掲載日:2024年07月29日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA XSR900GP
ヤマハを代表するスポーツネイキッドモデルMT-09をベースとしネオクラシックスタイルで纏められたXSR900。XSR900GPはさらにそれをベースに1980年代のグランプリレーサーをイメージさせるハーフカウルやクリップオンハンドルを装備するレーサーレプリカ系ネオクラシックモデルだ。
当時のことを知る者にとってはノスタルジックに、現代のバイク乗りには斬新なスタイルとして目に映るそれは、多くのライダーの心を惹きつける魅力的な一台に仕上がっている。しかも乗って驚くのはただ単にレプリカ世代にルックスを合わせているだけのものではなく、高い運動性を得ていることで、眺めるだけでなく走らせてこそ真価を見られるという点だ。XSR900GPと約一週間付き合うことで感じられた本質をご紹介していこう。
ジャパンモビリティショー2023で国内初お披露目となったXSR900GP。そこでは1980年代にトップカテゴリーで活躍し、XSR900GPのデザインモチーフにもなっているYZR500(OW07)と並べて展示されていた。当時のレースシーンやレーサーレプリカブームを知る者はもちろん、懐かしい雰囲気でありながらも新しさがしっかり打ち出されたスタイリングは、まさしく注目の的となっていた。それから約半年経った2024年5月、ついに国内でのデリバリーが開始された。
そもそもベースとなっている現行型のXSR900は2022年にモデルチェンジが施されており、デザイン面でヘリテイジイメージが強調されただけではなく、排気量アップされたエンジンや6軸センサーの装備など走りの面でもより一層進化している。私は旧モデル、現行モデルどちらにも乗った経験があり、運動性能が格段に引き上がっていることを身をもって知っているものだから、XSR900GPに対する期待値は高かった。
しかもXSR900GPの開発関係者はただ単にXSR900にカウルをつけてセパハンにしたのではなく、フレームやサスペンションなど専用のチューニングを施したことで、単なる”ルックモデル”に収まらず、スポーツライディングを高次元で楽しむことができる一台に仕上げてきたと話すのである。80~90年代レーサーレプリカに熱を上げていた私は試乗テスト前から心の奥がドキドキワクワクと期待が止まなかった。
XSR900GPは何処から眺めてもカッコよくまとまっている。特に視覚的に前後長が短くコンパクトに思えるデザインはとてもスポーティだ。個人的にはアンダーカウルも標準装備であればなお嬉しかったが、少しでも車両価格を抑え多くのライダーに手に取ってもらおうとしていることを考えると致し方無いのかもしれない。
車両に跨りライディングポジションを取ると、走り出す前から一瞬にして脳みそがはるか遠い彼方へと持っていかれた。目の前に広がるコックピットは今から30年以上も前の高校生の頃に所有していたTZR250後方排気(3MA)を思い出させてくれたのである。フロントアッパーカウルを支持するステー、スクリーンの湾曲具合などを見ると、もうゾクゾクしっぱなしになってしまうのだ。トップブリッジの表面仕上げ、ビス、クリップ類などディテールも相当こだわっていることがビンビンに伝わってくる。これはニュージェネレーションセンスを持っている若者と、昔レーサーレプリカを楽しんでいた年長者がアイデアを出し合って上手く形にまとめてきたに違いない。思わず笑みをこぼさずにいられない。そしてエンジンを始動し走り出すと、さらにその”感覚”は強まった。
シートは高めでクリップオンハンドルは低い。つまりおのずと前傾姿勢を強いられる。元々レーサーレプリカ、スーパーバイク系のモデルを好む私は「そうそう、これこれ」とグッと腹筋、背筋に力が入る。スロットル操作に従順なクロスプレーン機構を備えたトリプルエンジンは、どの回転域からもしっかりとしたパワーを得ることができる。
シティコミューターとしての性格を鍛えられたモデルではない、だから交通量の多い幹線道路はライディングポジションや足つき性の面など少々ストレスに感じられる面も無くはない。ただこれはピュアスポーツバイクなのだ。ひとたび道が開ければ、即座にスイッチが入る。ハンドリングは秀逸で、ラインを狙ってトレースするのが楽しくてたまらない。気持ちよすぎてペースアップしないで走ることが難しいくらいだ(いい意味でだ)。
ステージに合わせてライディングモードをセレクトすれば、トラクションコントロールの介入度やスロットルレスポンスも合わせて変化するのでイージーライドを楽しめる。ただ甘くはない。むしろ硬派な部類に入る。そして奥深い。だから走りに夢中になることができるのだ。もちろん走らせることにだけ喜びを得られるのではない。私はスタイリングからしてぞっこんになってしまい、走ってはとめて眺めて悦に浸る。試乗テスト期間中、ずっとそんな感じだった。
本当に所有したいと思う程惚れたXSR900GP。オールマイティさを求めるなら、MT-09にする方が良い。しかしそれ以上に何か心を熱くさせてくれるスパイスが込められている。これで税込143万円は非常にお買い得なのではないだろうか。
排気量888ccのCP3(クロスプレーン3気筒)エンジンを搭載。最高出力120馬力、最大トルク93Nmというスペックは兄弟モデルであるMT-09、XSR900と共通であるが、ライディングポジションや車重の違いからか、パワー特性には異なる印象を抱いた。
ヤマハ独自の製法で生み出されるスピンフォージドホイールを採用。車体色が赤/白は赤で、黒/銀は黒いホイールとなっている。フロントフォークのカラーもそれぞれ異なる上、減衰力調整量がXSR900よりも細かく設定できる。
剥き出し感のあるマフラーの形状もXSR900、MT-09と一緒。トリプルエンジンの独特なエキゾーストノートを奏でる。好みの分かれるデザインだが、個人的には好き。
前後のタイヤサイズはXSR900、MT-09と共通だが、1500mmのホイールベースはMT-09より70mm、XSR900より5mm長い設定となっている。
XSR900GPの大きなデザインポイントとなっているフロントアッパーカウル。柔らかなラインを描いた形状になつかしさを覚える。ゼッケンプレートをイメージしたフロントマスクも良い。
5インチの大型TFTメーターを採用。アナログタイプの表示ができるが、いっそのこと丸型タイプの2連メーターにして欲しかった。 専用アプリ「Y-connect(Yamaha Motorcycle Connect)」と接続も可能。
スイッチボックスは十字ボタンをはじめ様々な機能が盛り込まれているが、直感的に操作することができた。クルーズコントロールも便利だ。バーエンドミラーは賛否ある。個人的には昔のレーサーレプリカのようにカウルセットにして欲しかった。
シート高は835mm。このクラスのロードスポーツモデルとしては一般的な数値と言えるが、若干着座位置が高い印象。タンデムライドをしないのであれば、オプション設定されているシングルシートカウル(3万5200円)をつけるのも良いだろう。
ステップ位置は調整可能となっている。第3世代のQSS(クイックシフトシステム)を採用し、加速中のシフトアップと減速時のシフトダウンはもちろん、加速中のシフトダウン、または減速中のシフトアップにも対応する。
リアサスペンションはXSR900と異なる物がセットされている。プリロードは油圧式24段、圧縮減衰も細かく設定可能。リアの接地感、状態がライダーにしっかりと伝わり、気持ちよいスポーツライディングを楽しめる。
燃料タンク容量は14L。パールホワイトとレッドの組み合わせが、私が所有していたTZR250(3MA)を思い出させてくれた。
リアビューはXSR900のそれと同様で、クラシカルかつスポーティ。シートを取り外す際のキーシリンダーは、裏側に備わっている。
シート下にはお約束の電装系が収められているほか、ETC車載器などをセットできるくらいのユーティリティスペースが確保されている。
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