【ホンダ フォルツァ試乗記事】全面的な改革を受け運動性能が格段に向上

掲載日:2019年11月06日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/中村 友彦  写真/伊勢 悟

【ホンダ フォルツァ試乗記事】全面的な改革を受け運動性能が格段に向上の画像

HONDA FORZA

ヨーロッパ市場での成功を意識して
第1~4世代とは異なる設計思想で開発

1990年代後半から2000年代にかけて、史上空前のブームを迎えたものの、近年ではすっかり下火になった感がある250ccスクーター。もっともそれは日本に限っての話で、ヨーロッパでの人気は現在も衰えていない。そういった事情を踏まえたうえで、’18年からホンダが発売を開始したのが、ヨーロッパ市場では300cc、日本市場では250ccが主役となる、第5世代のフォルツァだ。

2000~2017年に販売された第1~4世代のフォルツァが、かつてのブーム期に構築された、日本製250ccスクーターのお約束を守り続けていたのに対して、軽快感とスポーツ性を重視して開発された第5世代は、シャシーを中心とする大幅刷新を敢行。その変貌ぶりを知ると、車名を刷新しなかったことが不思議な気がするけれど、2015年からヨーロッパ市場に投入したフォルツァ125が大成功を収め、そのスタイルを250/300ccに転用したホンダとしては、イタリア語で元気や力強さを意味し、応援や励ましで使われるこの言葉に、思い入れがあるようだ。

ホンダ フォルツァ 特徴

ロー&ロングスタイルと決別し
ハイ&ショートな車体寸法を採用

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

一般的なスポーツバイクの素性を表す数値と言ったら、筆頭に挙がるのは最高出力/車重だが、スクーターにとって最も重要な数値は、ホイールベース/シート高である。フォルツァの場合、第4世代が1545/715mmだったのに対して、第5世代は1510/780mm。つまり第5世代は、短く、高くなっているのだが、そもそもの話をすると、第4世代以前のフォルツァを含めた一昔前の日本製250ccスクーターは、既存のこの分野の常識で考えるなら、ロー&ロング指向が強かったのである。そのあたりを考えると第5世代のフォルツァは、クルーザー的な要素を廃し、スクーター本来の姿に回帰したモデルと言うべきなのかもしれない。ちなみにホンダ初の250ccスクーター、1984年型スペイシー250フリーウェイのホイールベース/シート高は、1260/780mmだった。

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

さて、数字の話が先行してしまったけれど、第5世代のフォルツァの特徴は、ハイ&ショート化だけではない。最もわかりやすい先代との相違点は、丸味を帯びた従来のスタイルと決別し、エッジが利いたシャープなデザインになった外装だが、アンダーボーンフレームは高剛性化と軽量化を追求した新作になっているし、悪路走破性と高速安定性の向上を目指した結果として、ホイールは前後とも先代から1インチアップとなる15/14インチを採用している。また、ホンダの250ccスクーター初の機構として、後輪の滑りを抑制するHSTC:ホンダ・セレクタブル・トルク・コントロールや、140mmの範囲で無段階の高さ調整が行える電動式スクリーンが導入されたことも、このモデルを語るうえでは重要な要素だろう。

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

ちょっと気を許すと、ふんぞり返った乗車姿勢になりがちだった先代までと比較すると、シートが高く、ハンドルが低くなった、第5世代のフォルツァのライディングポジションは、スポーティであると同時にスクーターの王道と言いたくなる雰囲気。足つき性は先代以前ほど良好ではないけれど、一般的な体格の日本人なら許容できそうなレベル。

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

ホンダ フォルツァ 試乗インプレッション

操縦性に磨きをかけだけではなく
安定性でも明確な進化を達成

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

オートバイのインプレでは、操安性という言葉がよく使われる。言うまでもなく、操安性とは操縦安定性の略なのだが、よくよく考えてみると、乗り手の操縦に対してどんな反応をするかと、車体にどの程度の安定性が備わっているかは、相反する要素で、それらをひとつの言葉にしてしまうのは、少々無理があるのかもしれない。でも第5世代のフォルツァは、操安性の向上を実にわかりやすく感じさせてくれるモデルだったのだ。

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

先代との比較を意識して乗った場合、第5世代のフォルツァの美点として誰もが最初に感じるのは、軽快でキビキビした車体の動きだろう。市街地では125cc+αくらいの感覚で、自由自在なラインを選んでスイスイ走って行けるし、乗り手の操作に対する反応が良好なものだから、ワイディングロードでは先代までとは一線を画する、スポーツしている感が満喫できる。とはいえ、今回の試乗で僕が最も感心したのは、操縦性に磨きがかかっている一方で、安定性がまったく損なわれていない……どころか、安定性でも進化が感じられたことだった。

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

その安定性を作り出しているのは、大径化された前後ホイール、絶妙な路面追従性を発揮する前後サスペンション、剛性が高められたフレームなどで、第5世代のフォルツァはどんな速度域でも、車体がビシッと安定しているのである。具体的には、駆動力があまりかかってない低速域でもフラツキの気配はほとんどないし、高速域でギャップを通過した際の収束もなかなか秀逸。ロー&ロングスタイルからの脱却は、場合によっては安定性の欠如を招くことがあるのだが、第5世代のフォルツァは、そういった面での対策をしっかり行ってきたのだ。

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

そんなわけで、第5世代のフォルツァにかなりの好感を抱いた僕だが、実は長きに渡ってライバル関係を築いてきたヤマハのマジェスティも、2018年型で車名をX-MAXに改めると同時に全面刷新を行っていて、ロー&ロング→ハイ&ショートという変貌の仕方は、フォルツァと同様なのである。しかも技術資料を調べてみると、フレームとフロントまわりの剛性はヤマハのほうが優位で、実際に乗っての印象でも、X-MAXはフォルツァ以上に積極的なスポーツライディングが楽しめるのだが……。

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

だからと言って、第5世代のフォルツァの総合的な評価がX-MAXに劣るかと言うと、僕はそう思わなかった。ハンドリングの軽快さやエンジンの吹け上がりの鋭さという面で、X-MAXに軍配が上がるのは事実だが、通勤・通学やツーリングに使うことを考えれば、フォルツァの操安性に好感を抱く人はたくさんいるはずだし、振動と騒音が少なく、いい意味で黒子に徹してくれるフォルツァのエンジンは、スクーターにとってはひとつの理想形という気がしないでもない。

ホンダ フォルツァの試乗インプレッション

さらに言うなら、良好な足つき性や電動調整式スクリーン、フルフェイスヘルメット×2が収まるトランクスペースなども、X-MAXとは一線を画するフォルツァの美点だ。と言っても、X-MAXがスポーツ性を重視した結果として、快適性や利便性を犠牲にしているわけではないので、最新の250ccスクーターに対する、ホンダとヤマハのスタンスの差異を理解したい人は、両方に試乗したほうがいいだろう。

ホンダ フォルツァ 詳細写真

ヘッドライトは近年のホンダ車に多いV字型で、フロントマスクは現代の高級ミニバン的。バックミラーにビルトインされたウインカーは、ポジションランプとしても機能する。電動式スクリーンは、140mmの範囲で無段階の高さ調整が可能だ。

第4世代までのメーターは、スポーツカーを意識したアナログ4連式だったものの、第5世代は視認性と小型・軽量化に配慮した2連式を採用。中央の液晶モニターには、時計、燃料残量、外気温、電圧、瞬間/平均燃費、航続可能距離などを表示。

左側スイッチボックスには、液晶モニターの表示を切り替えるINFO A/Bボタン、スクリーンの上下用レバー、トルクコントロールのオンオフレバーなどが備わる。マニアの間で“ロッシグリップ”と呼ばれるグリップラバーは、CBR系と共通。

イグニッションは近年のスクーター業界で普及が進んでいる、アンサーバック機能付きのスマートキー。キー本体が作動範囲内に存在しないと、シートと給油口の開閉は行えない。左側のグローブボックス内には12V電源ソケットが備わっている。

座面形状とウレタンの硬さが入念に検討された……と思えるシートは、快適性と運動性を高いレベルで両立。表皮はかなり手の込んだ造りで、質感が異なる4種類のレザーを組み合わせたうえで、アクセントとしてホワイトステッチを使用。

シート下のトランクスペースは、ライバルのX-MAXよりやや広い印象。メーカーや種類によりけりだが、ホンダとしてはフルフェイスヘルメットが2個収納できることを想定している。荷物の揺れを防ぐセパレーターは、4種類の使い方が可能。

第1~4世代のグラブバーが、4輪のリアウイングを思わせる形状の一体型だったのに対して、第5世代は握りやすさを重視した左右独立式。LED式テールランプ/リアウインカーは上下寸法を抑えたシャープなデザインだが、視認性は良好。

摺動抵抗を低減する手法として、ローラーロッカーアームやオフセットシリンダーを採用した水冷単気筒エンジンは、輸出仕様のSh300や第4世代の基本構成を継承しているものの、第5世代では小型化と静粛性を意識した改善が行われている。

F:15/R:14インチのキャストホイールは、欧州で高い評価を得たフォルツァ125のデザインを踏襲。テレスコピック式フォークを支持するのは、第4世代以前と同様に1つのブラケットだが、ライバルのX-MAXは上下2つのブラケットで支持。

ブレーキディスクはF:256/R:240mmで、キャリパーは前後ともニッシン。標準タイヤはIRCのSS-560F/SCT-004。かなり長めのリアフェンダーは、雨天走行時に恩恵を感じることになりそうだ。リアショックの調整機能はプリロードのみ。

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