掲載日:2019年06月11日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真/山家 健一
MOTO GUZZI V9 BOBBER SPORT
モトグッツィ伝統の縦置きVツインに米国発のカスタムトレンドであるボバースタイルを融合させたV9ボバーをベースに、よりスポーティな外観と走りの性能が与えられたのが「V9ボバースポーツ」である。ボバーとは第二次大戦後にダートトラックレース用に改造されたマシンに端を発するスタイルで、余計なものを取り去った機能的でミニマムなデザインが特徴になっている。その意味で「スポーツ」は、より“らしさ”を強調した派生モデルと言えそうだ。
エンジンはV9ボバー(STD)と共通だ。V7ベースの空冷縦置きV型2気筒OHV2バルブの伝統的レイアウトはそのままに排気量を850ccに拡大。新型アルミ製シリンダーヘッドの採用や、ピストンとシリンダー、動弁系の見直しによるフリクションロス低減と耐久性向上、オイルラインの改良などにより信頼性を高めるとともに燃費と出力も向上されている。もちろん、ユーロ4適応だ。
高張力鋼管ダブルクレードルタイプのフレームに正立フォークとツインショックを組み合わせたオーソドックスな構成や、ブレンボ製前後ディスクブレーキを装備した前後16インチのアルミダイキャストホイールにレトロ感漂うハイプロファイルタイヤを装着。フロントにはワイドな130サイズが採用されるなど、車体の基本骨格もSTDと共通だ。
一方、V9ボバースポーツではリアサスに新たにオーリンズ製ツインショックを採用。低めのソロシートとドラッグバータイプのハンドルの採用などでローライド感を強調しつつ、新デザインのアルミ製スリップオンマフラーやフロントバイザーの追加などにより、見た目もさらにスポーティにアップグレードされている点がSTDとは異なる。
電子デバイスについては2チャンネルABSや2段階から選択できるトラクションコントロール(MGCT)などの安全装備の他、イモビライザーやUSBポートなどの装備も従来どおり。同じくBluetoothでスマホをリンクできるマルチメディア・プラットフォーム(MG-MP)もオプションで用意されている。
低く構えたフラットバーと低く平たいシングルシート、短く切り詰められたフロントフェンダーなど、STDに比べて“削ぎ落とし”が強調されたことで本来の意味であるボバーらしさが増している。加えて、より低くセットされたヘッドライトとミニマルなバイザー、スラッシュカットされたサイレンサーとひと目でそれと分かるイエロースプリングのサブタンク付きオーリンズ製リアショックが“走り”のモデルであることを主張している。ひと口に言うと、STDのV9ボバーのカスタムテイストをさらに深めつつ、さらにスポーティに仕上げた印象だ。
モトグッツィ独特の縦置きVツインはVバンクが車体の左右に広がる形なので、ニーグリップする部分は逆にとてもスリムだ。元々低かったシートはさらに低くなり足着きの良さは抜群である。STDとの違いはライディングポジションだ。ハンドルは拳一個分ほど低く前寄りになり、ステップ位置はだいぶ後方にセットされたため、STDに比べるとやや前傾した姿勢になる。とはいえ、元々コンパクトな車体なのでポジションはいたって自然な感じ。その分クルーザーらしさは薄れたが、ステップが後退したことでヒザがシリンダーヘッドに干渉しなくなった感じはある。
エンジンは想像していた以上にパワフルで、特に発進からの加速ではうかつにスロットルを開けると上体がのけ反るほど。完全に低中速トルク型のキャラクターで、骨太な空冷Vツインの鼓動感と弾けるサウンドとともに路面を蹴飛ばすように飛び出していく。スラッシュカットされたアルミサイレンサーが奏でるワイルドな音質も気持ちいい。穏やかになったとはいえ、スロットルオンで車体が右に傾ぎ、加速でリヤがリフトするトルクリアクションも健在。良い意味でモトグッツィらしさはちゃんと息づいている。一方で回転はスムーズで振動も少なく、滑らかなシフトフィールと軽いクラッチ操作など、V9シリーズは進化した現代のモトグッツィの姿を我々に見せてくれる。
STDの素直で安定したハンドリングはそのまま、乗り味はよりスポーティさを増した。縦置きVツインのメリットでもあるロール方向への軽さを生かした軽快なコーナリングと前後16インチによる小回りの良さが魅力。それでいてフロント130サイズのワイド&ハイプロファイルなタイヤによるゴロッと転がるような手応えも味わい深い。さらに言うと、「スポーツ」では前傾スタイルによるフロント接地感を生かしたコーナリングがしやすく、またコーナー脱出ではスロットルオンとともにオーリンズ製ツインショックがそのトルクを確実に受け止めて路面に伝えてくれる安心感がある。さらにマンホールなど滑りやすい路面でグリップが破綻したときでもトラコンが介入してスライドを収めてくれるなど、2チャンネルABSとともに安全装備がしっかりしていることポイントだ。
モトグッツィのアイデンティティでもある縦置きVツインをクラシカルでモダンなデザインで包み込んだ最新作、V9ボバーは他のどのモデルにも似ていない個性と乗り味を持ったモデルである。そして「スポーツ」では走りの良さもさらに深まった。タンデムやロングツーリングを含めた使い方ならSTDモデルが向いているし、ソロで街を流したり爽快にスポーツツーリングを楽しみたい人には「スポーツ」をおすすめしたい。
伝統の空冷縦置きV型2気筒OHV2バルブ853ccエンジンはV7シリーズをベースにボア・ストロークともに拡大して排気量アップ。シリンダー&シリンダーヘッド、ピストン、オイルラインなど全面的に見直されている。スペックを含めV9ボバーと共通仕様。
シリンダーヘッド内部の補助エアシステムに三元触媒、O2センサーを装備しユーロ4に対応するなど環境性能も最新。ロゴ入りのヘッドカバーの採用などV9シリーズ専用のグレード感溢れる作りも魅力だ。
扁平タイプのスチール製燃料タンク(容量15リットル)もSTDと共通。タンクキャップは鍛造アルミ製のキー付きタイプにグレードアップ。イーグルマークの立体エンブレムとロゴ入りブラックストライプが鮮明なオレンジカラーを引き締めている。
ノスタルジックな雰囲気のロープロファイル・シングルシートを採用。滑りにくい素材でホールド感があり、薄い割に座り心地も見た目以上に良好だ。スペック上ではシート高は785mmとSTDより5mm高いが実際は逆に低く感じる。リアサスのセッティングにも関係しているようだ。
アルミ製のロゴ入りサイドカバーはデザインが見直され、フレームに添って下までカバーされるタイプへとアップグレードされた。シート脱着用のキーシリンダーの位置も変更されている。
フロント足まわりは正立フォークとブレンボ製対向4ピストンキャリパー&シングルディスク、アルミ鋳造ホイールの組み合わせ。ハイプロファイルの16インチ、130サイズタイヤもSTDと共通仕様。フロントフェンダーのみショート化され軽快感をアップ。
ドライブシャフト一体型スイングアームにオーリンズ製ツインショックの組み合わせ。別体式リザーバータンク付きでスプリングプリロードと伸び側/圧側ダンパーの調整が可能。快適な乗り心地とスポーティな走りを両立する。左右2本出しマフラーはスラッシュカットされた軽量なアルミ製サイレンサーを新たに採用、よりスポーティな雰囲気になった。
丸目1灯のヘッドライトはSTD同様マルチリフレクタータイプを採用するが、マウント位置をより低めとしアルミ製ミニバイザーでドレスアップ。低いライザーとドラッグバーの組み合わせによりローライド感が強調されている。
モトグッツィ独特のデザインされたスイッチボックス。メーターのモード切り換えスイッチ、トラクションコントロールのボタンなどが美しく配置されている。
スマホなどのITガジェットに対応するUSBポートをステアリングヘッド下の右サイドに配置。防犯対策用のイモビライザーも標準装備するなどSTDと共通。
ステップまわりはホルダー、バー、ペダルなどすべてのパーツが高級感のあるアルミ製。ステップ位置は初期型V9ボバーに比べるとだいぶ後方にセットバックされ、低めのハンドル位置も含めてよりスポーティなライディングポジションになった。
ブラックパネルに細めのホワイトレターが渋いメーターパネルはSTDと逆の色パターン。
シンプルなアナログ式速度計と控えめなデジタル表示が、クラシカルでモダンな雰囲気を高めている。
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