(自動車)事業も、欧州や北米の需要低迷、地政学リスクの影響を受けて苦戦を強いられていた。一方で好調だったのが、レーシング分野とアフターマーケット事業。とりわけレーシング部門は、サスペンションの名門Öhlinsを買収したことで大きく数字を押し上げている。

つまりBremboは今、四輪という"本業"が世界的な自動車不況の煽りを受ける中で、二輪・レーシング・アフターマーケットという複数の柱を強化することで全体のバランスを取ろうとしている局面にある。そんな中で急成長を続ける二輪市場、それも中国という巨大なマーケットに、既存のBybreやJ.Juanといったブランドを通じて食い込んでいくことは、極めて理にかなった一手だ。

一方CFMOTOはここ数年、世界的な二輪市場において異例の成長を続けているメーカーだ。2025年の年間売上高は前年比31.3%増となり、二輪の世界販売台数も25万台を突破。欧州で40%増、北米では48%増という伸びを記録している。すでに100カ国以上に製品を輸出し、9000を超える正規販売網を築き上げてきた。

Bremboにとってこの成長スピードは魅力的に映ったはずだ。しかも両社は今回が初対面ではなく、すでに17年にわたって部品供給の関係を続けてきた間柄でもある。長年の信頼関係の土台があったからこそ、単なる部品売買を超えた"共同開発"という一歩を踏み出せたのだろう。

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Pierer Mobility危機が炙り出した、
ねじれた力関係の実像

もう一つ、今回の提携を読み解く上で欠かせないのが、CFMOTOと当時のPierer Mobility(KTMなどを傘下に持つオーストリアのモビリティグループ。現・Bajaj Mobility AG)の関係だ。実はこれが、かなりねじれた構造になっているのだ。

まず製造の面では、CFMOTOはPierer Mobility側を支える立場だ。2013年頃から中国市場向けの小排気量モデルの生産を担い、2017年からは杭州の合弁工場でミドルクラスの主力モデルまで生産委託を受けてきた。Pierer Mobilityのミドルクラス戦略は、かなりの部分をCFMOTOの生産力に依存していると言っていい。

資本の面でも、CFMOTOはPierer Mobilityの少数株主であり、2024年後半に同グループが深刻な経営危機に陥った際には、Bajaj Autoと並んで再建資金の出し手候補としてCFMOTOの名前が挙がったほどだ。

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一方で、Pierer MobilityがサポートしていたのはCFMOTOの販売の面である。2023年1月から2025年5月末まで、Pierer Mobilityがドイツ・オーストリア・スイス・スペイン・英国の欧州5カ国で、CFMOTOブランド車の販売代理店業務を請け負っていた。なお、2025年5月末に打ち切られたのは、あくまでこの欧州5カ国における小売・代理店契約だけであり、中国での生産委託や資本関係はそのまま続いている。

つまりCFMOTOが失ったのは「後ろ盾」といったものではなく、欧州の店頭という"間借りしていた場所"だ。工場と資本では対等かそれ以上の関係を保ちながら、店頭だけをゼロから作り直さなければならなくなった。だからこそCFMOTOにとって急務だったのは、Pierer Mobilityという看板に頼らずとも、欧州の店頭でプレミアムブランドとして信用してもらえる材料を自力で用意することだった。

そこでBremboという、Pierer Mobilityグループも長年使い続けてきた"世界共通言語"とも言えるブランドとの提携は、大きな意味を持つ。CFMOTOはリリースの中で明言していないが、今回の提携が中国メーカーとしては初めてBremboとここまで踏み込んだ戦略的パートナーシップを結んだ事例だという点は見逃せない。欧州の売り場という間借りしていた場所を自力で埋め戻す局面だからこそ、この一手の重みは大きい。

ベルガモを知る私が推測する、
パートナーシップ強化で起きること

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私はかつてベルガモにあるBrembo本社を訪れ、アルベルト・ボンバッセイ氏への取材や、工場見学の機会を得たことがある。特定のメーカーの色に染まることなく、あらゆるブランドの開発思想に寄り添いながら製品を作り分けてきた、懐の深い会社だという印象を強く持った。

今回の提携も、その延長線上にあると見ていい。単なる部品供給を超え、車両開発の初期段階からブレーキシステムを共同設計するという踏み込んだ内容は、かつてBremboがMotoGPの現場で培ってきたノウハウを、CFMOTOのミドル・大型クラスの市販車へ本格的に落とし込んでいくことを意味する。

今後注目すべきは、まず技術的な深化だ。すでにCFMOTOはMoto2、Moto3クラスへ参戦しており、Bremboとはレースの現場でも接点を持っている。この関係がさらに強化されれば、レース由来のブレーキ技術が市販車へ展開されるスピードは確実に上がるだろう。

もう一つの注目点は、ブランドイメージの変化だ。CFMOTOはこれまで「手の届く価格の中国製バイク」というポジションで急成長してきたが、Bremboという"世界最高峰の証"を得たことで、欧米プレミアムブランドと肩を並べる存在として認知される足がかりを得た。欧州の店頭という間借りしていた場所を自力で埋め戻さなければならない今だからこそ、この提携の重みは大きい。

そしてBrembo側にとっても、これは単なる一取引先の獲得ではない。四輪市場が停滞する中、成長著しい中国二輪市場、そして"CFMOTO Racing Talent Project"(若手ライダー発掘・育成プログラム)などを通じ、次世代のブランド価値そのものへ投資する動きとも読み取れる。

老舗と新興、それぞれの事情が絡み合って生まれた今回の提携。宇宙一の制動機器メーカーが選んだパートナーが、なぜCFMOTOだったのか。その答えは、両社が置かれた"今"という時代背景の中にこそある。

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