掲載日:2024年08月05日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/淺倉 恵介
HYOSUNG GV250DRA
かつて、世界のバイク市場は日本メーカーの独壇場であった。現在でも世界最大のバイク大国であることは変わってはいないが、このところシェアが落ちていることも事実。その理由のひとつが、アジア圏の新興バイクメーカーの躍進だ。生産台数ベースでみれば、インドや中国のバイクメーカーが、日本メーカーを上回っている部分すらある。それほど、アジアン・バイクメーカーの勢いは凄まじい。ヒョースンも、そうしたアジアン・バイクメーカーの一角だ。
ヒョースンは韓国のバイクメーカー。同国の財閥系巨大コングロマリット、ヒョースングループの関連企業として1978年に創業。当初はスズキ車のライセンス生産を行っていたが、自社でのモデル開発へと移行。フルラインナップメーカーとしてバイクの生産を行い、2000年代初頭には日本への輸入も開始された。その後、ヒョースングループからの分離を経て、現在はラオスに本拠地を置く巨大自動車関連企業、KOLAOグループの傘下にある。そのため、韓国国内ではKRモータースとブランド名も変わっているのだが、日本を含め海外マーケットでは、各地で浸透しているヒョースンの名前を使用し続けている。現在は生産拠点を中国に置き、R&Dも同地で行っているとのことだ。
ヒョースンの現在のラインナップは、普通二輪クラスから小型二輪クラスのクルーザーとスクーター、EVスクーター。その中で日本国内に導入されているのはクルーザー。ヒョースンのクルーザーは、同クラスでは珍しい存在となった、狭角Vツインエンジンを搭載していることが特徴だ。
GV250DRAは、排気量249ccのVツインエンジンを搭載したストリートクルーザー。デザインはオーセンティック一辺倒ではなく、フルLED化されている灯火機類や倒立式を採用するフロントフォークにみられるように、モダンかつハイテックな意匠を取り入れているところは、世界的な流行をみせているネオクラシック的要素も感じられる。全長2,240mmと堂々たる車格を持ち、見た目も大柄に見えるのだが、車重は172kgと軽量。750mmというシート高の低さと相まって、取り回し性は良好。バイクの扱いに慣れていないビギナー層であっても、取り回しで悩むことはないだろう。
このマシンで、最大の特徴としてあげられるのは、やはり現行250ccクラスでは珍しいVツインエンジンだろう。Vツインエンジンはヒョースンのお家芸、かつて生産されていたロードスポーツモデルでも、Vツインエンジンが多く採用されていた。GV250DRAに搭載されている空油冷Vツインエンジンは、長年にわたり熟成されてきたもの。前後シリンダーの挟み角は75°。爆発間隔は435°と285°を交互に繰り返すことで、ツインエンジンながら低振動と高回転の伸びの良さを両立。高回転域の出力特性の向上を狙ってか、DOHC8バルブを採用している。また、ボア X ストロークはφ57.0mm X L48.8mmと、高回転を意識しているであろうオーバースクエアな設定。スタンダードでオイルクーラーを装備するため、冷却方式は空油冷としているが、メカニズム自体は一般的な空冷エンジンと同様。排気ガスのクリーン化が難しいとされる冷却方式を採用しながら、EURO5排気ガス規制に対応している。
走り出す前、マシンを押し引きした時にまず驚いた。軽い、取り回しがなんとも軽い。見た目が重厚で押し出し感が強いので、そのギャップに驚いた面もあるだろうが、その分を差し引いても軽いと断言できる。車重は、250cc二気筒エンジン搭載車として、格別に軽量というわけではない。にも関わらず、車重の近いマシンと比べて軽く感じられる。重心の低さとハンドルポジション、腰で支えやすいタンクやシートの形状のおかげなのだろう。
マシンに跨っても、軽い印象は変わらない。クルーザーらしく、シート高が750mmと低いので、小柄なテスターでも足つき性はなんの問題もない。ちなみにテスターの身長は164cm、体重も60kgを切っている。成人男性としてはかなり小柄な部類だ。なので、全般的に車格が肥大化している現代のオートバイの取り回しに苦しめられている。このご時世、GV250DRAの軽さと足つき性の良さは貴重。諸手を上げて歓迎できる。これは走り出してからの話になるが、Uターンのやりやすさも特筆ものだ。ハンドルの切れ角が大きく、旋回中に車体も安定している。GV250DRAなら、性別や年齢を問わず取り回しに悩むことはなさそうだ。
ポジションも好印象だ。シートに座った状態でハンドル位置は高過ぎることもなく、腕が伸び切るような遠さもない。クルーザーというよりは、ネイキッドのそれに近い。スタンダードでのハンドル位置は、実は重要。小柄な人が、足つき性だけをみてクルーザーに手を出すと、ハンドルの遠さに泣かされる事例は少なくないからだ。バーハンドルなのだから、好みのハンドルに交換すればよいというものでもない。ケーブルやブレーキホースの長さが合わなくなることもあるし、ハンドル位置を変えたことで荷重分布が変わり、ハンドリングが悪化することもあるからだ。メーカーが決定したハンドル位置には、裏付けと理由があるものなのだ。
エンジンの始動は、クラッチレバーを握ってスターターボタンを押す。現代のエンジンだから、グズることもなくスムーズに始動してくれる。アイドリング時の排気音は実に静か。爆音はもっての外ではあるが、もう少しドラマチックな音がしてもよいと感じるのは、旧いライダーの我儘なのだろう。ギアを1速に入れ走り出す。強烈なトルク感はないが、排気量を考えれば過不足ない加速をみせる。トルクが細いということはない。事実、アイドリングのまま、スロットルを開けずにクラッチ操作のみでの発進を試みたところ、ストールする気配をみせずにしっかりと発進することができた。ただ、ここで気になったこともある。ステップ位置が高いのだ。カテゴライズすれば、いわゆるミッドコントロール的なポジションなのだが、自然に足を下ろすというよりは、慣れないうちは足を意識して持ち上げる感覚があった。走行中の膝の位置も高め、小柄なテスターがそう感じたのだから、平均身長以上の体格の人は下半身に窮屈さを感じるかもしれない。
走り出してすぐに高速道路に上がってみた。直進安定性は必要十分。100km/h巡行は6速で5,800回転、120km/hで7,000回転といったところ。高速巡行は十分にこなせる。タコメーター上のレッドゾーンは、10.000回転からだからまだまだ余裕があるのだが、果たして6速でレッドまで回し切れるかは疑問。一般公道での試乗であるから最高速を確認してはいないが、エンジンパワーと走行抵抗が130km/hくらいで折り合い、そこから上は伸びないのでは? と推測する。
出力特性は恐ろしくフラットで、ピーキーさとは無縁。レスポンスも穏やかなので、どのギアで、どの回転数でスロットルを全開にしても、怖い思いをすることはないだろう。このキャラクターは、全体的にハイギアードなミッションと、ロースロ傾向のスロットル開度も影響している。個人的にはスロットル開度の大きさはいただけない。全開にするのに、持ち替えが必要なレベルだ。パワーバンドを意識して走るバイクでもないとは思うが、力強く走りたいのなら5,000回転は回しておきたいところ。最もパワフルなのは6,000回転から8,000回転の間。8,000回転を超えると、車速は伸びていくものの勢いは落ち着く。もっともパワーを使い切って走るより、のんびりクルージングした方が気持ちがいい。高速道路では車速の関係で難しいが、2,500回転から4,000回転あたりを使うと、エンジンの鼓動感を味わえるのだ。
ワインディングにも持ち込んでみたところ、これが予想外に楽しい。ハンドリングがニュートラルで、攻めた走りが面白い。ロングホイールベースで、キャスター角度が寝ているクルーザーらしいディメンションなのに、立ち上がりで大アンダーステアが出たり、バンク中に妙な挙動を起こしたりしないのだ。軽さも良い方向に効いてくれて、切り返しも実に軽快だ。また、ここで最初に気になったステップの高さの理由がわかった。マシンをバンクさせても、そう簡単にステップが擦ることはない。少なくとも自分は、ステップも車体も擦ることはなかった。ワインディングを楽しむのには、重要な要素だ。
サスペンションはフロントが柔らかめで、リアが硬め。踏ん張るリアを軸に、フロントが上下して車体姿勢を作っているようだ。ただし、リアの硬さは結構なもので、ギャップを踏んだ時の突き上げには辟易した。ブレーキも良く効いてコントロール性も悪くないのだが、クルーザーの車体だから基本はリアブレーキ主導。攻めるのが楽しくなってしまい、下りのコーナー進入時に、ロードスポーツ感覚でフロントブレーキをかけて、少々冷や汗をかいたのはココだけの話だ。あと、気になったのは純正装着タイヤ。ケース剛性が低いのか、高い荷重をかけた時に不安定さが顔を出す。そういう使い方をするタイヤではない、と言ってしまえばそれまでなのだが、スポーツライディングがことの他楽しかったのでそう感じてしまった。
ワインディングを走ったことで、GV250DRAの私的評価が大きく上がった。クルーザーの楽しみ方の本流からは外れているかもしれないが、一台のバイクでより多くの楽しみ方が出来た方が得だ。そもそも街中しか走らないというのでもなければ、山地の多い日本に住む我々のバイクライフでは、ワインディングは切っても切れないものではないか。だからこそ、こんなクルーザーがあっていい、いや日本に合ったクルーザーとはこういうマシンなのかもしれない。
ヒョースン伝統の75°狭角Vツインエンジンは、GV250DRAのアイデンティティ。DOHC8バルブのハイメカニズムを採用。
エンジン前方のカバー内上段に大型のオイルクーラーを備え、冷却方式は空油冷とされる。
2in1タイプのマフラーは、大型のサイレンサーの手前で集合。エキゾーストパイプにはヒートガードを装備するが、遮熱性は今ひとつ。
フロントフォークはインナーチューブ径φ37mmの倒立タイプ。フロントホイールは17インチ。フロントブレーキはφ300mmのシングルディスクに、片押しピンスライド2ピストンキャリパーを組み合わせてABSも装備。
リアブレーキはφ270mmのシングルディスクに、片押しピンスライド2ピストンキャリパーを組み合わせてABSも装備。
前後キャストホイールのデザインは、鋭角的な10本スポークを採用。
スイングアームはコンベンショナルな、スチール製のスクエア形状パイプを母材とする。リアショックユニットはプリロード調整が可能。
ハンドルスイッチはオーソドックスなタイプ。グリップはセンターがやや太くなった樽型形状で、外径自体も太め。
ステップはミッドコントロールタイプで、ステップラバーを装備する。
ヘッドライトはLEDの多灯タイプ。上3灯が常時点灯のLowビームで、Hiビーム時には中央と同時点灯。下2灯はデイタイムランニングライト。
オーセンティックなイメージのフューエルタンクは、17.5Lの大容量を確保。
ライダーシートとタンデムシートは分割式。ライダーシートのウレタンは、かなりソフト。
精悍なテールビューを構築する、ボブスタイルのショートリアフェンダー。テールランプとウインカーはLED。
インスツルメンツパネルはフルLCDで、バックライトは4段階で明るさ調整が可能。
メーターケースの下面左側には、USB-Aタイプの給電ソケットを装備している。
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