掲載日:2021年06月30日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
aprilia RS660
本題であるRS660の話に入る前に、アプリリアというブランドについて触れておこう。ポスト団塊ジュニアと呼ばれる世代である私は、レプリカブーム全盛期に免許を取れる年齢に達してなかったものの、まだまだ2ストロークエンジンを搭載したバイクが開発されていた時期を体感しているし、免許取得後は峠を攻めに行く、いわゆる走り屋の端くれだった。そんな私の記憶に残る一台、それはアプリリア・RS250だ。国内の規制により250ccバイクの最大出力が45馬力、40馬力と抑えられてゆく中で、70馬力という規格外のスペックで登場したRS250には多大な衝撃を受けたものである。
さらに原田哲也氏や坂田和人氏など日本人ライダーを起用しレースで好成績を挙げ、現在もMotoGPやWSBKに参戦し続けていることからも、スポーツバイクを手掛けることに長けたイタリアンブランドというイメージがある。そのようなアプリリアが満を持して世に送り出したフルカウルスポーツバイク、RS660をテストする。
もはや最高峰レーシングバイクの定石的エンジン形式となった感のあるV型4気筒エンジンだが、アプリリアもまたMotoGP、WSBKへの参戦車両にV4エンジンを使用しており、市販フラッグシップスポーツモデルであるRSV4も同様となっている。今回新たに誕生したRS660は、新開発の並列2気筒エンジンを採用しているが、実は先述したRSV4に搭載されるV4エンジンの前側バンクをその由来としている。
つまりレーシングDNAを受け継ぎながら、新たなパワートレインを開発したということになる。最高出力である100馬力は10500回転で発生し、さらにミドルクラスのフルカウルスポーツバイクとして最軽量となる183kgの車重という数値も相まって、極上のスポーツライディングを楽しめることは容易に想像することができる。さらにRS660はフラッグシップスーパースポーツ同等のAPRCという電子制御システムを搭載しており、幅広いスキルのライダーが、秘めたるポテンシャルを引き出すことが可能とされているのだ。それでは実際にRS660に乗り、その感触を確かめていきたいと思う。
RS660を目の前にすると、とても凝ったデザインになっていることが分かる。三眼LEDヘッドライトはRSV4の直系を連想させるものであり、クラスを超えた存在感を示すものであるし、サイドパネルにはエアロダイナミックを計算したダブルフェアリングが設けられているほか、コンパクトに纏められたテールセクションやアンダーカウルにインデザインされたエキゾーストシステムなどからもレーシーな雰囲気が醸し出されている。デザインを担当したミゲール・ガルーツィは、初代ドゥカティ・モンスターの生みの親としても知られており、モンスターも今シーズンフルモデルチェンジを果たしたというのも何かの因果かもしれないと感じさせる。
高めにセットされたシートに腰を下ろし、エンジンを掛けて走り出す。並列2気筒というエンジンレイアウトは、低回転域においてややモッサリした印象を受ける場合が多いのだが、4000回転で最大トルクの80%を発生させるというセッティングが施されていることもあり、しなやかな回転上昇でありながら、しっかりとしたパワーを得ることができるので、市街地でも扱いやすい。スロットルを積極的に開けてゆくと、7000回転から先にさらに大きなパワーバンドがあり、その付近を上手く使って走らせることで、極上のスポーツライディングを堪能することができる。
ハンドリングに関しても秀逸だ。超軽量であるが故に、振り回して走らせることができ、それでいながらも破綻するような気配すら感じさせない。リッタースーパースポーツがトルクを武器にして走らせるのに対し、RS660は軽快なハンドリングが強みと言えよう。ただワインディングを泳ぐように走らせるだけで幸福感を得られ、これはスポーツバイクとしてとても魅力的なことだと私は思う。
素晴らしいエンジンとシャシーの組み合わせと、さらに付け加えておきたいのが、APRC電子制御の存在だ。APRCはトラクションコントロール、ウイリーコントロール、クルーズコントロール、クイックシフト、エンジンブレーキ、エンジンマップの六つの機能を司っている。加速度や制動力、バンク角やヨー&ピッチなど、あらゆる面で車体の動きを感知しつつ、車体を電子的に制御するのだ。プリセットされた3種のライディングモードだけでなく、それぞれの介入度を任意に調整することができるので、ステージによって自分のライディングに合うセッティングを楽しむことができる。
今回は市街地からワインディングというシチュエーションでのテストであったが、ライトウエイトスポーツの新しい時代を感じるには十分と言えるものだった。意外だったのはスポーティなだけでなく、コンフォータブルな面も持ち合わせていることで、車列に並びゴーストップの繰り返しを強いられるような場面でも苦にならなかったことだ。そのような時に、開発者が「快適性に注目してしてもらいたい」と言っていたことが思い出された。
ミドルクラスバイクが見直されている昨今、ビギナーでもエキスパートライダーであっても、RS660というバイクは満足できる良い選択だと思う。
新開発の659cc並列2気筒エンジン。ボアストロークは81×63.93mmとするショートストロークタイプ。最高出力は100HP/10500rpmで、最大トルクは67Nm/8500rpm。低回転で扱いやすく、中高回転でパワフルという印象。
フロントセクションは、KYB製フルアジャスタブル倒立フォークに、ブレンボ製2ピストンキャリパーをラジアルマウント。120/70ZR17タイヤは、現在のスーパースポーツの主流と言えるサイズ。
アプリリア製スポーツバイクのアイデンティティを強く感じさせるフロントマスク。メリハリのある色使いも気分を高揚させる。空力を徹底的に研究したうえでスタイリングが纏められており、サイドパネルはダブルフェアリングとされている。
クラッチレバー操作をせずにシフトアップ/ダウンが可能な、AQS(アプリリアクイックシフト)を標準装備。部品を交換することなく、逆チェンジシフトに変更することもできる。
両持ちタイプの非対称スイングアームをエンジンケースに直にセット。ヒールプレート、インナーフェンダー、チェーンカバーのデザインワークが秀逸で、イタリアンブランドならではの美しい造形が魅力的だ。
リアサスペンションはモノショックで130mmのトラベル量を持ち、リアタイヤからのインフォメーションをダイレクトにライダーに伝えてくれる。体重や乗り方にもよるが、プリロードを一度緩めてから、一番乗りやすいと思うところまで締めると良いだろう。
アンダーカウルのデザインと統一感が持たされたサイレンサー。デザイン的な美しさだけでなく、この場所にセットすることで、マスの集中やタンデム時のパッセンジャーフットレスト周辺の自由度が増している。
フルカラー液晶ディスプレイを採用。様々な機能を集約しているものの視認性は高い。なおライディングモードは、Commute(街中でのライディング)、Dynamic(スポーツモード)、Individual(電子制御フルカスタム可能)に分けられている。
左側のスイッチボックスに、各種機能を呼び出し選択することができる4方向ボタンが配置されている。その上に見えるのはオートクルーズスイッチだ。ライディングモードセレクトボタンは右手側のスイッチボックスに備わっている。
有機的なラインを描きつつも、内ももでしっかりと抑えの利く形状とされた燃料タンク。15Lと十分な容量を誇り、ツーリングなどでも使い勝手は良いだろう。
ライダーとパッセンジャー側でセパレートされた2ピースタイプのシート。シートは820mmと高めだが、角が落とされた形状のため足つき性はさほど悪くない。それに車重が軽量なことも安心感につながっている。
面発光LEDを採用するストップランプはテールカウル内にインサートされるデザイン。サーキット走行も想定しており、ナンバープレートホルダーやパッセンジャーフットレストは脱着できるようになっている。
パッセンジャーシートを外すと、リアキャリアとして使えるようになっている。ツーリング時など荷物の積載能力に悩みがちなフルカウルスポーツでこの仕様は助かる。ライダーシート下のユーティリティスペースはETC車載器+書類程度。
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