掲載日:2024年06月18日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/淺倉 恵介
SUZUKI GSX250R
現在、多少の落ち着きは見せているものの、コロナ禍のもとで再燃したバイクブームの火は、力強く燃え続けている。この第二次バイクブームともいうべきムーブメントは、新型コロナウイルスばかりが理由というわけではない。その起源は、2000年代後半に勃興した、250ccフルカウルスポーツの人気にこそある。1996年の免許制度改正で、大型二輪免許が自動車教習所で取得できるようになり、ビッグバイクユーザーが爆発的に増加。だが、その反動として普通自動二輪クラスの人気が下降し、メーカーのラインナップも寂しいものとなってしまった。そうした風潮へのアンチテーゼかのように登場した250ccフルカウルスポーツは、軽快な走りや親しみやすい車格と手の届くプライス、そしてスタイリッシュなフルカウルが絶大な支持を受けた。
250ccフルカウルスポーツこそ、第二次バイクブームの原動力という見方もできるのだ。実際、250ccクラスは各メーカーが力を入れていて、個性あふれるモデルが豊富に存在し覇を競っている。その激戦区で、人気モデルとしての地位を確固たるものにしているのがスズキGSX250Rだ。このGSX250Rマシンは、、少し不思議なモデルだ。クラス最強のパワーを誇っているかというと、そうではない。クラス最軽量でも、カスタムパーツが豊富というわけでもない。にも関わらず多くのユーザーを魅了している。GSX250Rの魅力とは、どこにあるのか? 試乗を通して、その本質に迫ってみたい。
GSX250Rは、スズキ250ccクラスの主力モデル。スタイリッシュなフルカウルを身に纏いつつ、日常使用域の使い勝手の良さと扱いやすい操縦性で評価の高いモデルだ。デビューは2016年のミラノショー。それまでスズキの250ccクラスを担っていたGSR250はパッケージでの完成度が高いモデルではあったが、大人しめのスタイリングと250ccクラスではフルカウル人気が沸騰していたことで苦戦を強いられていた。スズキ・スポーツの象徴GSX-Rを思わせる、スポーティなフルカウルを装備したGSX250Rは起死回生の一手だったのだ。
だが、ここで気になるのが車名。なぜGSX-Rシリーズの通例に倣い「GSX-R250」ではなく「GSX250R」なのか? それは、このマシンのキャラクターに理由があると考えられる。GSX-Rシリーズは、レースでの使用までを視野に入れたスーパースポーツだ。だが、GSX250Rは少々毛色が違う。GSX250Rのエンジンは、GSR250由来の排気量248cc水冷OHCパラレルツインをルーツに持つ。シリンダーボアはφ53.5mm、ストローク量はL55.2mmと、いかにもロングストロークなこのエンジンは、低中回転域の豊かなトルクを狙ったもの。スーパースポーツのエンジンで一般的な、高回転高出力型のオーバースクエアの設計ではない。最高出力の高さを意識せず、常用域での扱いやすさとストリートでの実質的な速さ。そして気持ちの良い走りを選んだのだといえる。実際に、GSX250Rでレースを戦うエントラントは、ほとんど存在していない。だが、街中では多くのユーザーに愛され、その走りが支持されているのだ。
GSX250Rの日本導入は2017年春。2021年モデルからはABSを搭載。2023年モデルでは、平成32年(令和2年)排出ガス規制に対応した。年々厳しくなる排出ガス規制、既存モデルを新規制に対応させると最高出力がダウンしてしまう場合が少なくないが、GSX250Rはデビュー以来エンジンのスペックに変更はない。それどころか、多用する5,000回転付近のトルク増大まで果たしている。2024年モデルでは、新たにヘッドライトのLED化が図られ、さらに魅力が増したというわけだ。
まず、ライディングポジションについて。セパレートハンドルは、絞りもタレ角も小さめの現代的なもの。とはいえ、いわゆるスーパースポーツのそれとは違い、ライダーに近く高さもホドホド。上半身はわずかに前傾するが、腕にも背中にも負担は小さい。ステップはネイキッド並みに前方で低い位置にある。アグレッシブなフルカウルのスタイルから受ける印象とはかけ離れ、なんとも気楽なポジションだ。ちなみにステップは、停車時にふくらはぎに当たってしまう。そのせいで足をまっすぐ下ろせず、足つき性をスポイルしている。790mmとシート高自体は低いのに残念だ。取り回し性が良好なのはハンドル切れ角の大きさが効いているのだろう。押し引きだけでなく、Uターンもやりやすい。ただ、車重は気にならなくもない。181kgは、重いとまでは言わないが、軽いとも言えない。
GSX250Rの好ポイントのひとつが、低中回転域での扱いやすさを重視したエンジンだ。試しにアイドリング状態で、クラッチ操作だけで発進してみたところ、GSX250Rはあっけないほど簡単に前に進み出した。そこからスロットルを開ければ、普通に走ってしまう。ビッグバイクのようにゴリゴリと図太いトルク感こそないものの、トルクの粘り感というか、実用域でのエンジンの扱いやすさに関しては出色の出来と言えるだろう。高回転・高出力型のエンジンは、速く刺激的だが乗り手を疲れさせる。その点、GSX250Rの回さずとも走ってしまうエンジンは、街乗りでは大きなメリットだろう。
走り出して、最初に感じたのがサスペンションの硬さ。このクラスに多いのが、やたら柔らかくヒョコヒョコと動きすぎるサスペンション。車体姿勢が変化させやすく、コーナリングのきっかけを掴みやすくはあるが、落ち着きに欠ける。その点、GSX250Rは良い意味で硬い。ゴツゴツと乗り心地が悪いわけではなく、さすがに上質な動きとまでは言えないが落ち着きがある。これは! と思い、高速道路を走ってみた。思った通り、直進安定性はかなり良好。250ccクラスとしては異例のスタビリティだ。軽くマシンを振ったくらいではビクともしない。サスペンションのセットだけでなく、重めの車重がここでは良い方向に働いているのだろう。ただし鈍重なわけではなく、レーンチェンジでは機敏に反応してくれる。誤解を恐れずに言えば、高速道路での乗車感覚はビッグバイク的だ。気になるところがあるとすればシート。硬めのスポンジで疲れにくいのは良いのだが、前後が盛り上がり中央が抉れているので着座位置が固定されてしまう。長距離走行で、お尻に負担がかかった時に気になるかもしれない。
100km/hは6速で7千500回転だから、高速巡行には余裕がある。なんのストレスもない。120km/hは6速9,000回転、振動も増えエンジン音もやかましくなるが十分に許容範囲。法定速度内であれば、高速での動力性能は問題ない。
パワーバンドは6,000回転から上。その下の回転域でも、ストールするようなことはないし、スロットルを捻ればちゃんとレスポンスはしてくれる。元気よく走りたいのなら、6,000回転から9,000回転あたりを使いたい。ピークはメーター読みで8,000回転くらいで、その付近の回転をキープするのが最も速いし、パワーデリバリーがリニアで楽しい。レッドゾーンは10,500回転から始まるが、10,000回転を超えるとパワーがタレてくるので、そこまで回さずにシフトアップするのがオススメだ。
もっとも、パワーバンドを意識しなくても走れてしまうのがGSX250Rの良いところ。高めのギアをホールドして、エンジン回転はあえて低回転域まで落とす。そこからスロットルを大きく開ければ、息の長い加速が楽しめる。あまりに気持ちが良いので、つい何度も味わってしまった。スロットルを開けているので、トラクションもしっかりかかり、コーナー立ち上がりでの安定感も高い。これが楽しい! もちろん、積極的にスポーツライディングを楽しみたいのなら、頻繁にシフトして適切なギアを選択して走るべきだ。だが、サーキットでタイムを削ろうとするのでもなければ、安全が担保できればどんな走り方をしても良いのではないか? GSX250Rで峠を走っていると、そんなことを思った。
硬めに感じるサスペンションは、攻めた走りでも好印象。フロントフォークは少々のブレーキングではダイブしないし、リアも踏ん張ってくれる。だが、その分車体のピッチングが起きにくいセットなので、乗り手が積極的に荷重移動を行うことで旋回性を引き出せる。高速道路で感じたように着座位置が固定されがちなシートなのだが、思い切り腰を引いてシート後端の盛り上がった部分に座り、上半身を伏せて腰をイン側にオフセットすると気分はmotoGPライダー。街中では褒められたものではないが、ワインディングで”気分”を味わうくらいなら、ライダーの権利として許されるだろう。もちろん、交通ルールの範囲内で楽しむことが前提だ。
今回、街中・高速道路・ワインディングと、一般ユースで想定されるシチュエーション300kmあまりを走った。街中ではエンジンの扱いやすさが光り、高速道路では疲れ知らずのクラスを超えたスタビリティを感じ、ワインディングでは積極的にマシンを操る楽しさを味わった。どんな場面でもGSX250Rは楽しめる。だが、裏を返せば優等生的で、飛び抜けた部分はないともいえる。けれど、優等生のどこが悪いのだろうか? GSX250Rはどんな使い方にも応えてくれる。250ccクラスはエントリーユーザーが多いカテゴリー。であればこそ、GSX250Rのような、万能性に長けたマシンこそ相応しい。自分がバイクで何をしたいのか? を見つけるのに最適な一台だ。酸いも甘いも嚙み分けたベテランにも乗ってみて欲しい。スペックに騙されてはいけない、このマシンの奥行きはなかなかに深い。
2024年モデルから新採用されたLEDヘッドライト。ユニットは上下分割式で、Lowで上側のみ点灯、Highで上下が全点灯する。
排気量248cc水冷SOHC2バルブの並列二気筒エンジンは、最高出力24PS、最大トルク22N・mを発揮する。ロングストロークタイプで、低中回転域のトルク特性に優れる。
セパレートハンドルは、トップブリッジの上側にマウントされ、リラックスしたポジションを構築できる。ハンドル切れ角は、左右それぞれ34°と十分に確保される。
インストルメントパネルはフルLCD。車速・エンジン回転数・時計・ギアポジション・燃料計は常時表示。オドメーター・トリップメーター・平均燃費・電圧計は切り替え表示。シフトタイミングインジケーターは任意表示となっている。
フロントのブレーキキャリパーは、片押しピンスライド2ピストン。ブレーキローターはペタルタイプを組み合わせる。ABSを標準装備。
スイングアームは、コンベンショナルなスチール製の四角断面タイプ。リアサスペンションは、リンクレスのモノショック。
リアのブレーキキャリパーは、片押しピンスライド1ピストン。ブレーキローターはペタルタイプを組み合わせる。ABSを標準装備。
ライダーシートとタンデムシートは分離している。シートレザーは細かなパターンが設けられた滑りにくいもの。
テールランプの光源は省電力で長寿命なLEDを採用。ウインカーの光源は一般的なバルブで、レンズはクリアタイプ。
タンデムシートはイグニションキーで脱着可能。内部スペースはETC車載器が搭載可能な程度だ。樹脂製トレーの下にはABSユニットが設置されている。
タンデムシート裏には、格納式の荷掛けループを装備。ヘルメットフックも2つ備える。六角レンチは、ライダーシートの脱着に使用するためのもの。
ライダーシート後部を持ち上げた所にある2本のボルトを外すと、ライダーシートが外れる。ライダーシート下にはバッテリーと車載工具が設置されている。リアショックユニットのプリロード調整も、ライダーシートを外した状態で行う。
タンデムステップのステーに荷掛けフックを備える。タンデムシートの格納式の荷掛けループと併用すれば、安定した荷物の積載が可能。
燃料タンク容量は15Lを確保。低燃費性能に優れるエンジンを搭載しているため、航続距離はかなり長い。
左側ハンドルスイッチには、ハザードランプボタンとパッシングスイッチを備える。
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