掲載日:2020年10月15日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/ 和泉 拓 写真/稲垣 正倫
KAWASAKI VERSYS 1000 SE
今回インプレッションで試乗できたのは一足先に発表された欧州モデル。SHOWAのスカイフックテクノロジーが搭載されることもあり、国内発表がまだにも関わらず国内で体験できる貴重な機会を得た。
「ヴェルシスのイメージって重くて直線番長でアイドリングがタルくて、みたいな感じだったんです。1000ccの4気筒アドベンチャーって、なかなかないと思うんですけど、トルクのどんつき感もないし、ものすごくスムーズにエンジンが回る。2000回転くらいだと開けてもすぐについてこないから、とても開けやすいですね。Uターンなどの繊細なスロットル操作が求められるシーンでも、安心なエンジン特性だと思います」と和泉。
VERSYS1000SEのタイヤサイズはフロントが120/70-17、リアが180/55-17。同クラスのBMW S1000XRやヤマハTRACER900もほぼ同サイズのため、これは実にベーシックなサイズと言えるだろう。しかし、実際に走ってみると和泉の感想はこうだ。
「フロント17インチって、コーナリングで倒しこむとすごく切り込んでいくイメージがあったんですけど、これは試乗コースの定常円のコーナーでハンドルに力を入れずにリーンインしてみても全然切り込んでいかないんです。まるで19インチのようなフィーリングでしたね。でも17インチの幅120mmタイヤだからグリップ感はすごくしっかりしているし、ハンドリングもいい意味でタルい。重心が低いのか、さほど重さも感じませんし、シールドの防風性能が本当に優秀です。身長185cmの僕でもちょっと伏せるだけで全然風があたらない。これは長距離ツーリングをものすごい楽にさせてくれます」
今回、二輪車として初採用されたスカイフックテクノロジーが組み込まれた電子制御サスペンションにより、さらなる走行性能と快適性を実現。具体的には電子制御により、サスペンションの減衰力を調整、路面の凸凹から受ける衝撃をしっかり吸収し、最小限に抑えてくれる。バイクのばね上重量がまるで空からフックで吊られているかのような安定感があるということで、この名前がつけられているのだ。
「ABSやトラクションコントロールみたいに、スカイフックが搭載されているサスだから明らかに違う、という機能ではありません。あくまで自然に、違和感なく効いてくれるからこそ、素晴らしいんです。ちょっと乗るだけだと今までと変わらないサスなのに、1日に1000km走るようなテストをしたら、明らかに違いがわかるでしょう。長距離ツーリングって、走行時の細かい微振動がものすごく疲労として蓄積するんですよ。ヴェルシス1000のようなロングツーリング向けのマシンにこそ搭載されて然るべき機能ですね」と和泉。
バイクという乗り物が楽しいのは、ある程度のピッチング(前後方向の揺れ)があるからだ。例えばコーナーの進入でブレーキングをすればフロントサスペンションが縮み前傾になるし、加速時にはリア荷重のために後ろよりになる。もしこれらの動きを全てサスペンションで吸収できてしまえば、真の意味で疲れない快適なバイクができるかもしれない。しかし、それは決して速くもなければ楽しくもないだろう。このスカイフックテクノロジーは、あくまで自然なバイクの乗り味を維持したまま、長距離で蓄積してくる細かいギャップによる疲労のみを軽減してくれているのだ。
さらにフロント17インチホイールのアドベンチャーにしては、サスペンションのストロークが長く、若干オフロードも走れる味付けになっている。「サスペンションのストロークはそれなりにあるのですが、それは悪路を走行するためではないんだと思います。そもそもそういうバイクではありませんし。大きく、ゆったりピッチングする乗り味とか、オンロードのちょっとしたギャップを吸収するための懐として、ストロークをうまく使っているんでしょう。さらに17インチホイールの安定性のおかげで直線でもコーナーでも安定感があって、シート高も低くて安心できるという、いろんなバイクのいいとこ取りな感じですね。フロント21インチのアドベンチャーバイクだと直線でスピードを出すとわりと早い段階でシミー現象が起きてしまいますから」
このように2021年モデルのVERSYS1000SEはスカイフックテクノロジーを搭載した電子制御サスペンションとやさしいエンジン特性があいまって、全体的にライダーが疲れないようによく設計されたバイクなのである。今回試乗した車両は欧州発売モデルとのことで、国内での発売時期や価格は未定ではあるが、そう遠い未来の話ではないはずだ。