掲載日:2024年12月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA CBR1000RR-R FIREBLADE SP
ホンダが長年手掛けてきたフルカウルスポーツモデルCBRシリーズ。そのトップエンドに位置するのがCBR1000RR-Rだ。その歴史を遡ると1992年に登場したCBR900RRから始まっていることが分かる。
今でこそWSBK(スーパーバイク世界選手権)のホモロゲーションモデルとして広く周知されているが、1980~2000年代初頭にかけてのホンダはVFR、RVF、VTRなどV型エンジンモデルを主軸に戦っていた。CBRがレースシーンで頭角をあらわし始めたのは、レギュレーションが気筒数に関わらず1000ccを最大排気量とする内容に変更された2003年からだろう。もちろんロードレース界の最高峰はMotoGPではあるが、市販車ベースのマシンで競うWSBKの戦績はマーケットの動向に直結する。CBRのフラッグシップモデルは勝つための改良が繰り返され進化してきた。
CBR1000RRという車名になった2004年からほぼ2年毎のペースでモデルチェンジが繰り返され、2020年に”R”が一つ増やされ現在の『CBR1000RR-R FIREBLADE(CBR1000アールアール・アール ファイヤ―ブレード)』となった。スーパーバイクで特に言われるのが”最新モデルが最良のモデル”だということだが、果たして現行のCBR1000RR-Rはどのような仕上がりとなっているのだろうか。
CBR1000RRに代わりCBR1000RR-Rが登場したのは2020年のことだ。名称だけでなく大幅に改良が加えられたその内容から書き記していこう。まずエンジンの内部を探ってみると、ピストンがMotoGPで戦うRC213Vと同じ81mmのボアとされているほか、クーラントが流れるウォータージャケットが2段構えとなったことで冷却効率が向上している。
ボディワークではリアサスペンションの上端をフレームではなくエンジンブロックにセットするようにしたほか、両サイドにウイングレットを装備したり、アクラポビッチと共同開発を行ったエキゾーストシステムを採用した点が挙げられる。
電子デバイスに注目すると、レーススタートモードやオートステアリングダンパーコントロール、クイックシフター制御システム(SPグレード)、サスペンションコントロール、それにパワー、トルク、ウイリー、エンブレの制御など、もはやストリートを走ることを超越したレーシングモデルとなっており、すべてにおいて別次元のスーパーバイクとして仕立て上げられているのだ。
CBR1000RR-Rが発表された時、その内容を知った私は「ようやくホンダが本気を出してきたな」と思ったものである。2024年モデルではクランクケース、クランクシャフト、コンロッドを新設計し、エンジン単体で720gの軽量化に成功しており、さらにハイパフォーマンスマシンへと昇華している。
16歳で中型自動二輪免許を取得した頃、私の家には兄が乗るCBR250Fがあり、しばしば借りて走ることがあった。その後は私自身CBR400RRを所有した時期もあり、割と私のバイク人生においてCBRはゆかりのあるモデルである。
特に記憶に残っているのは今回のCBR1000RR-Rに続くハイエンドCBRである初代CBR900RR(SC28その中でもオレンジカラーの後期型)の登場、WSBKホモロゲモデルとして本格的進化を遂げた2004年のCBR1000RR(SC57)、まったくと言っていいほどスタイリングが変更された2008年のCBR1000RR(SC59)だ。すべてのモデルに乗ったことがあるが、一貫して乗りやすく速いというのがCBR1000(900)RR系の印象である。ただCBR1000RR-Rはまた一味違うと言っていい仕上がり、そして乗り味だ。
まず外観から確認していくと、CBRとして初のウイングレットが設けられている。他メーカーの派手な羽根と比べるとやや消極的なデザインだが、逆スラントタイプのフロントノーズと相まって高速走行時にしっかりと路面の接地感を増大させてくれる。跨ってみるとシートは高く、ハンドルは低い。さらにステップ位置もかなり後方の高い位置にセットされている。攻撃的なライディングポジションに、おのずと心を揺さぶられてしまう。
セルボタンを押すとビッグボアピストンは想像していたよりも静かに目を覚ました。ミッションを一速に入れてクラッチをそっと離し走り出す。エンジンだけでなく駆動系、足まわりをゆっくりと入念に温めながら進む。
乗り出した際に、やはりタイトなライディングポジションのせいもあり市街地での取り回しはイージーではないか、と思ったが、それも数分の間のことで実際のところは非常に扱いやすい。エンジンの搭載位置が高いこともありロールセンターは車体の中央部あたりなのだが、足まわりとの相性が良く低速でもふらつくようなことはない。ハンドルの切れ角が狭いのはレーサーレプリカなので当たり前。それを気にしない程度の技術は必要だということだ。街中でも想像以上に楽しく走れる点に喜びを覚えてしまったが、どのギアで走ってもあっという間に3ケタ台の速度となってしまう上、何キロだか分からない程スムーズなので、むしろスピードメーターに気を遣う始末。
早々にインターチェンジを探し高速道路にステージを移す。6000回転前後からエンジン音が変化し、恐ろしいほどの加速を味わえる。それは脳みそを揺さぶられるほどで一気に視界が狭くなる。まるでドラッグ的な悦楽を与えてくれるもので、ついついスロットルをワイドオープンさせてしまうのだが、はっきり言ってまったく恐怖感というものが返ってこない。もちろん絶対という言葉はないのだが、タイヤの路面追従力は高く、なぜか安心感すらある。怖いほどに”速いから楽しい”のだ。
プリセットされたライディングモードは3パターンあり、3=レーシング、2=ストリート、1=レインと考えて問題はないだろう。通常は2で十分、3は強烈なパフォーマンスを吐き出すがそれでも扱いやすい。1はどのような場面でも安心して走れるといった具合だ。
ワインディングに持ち込むとまさに水を得た魚状態で、路面状況の良くない一般道でも綺麗にラインをトレースすることができる。今回テストしたのが足まわりを強化した上級グレードであるSPモデルであったこともあるが、速度域に関係なくこれほど意のままにコーナーリングを楽しめるモデルはなかなか無いもので、思わずハンドリングマジシャンの称号を与えたくなる。
強いて言えば、減速帯をパスする際に自身の腹部から贅のついた肉が揺れるのが伝わってくると、”ああ、鍛えなければ”と思わせてくれるが、それもまたCBR1000RR-Rとの付き合い方を考えさせてくれ、背筋を伸ばさずにはいられなくなる。
残念ながら今回サーキットに持ち込むことはしなかったが、一般道で走らせてもストレスなどまったくなく、むしろ日常的に使えるスーパーバイクに仕立て上げられていることが分かったことが収穫だった。マフラーも静かで住宅街などでも気兼ねなく乗れるし、別の方向性ではあるがストリートもサーキットも同じように楽しめる。
スタンダードグレードで248万6000円、SPグレード284万9000円という車両価格なのでおいそれと手を出すことは難しいものの、CBR1000RR-Rを日本メーカーのホンダで作っていることは我々の誇りである。そう思える一台になっていた。
ボア81×ストローク48.5mmとしたショートストロークタイプの排気量999cc並列4気筒エンジンを搭載。最高出力218馬力を14000回転で発生させるハイパフォーマンスエンジンだ。
SPグレードでは加圧ダンピングシステムを採用した電子制御のオーリンズφ43 NPX Smart-EC 3.0(Spool valve)と、Brembo STYLEMA Rキャリパーを採用している。この足まわりだけでもSPを選ぶ価値がある。
部位ごとに異なる板厚で構成されたアルミ製スイングアームに200/55ZR17サイズのタイヤを組み合わせる。アクラポビッチとの共同開発となっているサイレンサーは、軽量、高効率でありながら静粛性も高い。
レースやサーキットで出すような、250km/hものハイスピード域での走行で車体の上昇を抑えるために考えられた逆スラントノーズタイプのフロントマスクやボディ左右のウイングレット。中央にはラムエアホールも設けられている。
シート高は830mmと高いが、スリムな車体、200kg(SP=201kg)と軽量な車重のおかげで取り回しは悪くない。シートは薄いが、この手のバイクはドカッと座るような乗り方ではなく、あくまで腰を落ち着かせるためのものと考えておいた方が良い。
SPグレードにはクイックシフターを標準装備する。スタンダードモデルでもオプションで装着は可能なので、できれば欲しいところ。ロング目のギア比なので、スーパーバイクにも関わらずミッション固定でズボラな走りもできてしまう。
燃料タンク容量は16L。前方部分はラムエアのエアーボックスとなっており、後方からシート下に回り込むタンク形状となっている。カタログ燃費はより実走行に近いWMTCモード値で15.4km/Lとなっている。
5インチTFT液晶ディスプレイを採用したメーター。様々な表示スタイルが用意されているほか、バンク角やラップタイム計測、サスペンションセットをはじめとした車両状態も確認することができる。
キーレスエントリーシステムを採用しており、イグニッション用の物理キーシリンダーは無い。イグニッションのオン/オフはメーターサイドに備わるスイッチにて行う。ハンドルロックも同スイッチを使用。
かなり低い位置にセパレートハンドルがセットされていることが分かるだろう。トップブリッジからのフロントフォーク突き出し量も大きい。戦闘機のようなスタイルのコクピットに酔いしれることができるが、当たり前だが前傾姿勢はきつく前方視界は良くない。
テールカウルからステーを介してウインカーやライセンスプレートが装着されている。なお、ピリオンシートを外し内部のビスを取り外すことで、ステーごと脱着することができる。サーキット走行時なども便利だ。
ピリオンシート下には多少のスペースが用意されているが、ギリギリETC車載器を入れられる程度のサイズだ。戦うマシンに利便性を求めるのはナンセンス。あとスポーツライディングの妨げになるので、できれば荷物を背負って走るのも避けたいところ。
リアショックにはオーリンズ TTX36 Smart-EC 3.0(Spool valve)電子制御サスペンションを採用。上部はエンジンブロックにセットし、下部はプロリンクを介してスイングアームに接続されている。
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