次代を担うバイクデザイナーを目指せ! 「第13回 二輪デザイン公開講座」

掲載日:2025年09月29日 フォトTOPICS    

取材協力/公益社団法人 自動車技術会 デザイン部門委員会 取材・写真・文/淺倉 恵介

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さる、8月21日、22日の二日間、静岡県浜松市の静岡文化芸術大学で、第13回 二輪デザイン公開講座が開催されました。この講座は、美術系大学および専門学校で学ぶ、1年生、2年生を対象としたもので、プロダクトデザインを志す若者にバイクデザイナーという仕事を知ってもらうことを目的としたものです。

目的はバイクの魅力を知ってもらうこと!

二輪デザイン公開講座は、講座名が表すようにバイクデザインの方法を学ぶことができる学生向けのイベントです。ですが、そのカリキュラムは実践的なデザインの手法を教えるというよりは、バイクデザインという仕事を俯瞰的に理解してもらう、引いてはバイクという乗り物の魅力を知ってもらうことを第一義に置いたものです。なぜ、そうした講座内容とされているのでしょうか?

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本講座を主催しているのは、公益社団法人 自動車技術会。モビリティに関る技術者、研究者等で構成される学術団体で、国内のバイク関連企業の多くが企業会員として参加しています。今年で13回目を迎えた二輪デザイン公開講座、長年にわたって開催され続けているのには理由があります。それは、バイクの開発を仕事にしたいと考える若年層が減少傾向にあることです。バイク産業は日本の基幹産業のひとつ、作り手の不足は解決すべき喫緊の課題。そのためには、まず次世代のプロダクトデザイナー達にバイクデザインへの興味を喚起することが大切と考え、この講座が始められたのです。

本講座のスタッフは、企業会員のメーカー社員と教育機関の職員、自動車技術会の職員の方々で構成されています。講座のインストラクターを務めるのは、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、GKダイナミックスに所属する現役のバイクデザイナーの皆さんです。とはいえ各社の企業色は皆無で、現地でのリクルート活動も行われません。ビジネスの上ではライバル同士の企業が手を取り合い、日本のバイク産業が一丸となって、日本のバイク産業を盛り上げようというイベントなのです。

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そうした無私の志があってか、二輪デザイン公開講座は多くの実績を残しています。ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、GKダイナミックス、全ての会社にこの講座を受講したことがきっかけとなり進路にバイクデザイナーを選んだ社員が在籍し、バイクデザイナーとして活躍しているのです。日本のバイク産業の火を絶やさないため、いや更なる発展を実現するためにも、末長く続いて欲しいイベントなのです。

バイクデザインに欠かせない
4つの工程を実体験

講座のカリキュラムは、バイクデザインの現場で実際に行われている作業をベースに組み立てられています。この講座で用意されているのは、フィジカルスケッチ、デジタルスケッチ、クレイモデリング、CMFの4つ。バイクのデザインは、これだけで完結するものではありませんが、この4つの工程はそれぞれに専門職が存在する重要な要素です。1講座の時間は1つあたり120分、受講生は4講座全てを体験します。代表的な4工程を体験してもらうことで、将来の進路を考えるための参考にしてもらいたいという狙いもあるのです。

フィジカルスケッチ

フィジカルとは”身体的”という意味合いの言葉、つまり自分の手を使って描くスケッチです。バイクデザインの世界でもIT化が進み、デザインスケッチを描く時もPCを使用したCGの活用が進んでいるそうですが、アイデア出しの段階では感覚的に描けるフィジカルスケッチは、現在でもバイクデザイナーにとって必須の技術なのだそうです。講座のインストラクターは、スズキのデザイナー陣が担当しました。

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今回の講座では、アルコールマーカーによる線画への彩色と、フリーハンドでのバイクスケッチの2コースが用意され、受講生は希望のコースを選択可能とされていました。アルコールマーカーでの彩色は、用意されたバイクの線画に着色するというもの。そう聞くと”塗り絵”をイメージしていまいがちですが、色調や濃淡でスケッチに立体感を出すのは難しく、また仕上がりによってバイクのイメージが大きく変わる高等な技能なのです。

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フリーハンドのバイクスケッチは、自分の考え出したバイクを画に描き出す作業。ラクガキと違うのは、実際に走らせるバイクをデザインすることを目的にしていること。そのためには、バイクの構造やパーツの機能を理解していなければなりません。講座では、画の描き方だけでなく、実在するバイクのスケールモデルが教材に使用され、なぜこの形なのか? パーツとパーツが相互に機能する様子なども説明されていました。

デジタルスケッチ

デジタルスケッチは、CGを活用したデザインスケッチです。CGの利点は、描き間違いをしてしまっても、画の状態を描き間違う前の段階まで完全に戻せること。細部の修正が容易であったり、大まかなデザインが決まった後にバリエーションを増やす時に手間が少なくて済むといったところ。また次の工程として、3Dプリンタ等と連携させ立体化させる技術も実用化されています。

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CGの作成には高性能なPCと、液晶ペンタブレットという専用器具が必要で、その使用方法に精通している必要があります。受講生の多くは、専門課程に進む前の学生達ですから、CGに関する経験を持たない人が大多数。今回の講座では、イラスト製作で多く使用されるソフトウェアCLIP STUDIO PAINT PROの使用方法と、wacom製のプロユース液晶ペンタブレットの使い方の解説に多くの時間が割かれていました。

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CG作製のスキルを持つ受講生は、希望した場合により実践的なデジタルスケッチでのデザイン画の描き方を学べるコースも用意されていました。インストラクターは現役のバイクデザイナー、なんとも贅沢なカリキュラムです。デジタルスケッチのインストラクターは、ヤマハとGKダイナミックスのデザイナー陣が担当しました。

クレイモデリング

“クレイ”とは粘土のこと。クレイモデリングは、成形の自由度が高い粘土を使って、二次元のデザインスケッチから、三次元の立体物を作り出す作業です。粘土といっても、ここで使われるのはインダストリアルクレイと呼ばれる樹脂製のもので、子供が遊びで使う油粘土などよりはるかに硬度が高いものです。そのため大まかな成形を行った後に、専用の工具を使い削り出して形を整えていきます。

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今回の講座では、バイク用ミラーのボディ部分を成形することがテーマに設定されていました。ざっくりと形が整えられたベース素材が用意され、見本のデザインに近づけて成形していくのですが、細部の形状に関しては受講生各々のセンス任されています。頭の中にしかなかった自分の発想した形が、立体物として生み出されていく作業は達成感を強く感じられるようで、「楽しい」とコメントする受講生が多くいました。

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クレイモデリングは、バイクデザインはもちろんプロダクトデザインの世界では欠かせない工程です。専門性が極めて強いため、プロのデザイナーでなければ経験する機会は希少です。また、専用工具は刃物に近いものなので、取扱にも注意が必要。インストラクターは技術面だけでなく、受講生の安全面にも配慮しながら指導を行っていました。インストラクターは、ホンダのデザイナー陣が担当しました。

CMF

CMFとは”Color = 色”、”Material = 素材”、”Finish = 仕上げ”の頭文字をとったもの。同じ形のバイクでも、カラーリングや表面素材が違うと全く印象が異なる車両に見えることがあります。CMFは、バイクのイメージを決定つける、バイクデザインの最終工程です。今回の講座では、受講生にはクジ引きで”誰が、どこで、何をする”というテーマが与えられ、そのテーマに沿ったCMFを考えバイクを仕上げ、そのCMFを選んだプレゼンテーションを行うというものでした。

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グラフィックの入れ方や、そのデザインは受講生がそれぞれ考えたもの。カラーは用意されたプロユースのカッティングシートから選択、ロゴマークは用意されたデザインの中から選ぶ形がとられていましたが、組み合わせ次第で完成形は無限に存在しますから、限られた時間で一台のバイクを仕上げるのは難題です。インストラクターは適宜アドバイスを送ることで、受講生を的確にフォロー。インストラクターは、カワサキのデザイナー陣が担当しました。

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プレゼンテーションでは、それぞれユニークなCMFが施されたバイクが見られました。あたえられたテーマは、クジ引きで選ばれたものだけに突拍子もないものが多かったのですが、受講生の皆さんは頭を捻り自分なりの解釈でテーマに沿ったバイクを作り上げていました。若者ならではの荒削りながら自由な発想力からは、大きな可能性を感じとることができました。

二輪デザイン公開講座を受講して
バイクデザイナーを目指した経験者に聞く

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バイクデザイナーになりたいと考えたのは、高校生の頃です。大学のオープンキャンパスに参加した時にモビリティのデザインという画を描く仕事があると知りました。もともと画を描くことが好きでしたし、親がバイク好きなもので小さい頃からバイクが好きでした。画を描くことが好きでバイクも好き、好きなことを合わせたバイクデザイナーという仕事があったという感じですね。

大学2年生の時に二輪デザイン公開講座を受講して、新卒でホンダに入社しました。今年で4年目になります。自分の担当はスタイリングのデザインが主ですが、CMFもやります。例えば、2025年型GB350のツートンカラーは自分の仕事です。スポーツモデルが好きで、CBRシリーズをデザインしたいと考えていたのですが、やってみると他のカテゴリーも面白い。スクーターとかコミューターの分野にも興味が出てきました。

入社時の目標は自分でデザインしたバイクを作り、オーナーとなったユーザーの皆さんに喜んでもらうこと。今はその夢が叶った形ですが、まだまだこれからも自分のデザインスキルを高めていきたいです。仕事は充実しています、大好きなオートバイに関わる仕事ができて満足です。

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かつて受講生として二輪デザイン公開講座に参加した桜井さん。今回はプロのデザイナーとして、インストラクターの立場で参加。

講座に参加した印象を
受講生の皆さんに聞いてみた

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学部は芸術文化学部、芸術やデザインに関する様々な領域を学べる学部で、今は自分が何を専攻したいか色々と試している最中です。この講座には先生の強い勧めで参加しました。正直なところバイクのことは全然知りませんし、積極的に参加したいという気持ちはありませんでした。ですが、二日間バイクに触れて、バイクの良さを感じられたように思えます。今は、免許を取ってバイクに乗ってみようかな?と考えています。

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講座で一番楽しかったのはクレイモデリングです。これから取り組んでみたい分野になりました。逆に苦戦したのはデジタルスケッチでしたね。今回二輪デザイン公開講座を受講したことで、バイクデザイナーという仕事に興味が湧いてきました。将来の選択肢のひとつとして、考えてみたいと思います。

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中学生くらいから四輪車が好きで、作り手になりたいなあと考えていました。大学ではプロダクトデザインのサークルに入っています。この講座に参加したのは、サークルの先輩に紹介されたことがきっかけです。最近、バイクに興味が出てきたところでしたし、是非にと参加を希望しました。

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メーカーさんと協力して、四輪車をデザインしてプレゼンテーションしたりしているんです。四輪車はデザインに多くの人が関わりますし、デザインもより広い層に訴求する必要があります。自分の想いや考えを通すのが難しいと感じます。バイクのデザインは、一人のデザイナーが一台まるまる担当することが多いと聞きました。自分の考えるデザインをダイレクトに表現できそうで、そこには凄く魅力を感じます。趣味生が高い乗り物ですから、ロマンも感じますよね。四輪車のデザイナーを志望していましたが、今はバイクのデザイナーにも強く惹かれているところです。

バイクをより深く知ってもらうために
講座以外にも様々なコンテンツを用意

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二輪デザイン公開講座は、基調講演で開幕します。最初に登壇したのは、ヤマハV-maxやSRXなどの名車を生み出した日本を代表するバイクデザイナー、元GKダイナミックス社長の一條 厚さん。軽妙な語り口で、バイクデザインの楽しさ、バイクという乗り物の魅力を語ってくれました。基調講演は、受講生だけでなく一般聴講も可能でした。

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二人目の登壇者は、元ホンダのデザイナーである澤田琢磨さん。澤田さんは斬新なモデルを多く生み出した”Nプロジェクト”を牽引し、’80年代から’00年代のホンダのヒットモデルを数多く手がけた人物です。バイクデザインの現場や、世界のバイク産業の趨勢などを解説。ところどころバイク愛を感じさせる講演となっていました。

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学生時代に二輪デザイン公開講座を受講し、それがきっかけでバイクデザイナーを志し、現在は第一線のデザイナーとして活躍するOB/OGによる座談会も開催されました。バイクデザイナーとしての日常や、仕事のやりがいなどを率直に語っていました。登壇者全員が大のバイク好きであったことが、なんとも頼もしく感じました。

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本講座に協力する協賛企業による、自社のプレゼンテーションも行われました。ライダーであれば馴染み深いアフターマーケットのメーカーから、バイク業界で重要な役割を果たしているB to B企業まで、様々な会社が登場。受講生も興味津々な様子でした。

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ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの各社が車両を展示。人気モデルだけでなく、ここでしか見られない市販前のモデルや、はたまたコンセプトモデルまで。ちょっとしたMCショーの様相を呈していました。

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全カリキュラムを修了した受講生には、一人一人に修了証が手渡されました。二輪デザイン公開講座を受講した実績は、就職活動時にアドバンテージとなるのです。

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閉会式の最後は、受講生にサプライズプレゼント。会場に飾られていた、デザインスケッチが贈呈されました。フィジカルスケッチで使用したアルコールマーカーも、セットでプレゼントされるという大盤振る舞いでした。

ライター プロフィール
淺倉 恵介
Web、雑誌を問わず、各種バイクメディアで活動中のフリーライター。バイクチューニング専門誌出身で、カスタマイズやチューニング、レース関連に詳しいが、本人の嗜好は好き嫌いなくバイク全般に及ぶ。バイクの評価で一番重視しているのは”乗って面白いかどうか”だが、身長164cmと小柄なため取り回しの良さにもこだわる。

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