掲載日:2025年04月09日 フォトTOPICS
取材協力・写真/Astemo株式会社 取材・文/鈴木 大五郎
絶妙なバランスのうえで成り立っているバイクは、何気ないパーツであっても大切な機能を担っている。そんななかでも足回りはエンジンやフレーム同様、最重要パーツのひとつである。
世界で販売されるモーターサイクルのサスペンションの半数以上をOEM製造するというSHOWA。現在は日立オートモーティブやニッシン、ケーヒンと経営統合し、Astemo株式会社の取り扱う1ブランドとされるSHOWAはOEM専属ブランドと認識されがちであるが、レースシーンでの活動のほかアフターマーケット製品もラインナップしている。そのひとつがここ数年の不動のベストセラーモデル。Z900RS用の前後スペシャルショックである。
そして今回新たに、Z900用に専用設計の前後サスペンションがラインナップ。栃木県にある同ブランドのテストコース。塩谷プルービンググラウンドにてお披露目とテストが行われた。
バランスフリーフロントフォーク(BFF)はSTDからボルトオンにて換装可能。インナーチューブは41ミリから43ミリに大径化され、剛性もアップ。チタンコーティングが施され、優れた作動性を誇る。アクスルホルダーは総削り出し。テスト車両は同じくAstemo社のブランドとなるニッシン製ブレーキキャリパーに交換されている。価格33万円(税込)
まずはすでに製品化されているZ900RS用からテストを開始。ボトムが削り出しとなり、インナーチューブにはチタンコーティングが施される。性能以前に「高そう……」という印象を抱かせるが、30万円(税込33万円)という価格設定に驚かされる。
「もっと気軽に高性能を体験してもらいたい」という同社エンジニアの思いもあって製品化された経緯があるというが、それを実現できたのは前述したSHOWAの生産体制による恩恵だろう。
バランスフリーリアクッション(BFRC-lite)もボルトオンにて装着可能。フロントフォーク同様、ガス室とオイル室を分離したサブタンク別体構造を持つ。ロッドはチタンコートが施され、フリクションロスを低減。プリロードアジャスターを備え、手動で調整も可能だ。価格19万8,000円(税込)
フロントフォークのBFFおよびリアショックのBFRC-liteの特徴であるバランスフリー構造は、ユニット内のピストン、減衰バルブ、サブタンクを独立させ、圧力バランスを最適化するという理想的な機構というが、コスト的問題、また製品化する際の技術的問題等、なかなかハードルが高いそうであるが、これもまたSHOWAの持つ高い技術力と生産力によってクリアとなった。
テストコースとなる塩谷プルービンググラウンドには全長約1キロの広大なフラットコースのほかに、海外の一般公道を模した周回路が備わっている。1周約1.5キロのコース上には様々なレイアウトのコーナーがあるだけでなく、複雑なカントやギャップが設けられている。レースが行われるサーキットとは異なり、一部は酷道とも呼べるほどのギャップの多いコース設定により、ショックの動きやそれに伴うマシンの挙動、耐久性等をテストしているそうだ。
まずはSTDから走行開始するが、正直これも悪くない。メーカーが威信をかけて作り出したものであるから当然とも言えるが、乗り換えてみればその違いは明らかであった。
ややハードに走らせた際でもしっかり受け止めてくれる性能を持ちつつ、あくまでストリートでの使用状況に合わせた設定。のんびり走らせるような状況でも乗り心地が良く、インフォメーション性が高い。
減衰力の立ち上がりがリニアなことからまずはその状況が非常に把握しやすい。ギャップ通過時の吸収性は高く、乗り心地も良い。それでいて、腰砕けのような不安定な挙動にはつながるようなこともない。前後の受け渡し=ピッチングがよりコントロールしやすく=マシンの状況を把握しやすい。車体姿勢としてはフロントからグングン旋回していくような設定ではなく、フロントホイールを遊ばせるような軽快感を持ちながら気持ち良いフィードバック。その状態が手に取るように把握できるから、ライディングの自由度が高く、楽しさにもつながっている。
フリクションが少なく上質な乗り心地。自分のおこなった操作に足回りがしっかり追従してくれているかのような安心感がある。
また、リヤにその荷重を移行した際にはしっかりと路面を掴んでいく、スロットルと車体の動きのリンク具合もまた良い調整具合であるのだ。当たり前といえば当たり前なのであるが、高性能サスペンションの実力を見せつけられた格好である。ハードに走らせた際の性能向上ばかりに目を向けることで犠牲となる領域は少なからずある。一般ユーザーの使用状況をしっかり睨んだ設定に好感を抱いたのだった。
続いてテストしたのが今回新たに製品化されたZ900用に発売される前後サスペンション。中身は同じくバランスフリー構造となるが、設定は専用である。またフロントフォークのボトムは鍛造とされ、価格面でもより手を出しやすいものとしたという(25万3千円)。
Z900RS用と同じく、インナーチューブは41ミリから43ミリに大径化され、チタンコートも施される。自社製スプリングはSTDに対してややバネレートが上げられ、よりスポーティな走りに対応。アクスルホルダーは鍛造製となる。価格は25万3,000円(税込)
パーツ構成はZ900RSとほぼ同じであるが、設定はもちろん専用。STDに対して荷重設定が高められ、さらなるハイスピード走行に適応している。価格19万8,000円(税込)
ベースのマシンキャラクターからしてZ900RSよりもスポーツ性をより強調したセットアップとなっているが、このサスペンションはさらにアグレッシブな設定とされる。走り出すとSTDと比較してハンドリングは軽く、マシンが一回りコンパクトになったかのようなフィーリングである。
STDもハイスピードに十分対応した車体周りではあるが、さらに1ランクスポーティな走行に対応。レスポンス良いハンドリングがその気にさせる。
乗り心地としてはややハードな印象もあるが、それは純粋にスプリングが硬めであるといった印象。そこに豊かできめ細かいダンピング性能が付随することで、嫌な硬さではなく、手応えとハードに走らせた際の安心感につながっている。ある程度速度の乗るコーナーでは、明らかにラインのトレース性が高まり、自信を持ってコーナーに入っていくことが出来る。的を絞ったことで見えてくる領域を、より安全で楽しめるようにセットアップされているのが印象的だった。
スプリングレートが高められ、STDに対しややハードな印象となるが、動き自体は非常に滑らか。ギャップによる突き上げ後の収束も早い。
時間の関係で細かいセッティング変更を試すことはなかったが、フルアジャスタブルだからこその遊びの要素を備えている。もちろん、ドレスアップパーツとしても魅力的であるが、真髄を追求したサスペンションにより、走りのグレードは間違いなく高まると感じたのだった。
100万円を超えるような製品の性能を、もっと身近に使っていただきたい。と語るSHOWAのエンジニア。世界で販売されるモーターサイクルの50%以上をOEMとして手掛けている体制があるからこそ実現できた価格と性能であろう。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!