掲載日:2026年06月24日 フォトTOPICS
取材・写真・文/森下 光紹

Vol.38 大野 正行(おおの まさゆき) 大野 智子(おおの ともこ)

バイクは基本的にひとりで乗るものだ。という考え方がある。自分にとって特別な存在。相棒。仲間と一緒に走っても、ライディング中はやっぱりひとりだし、ソロツーリングや、レース等に参戦する時だってその楽しさや感動は自分自身で受け止めるもの。
しかし、公道を走行できる市販車は、原付一種以外はすべて二人乗りが可能であり、実はタンデムライディングならではの世界というものが大きな魅力として存在する。それを長年実践している御夫婦に話を聞いてみた。

大野正行さん。実は筆者の中学時代の同級生である。当時はもちろんバイク乗りではないし、学校で顔を合わせて遊んでいただけの仲だ。卒業後はまったく連絡を取ったことはなく、何処で何をしているのかもお互い知らぬまま45年以上が経過したのだが、10年ほど前に岐阜の山深いキャンプ場で思わず再会した。彼はバイクショップが企画したキャンプイベントに夫婦で参加していたのだ。最初はまったく気付かずに話をしていたのだが、出身地は同じ名古屋だし、さらに同じ中学校だと分かった時点で当時の彼のニックネームを突然思い出した。「もしかして……ダイジュ?」「そうだよダイジュだよ」
ダイジュ(大受)はその当時人気のあった関取のことだが、丸顔で朗らかだった彼のニックネームを覚えていた。そして、大受は、現在でも大受のイメージそのままだった。そしてその横にはやはり朗らかな笑顔が印象的な奥様の智子さんが一緒だった。

その時キャンプ場に乗って来ていたのはハーレーのスポーツスターだったのだが、どうやら、そのバイクには大きな不満があるようだった。
「ハーレーも一度乗ってみたくて購入したけど、スポーツスターはタンデムランには向いていないかなぁ。バンク角も足らなくて僕らのツーリングスタイルには合わないかもしれない。大きいハーレーだと重すぎるから取り回せないし、たぶん乗り換えちゃうと思います」

それから10年。今回取材で自宅にお邪魔すると、彼の愛車はBMWのR1250RSになっていた。なんだか納得の選択ではある。数あるスポーツツアラーの中でもやはりビーエムは最高のポテンシャルを持っているバイクであることは間違いないからだ。
彼のバイク歴を聞くと、16歳でヤマハのTY50で始まり、普通二輪免許時代はホンダのCB350Fやオフロードバイクのエルシノア等にも乗っていたという、実は根っからのバイク好きだったことが判明。それを知っていれば、当時からバイク仲間だったかもしれないとお互い笑ったが、ヤマハのSRX400に34歳まで乗った後、55歳まではバイクから遠ざかった時期があるという。

「結婚してとにかく必死には働いた時期はバイクから遠ざかっていましたね。大型の電気店で務めていましたけど、その後は独立。今は家電屋を自分で営んでいますよ。元々営業畑の人間だから、自分のお客様を大切にしていたら、それだけで仕事が回るようになりました。すごく昭和な感覚だと思うけど、最後はやっぱり人間同士の付き合いですよ。人の気持ちに寄り添わなくちゃ、商売も遊びもうまくいかないと僕は思うんだよなぁ。それで、やっぱりバイクも復活したくなってね。夫婦でツーリングするために大型バイクを買ったんです」
彼の話は生き生きとしている。朗らかな大受はやっぱり健在だ。その横でにこにこと話を聞いている智子さんは、ツーリングなら必ずタンデムで付いていくという人だった。つまり一心同体だ。これほどタンデムライディングに適した御夫婦はなかなか居ないと思う。

「ハーレーは手放して、ホンダのVFR800Xに乗り換えました。実は似たようなスタイルのバイク仲間が数人いて、ロングランの時は彼らといつも一緒に行きます。年に3回ぐらいはツーリングしている感じですかね。四国に行ったり、北陸にも行きました。もちろん妻も一緒にね」
その当時の写真をお借りしようと尋ねると、「ほとんど無い」と夫婦で笑う。ツーリングが楽しすぎて写真も撮らずに走ってしまうというのだ。景色を撮ったものはほんの少しだけあったが、夫婦でお互いを撮影したカットは本当に無い。楽しい記憶は鮮明だからBMWで能登に行った時の話やハーレーで美ヶ原を走った記憶などはたくさん出てくるのに、記録が見つからないのである。そこで、お仲間から送られてきた貴重なカットを数枚お借りして、今回は仲良しタンデム夫婦の姿を僕がたくさん撮ってあげると笑いあった。

智子さんは最初遠慮気味ではあったのだが、良き記念になるからとお願いして、さっそく出発する。
自宅前に引っ張り出したBMWは隅々まで手入れが行き届いた状態で、すぐにエンジンにも火が入る。走りながら暖気するのがビーエム流なので、すぐにスタートして近くの公園に向かってみた。そこは芝生のエリアが大きくて散歩には最適な場所だったから、通路にバイクを停車させて、仲良し夫婦のピンナップを撮影した。

初夏の日差しが気持ち良く、まだ湿気の少ないこの時期の午後は、バイク散歩には最高だし、降りてのんびり過ごすのもまた良いものである。ファインダー越しのふたりは照れているのがどこか可愛らしく、こちらも笑顔になってしまうし、どうしても溢れ出てしまうその仲良し感に、つい「いやぁ、まいったなぁ」と、つい呟いてしまうほどだった。タンデムが得意な御夫婦は、本当に羨ましい存在なのだ。

公園を出て、名古屋港方面に向かう。湾岸道路を遠くに見る埋立地の幹線道路を淡々と走ってもらう。途中撮影のためにUターンをお願いしたり、同じルートを数回走ってもらったりリクエストしたが、彼は大柄なBMWを手足のごとく扱って、タンデムランでもまったく危なげないライディングだった。本当にふたり乗りを謳歌している御夫婦なのだ。

「やっぱりBMWにして良かったですね。重心も低くて扱いやすいし長距離でもちょい乗りでもストレスフリーなんですよ」
自宅に帰っても笑顔の彼ら。確かにビーエムは良く出来ているのかもしれないが、ストレスフリーなのは、その夫婦仲が大きな理由ですよ。仲良きことは美しきこと。これから先もずっとタンデムランを楽しんでいただきたいと、こちらの気持ちが何だか温かくなるこの日の取材だった。

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