掲載日:2024年05月28日 試乗インプレ・レビュー
協力協力/KTM JAPAN 写真・衣装協力/ハスクバーナ モーターサイクルズ 取材・文/河野 正士
HUSQVARNA SVARTPILEN 801
ハスクバーナ モーターサイクルズ(以下ハスクバーナMC)のネイキッドカテゴリーは、カフェ&ロードスタースタイルのヴィットピレンシリーズと、スクランブラー&フラットトラッカースタイルのスヴァルトピレンシリーズがラインナップされている。今回発表された「スヴァルトピレン801」は、その最新モデル。スクランブラースタイルを採用しているが、前身モデルであった「スヴァルトピレン701」がフラットトラッカースタイルであったことから、フルモデルチェンジによってそのスタイリングにも大幅に手が加えられていることが分かる。
スヴァルトピレン701は、2017年EICMAミラノショーでコンセプトモデルがお披露目。翌2018年EICMAで市販モデルを発表、2019年モデルとしてラインナップに加わった。ちなみにヴィットピレン701はスヴァルトピレンより早く、2015EICMAでコンセプトモデルをお披露目。2017年EICMAで市販モデルを発表、2018年モデルとしてラインナップに加わっている。
また旧701シリーズは、単気筒エンジンにトレリス構造のクロームモリブデン鋼パイプフレームを採用していたのに対し、「スヴァルトピレン801」は並列2気筒エンジンとコンパクトな新型クロームモリブデン鋼チューブラーフレームを採用。排気量も799ccとし、同社ネイキッドカテゴリーの最大排気量モデルとなった。
新たに採用したエンジンは、ハスクバーナMCと同じKTM傘下のブランド/CFモト製。排気量799cc並列2気筒DOHC4バルブだ。クランク前方および2本のカムシャフトの間にバランサーをセットし、振動低減が図られている。またカムシャフトは、鍛造カムシャフトよりも軽量な組み立て式。フィンガーフォロワーロッカーアームにはDLCを施しフリクションロス低減を実現している。
2つのシリンダーにそれぞれセットされるフューエルインジェクション用のφ46mmスロットルボディはデロルト製で、ライダーのアクセル操作を電子信号でEMS(エンジン・マネージメント・システム)に送るライド・バイ・ワイヤー・スロットルを採用。EMSは2つのシリンダーを個別にモニターし、それぞれに適した制御を行っている。
エンジンはレイン/スタンダード/スポーツの3つのライディングモードに加え、オプションのダイナミックパックを選択すると、4つ目のライディングモード/ダイナミックが追加される。
またボッシュ製のコーナリングABSは、スーパーモトモードの選択でリアのみABS介入をキャンセルすることが可能。また6軸IMU(慣性計測ユニット)で得たデータを元にライディングモードやバンク角を考慮しながらスロットルバルブをコントロールし、リアタイヤのトラクションをコントロールするコーナリングMTC(モーターサイクル・トラクション・コントロール)、さらにはMSR(モーター・スリップ・レギュレーション※エンジンブレーキ・コントロール)やイージーシフト(※クイックシフター)などの電子制御システムを搭載。それらは好みに合わせて設定を変更したり、ON/OFFを設定したりすることもできる。
さらにはPASC(パワー・アシスト・スリッパー・クラッチ)を搭載することで軽いクラッチ操作と、シフトダウン時の車体の挙動を抑え、アップ/ダウンに対応したイージーシフトと合わせてなめらかな加減速を実現。快適性と安全性の両方を高めている。
新型フレームは、クロームモリブデン鋼を使ったチューブラータイプ。エンジンを吊り下げるようにマウントし、そのエンジンをフレームの一部として使用することで、フレームそのものは軽量でコンパクトに仕上げられている。そのねじれ剛性と縦剛性を最適化することで、前後にセットしたWP製APEXサスペンションからのフィードバックを、詳細にライダーに伝えるようセットアップされている。
「スヴァルトピレン801」に跨がってすぐに感じるのは、車体のコンパクトさだ。新型フレームと、シートレールとリア周りの外装を兼ねるアルミキャスティングのリアフレームによって、シート高は820mmに設定されている。その高さは、先に発表された新型401シリーズと同じである。新たに排気量の大きな並列2気筒エンジンを搭載したり、燃料タンク容量を大幅に拡大し14リットルとしてことでタンク周りのボリュームが増大したり、さらには車体回りをあえてボリュームアップすることで走行安定性や居住性の向上を図ったりしているため、400ccクラス並みの車体の大きさとは言わないが、足つき性も良く、また走り出すとすぐにライダーが車体の重心近くに座っていることが感じられ、それだけで安心感が高まり、それが車体を意のままに操ることが出来るという自信に繋がる。停車している車両を見ると、さほど小さく見えなかったことから、遠目に見たときと跨がったときの、この良い方向のギャップはライダーを安心させるだろう。
また停車している車両をいろんな角度から見ると、ホイールベースが長くなっているのはすぐに分かり、しかもその大半はスイングアームが占めるのでは無いかと思うほど。エンジンが小さく、なおかつ車体前方にあり、また外装類のボリューム感もフロント周りにあり、それがテールカウルに向かって美しく集約している。それによって数字以上にスイングアームが長く見え、スタイルアップとともに、いかにも走りそうなオーラを放っているのである。
その小さなエンジンはとても良かった。2つのバランサーが内蔵されていることから振動が少ないのはもちろん、75度位相クランクを採用することで、不等間隔爆発エンジンでありながら滑らかなエンジンフィーリングを造り上げている。そのパフォーマンスは、同等排気量の2気筒エンジン搭載モデルの中では群を抜いていて、900ccカテゴリーのライバルたちとも渡り合えそうなほどだ。そしてそれはスペックの数字だけではなく、スポーツ走行およびストリートライディングにおける実際のパフォーマンスや扱いやすさにおいても、ひとクラス上のライバルたちと勝負できると感じたほどだ。
全域においてスムースでパワフルなエンジンは、スポーツモードを選択するとアクセル操作に対するレスポンスが向上。3000回転付近からビート感が強まり、力強さも増す。そして5000回転付近からさらに加速感が強くなり、それは401の単気筒エンジンでも感じた、車体がフワッと軽くなったような加速である。ダイナミックモードを試すとエンジンはさらにレスポンスがよくなり、よりダイレクト感が増してくる。フロントフォークの減衰力を調整すれば、そのエンジンに反応に合わせてサスペンションの動きをコントロールすることができ、アクセル操作や体重移動などに対する車体の反応がよりダイレクトになり、車体がより軽くなったように感じられたのである。この様にサスペンションをしっかりと動かしながら車体の反応を変化させられるのは、フレームの剛性バランスが優れている証でもある。
現在、スーパースポーツに起源を持たない排気量1000cc以下/100馬力以下のスポーツバイクは、“Sub-1000”や“Sub-100hp”などと呼ばれ、海外のメディアを見るとそれらは『ソフトスポーツバイク』という新しいカテゴリーに属するモデルとして語られることが多くなった。扱いやすさと、高いスポーツ性という異なる領域を高い次元でバランスさせた「スヴァルトピレン801」は、その新たなカテゴリーでベンチマークになるモデルに仕上がっている。今回の試乗で、それを強く感じたのだった。
スヴァルトピレン801(身長170cm/体重65kg)
排気量799ccの並列2気筒DOHC4バルブエンジンは、全てのコンポーネントを含めても重量52kgと軽量。2つのシリンダーおよび吸気系をモニタリングし、EMSがそれぞれのシリンダーの燃焼や吸気をマネージメントする。
ヘッドライトおよびテールライト、ターンシグナルはLED製。ヘッドライトを取り囲むようにリングタイプのLEDポジションライトを配置する。
燃料タンクは14リットルに拡大。それにともない左右に張り出した特徴的なデザインの燃料タンクカバーデザインもやや大きくなった。燃料タンクカバーの後端にはタンクパッドが標準装備されている。
シート高820mmのライダーシートとタンデムシートは独立して配置。またそれらのシートを収めるシートカウルはアルミキャスティングで、シートレールと外装類を兼ねる。その造形やラメを散りばめたペイントも美しい。
ライダーシート下にデザインされたエアインテーク。機能的であると同時に、美しいラインで構成されていて、リア周りのアクセントにもなっている。キャスティングのリアフレームは複数のパーツで構成されている。
フロントフォークはφ43mmのWP製APEX。フォークトップのダイヤルはグローブをしたままでも調整可能で、伸側/圧側ともに5段階で減衰力調整が可能。調整量を限定したことで変化量が分かりやすく設定されている。
リアサスペンションはWP製APEX。リンク機構を持たず、アルミ製スイングアームに直接セットする直押しタイプだ。BOSCH製のコーナーリングABSシステムを採用。スーパーモトモードでリアABSをキャンセルできる。
アルミ製スイングアームを採用。ホイールベースをあえて長く取り、走行安定性を向上させながら、スポーティなハンドリングも実現している。タイヤは前後とも17インチでピレリ製MT60RSタイヤを採用する。
ブレーキシステムは、前後ともにスペインのブランド/J.Juan製を採用。フロントブレーキマスターはアジャスター機構付きのラジアルポンプタイプで、制動力およびタッチも申し分ない。
フロントにはφ320mmのブレーキディスクと、ラジアルマウントの4ピストンキャリパーをダブルで装着。リアには240mmシングルブレーキディスクにワンピストンキャリパーを組み合わせる。
701シリーズに採用された、特徴的なサイレンサーエンドキャップのデザインは継承。跳ね上げタイプのデザインを採用している。新しい排気ガス規制ユーロ5+をクリアしている。
PASC(パワー・アシスト・スリッパー・クラッチ)を搭載することでクラッチ操作の負担を軽減し、シフトダウン時の車体の挙動を抑えている。イージーシフトとの連携によって走行中はクラッチレスのシフト操作が可能。
コネクティビティ機能を持った5インチTFTディスプレイを搭載。そのディスプレイ画面上でラインディングモードやコーナーリングABS、MTCやMSRなど各種電子制御デバイスを設定できる。
スヴァルトピレン801の日本導入は8月を予定している。希望小売価格は138万9000円である。
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