

掲載日:2015年11月05日 試乗インプレ・レビュー
レポート/和歌山 利宏 写真/本田技研工業 記事提供/ロードライダー編集部
※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『New Model Impression』を再編集したものです
ヴァレンシアでの試乗の合間や終了後に、ホンダのスタッフから「何か気になる点はありますか?」と聞かれ、答えに窮した。
完璧なバイクなんてないのだから、通常はいくつかの項目が口から出てくるし、ワークスマシンの場合だって、自分にはセッティングをこう変更したいという気持ちが芽生えたりもするものだ。だが、このRC213V-Sにはそれが一切ない。
つまり、このバイクは、自分が考えるスーパースポーツ、あるいはレーシングマシンの理想形をはるかに凌駕していたということだ。
不満がないということは、フラストレーションがないということでもある。近年のスーパースポーツ、いや全てのカテゴリーの高性能バイクは、照準とした高性能域では最高でも、それ以下の日常域ではただ転がしているだけで、面白くも何ともないなんてことになりかねない。
でも、この213V-Sと来たら、ピットロードでゆっくりスラロームするだけでも、マシンは表情豊かにフィードバックを伝えてくる。
接地感も豊かにステアリングが反応し、舵角が入る。仮にも、あの驚異のバンク角と高出力を前提にした213Vのレプリカがである。現在のモトGPでは、ここまでの自由度がないと通用しないということなのだろうか? とにかく、現在の市販スーパースポーツでは、ここまでストリートバイクよろしくマシンが乗り手に寄り添ってはくれない。
フラストレーションがないのはハンドリングだけではなく、エンジンも同様だ。スロットルレスポンスは、オンオフとその繋がりが素晴らしく、あらゆる領域でスロットルで小気味良くマシンを操ることができる。
おそらくはギア段数によって、その繋がり具合が最適化されているのだろう。2速で回れるコーナーを1速まで落としても、ギクシャクせずスムーズだし、4速であってもメリハリを保てる。ワイドレンジでストレスを感じさせないのだ。
この欧州仕様車の最高出力159psは、物足りなさも過剰感もない。スーパースポーツとして使いこなす面白さがある。低速トルクも豊かで、しかもトルクの上昇感をほぼ全域で生かせる。上限が12,000rpmにあるのも、ほどよい高回転型特性だ。健康的に楽しめるのである。
それでいて、サーキットでの速さは市販リッタースポーツを凌いでいる。車重が10kg少々軽く、マスも集中しているので運動能力が高く、走り、曲がり、止まることをさりげなく高水準にこなしてくれる。
オーリンズのTTXフォークとブレンボのブレーキのおかげで、ブレーキングから初期旋回におけるコントロール性も抜群なのだが、この組み合わせでここまで洗練されたフィーリングを得たことはない。車体パッケージングとしての完成度が驚くほど高いということだ。
そればかりか、213V-Sは上質極まりない。たとえば、乾式クラッチは軽い操作力で切れも良く、発進時は軽く、それでいて節度を伴なってローに入る。これも経験したことのない上質感である。
ドライカーボンカウルを未塗装のままとしたキットパーツ車は、STDから10kg軽く、215psを発揮。こちらはまさにレーサーそのものだ
そして、別売となるキットパーツを組み込んだマシンに乗ると、ますますワイドレンジぶりに驚かされることになった。セルモーターや保安部品を外し、マフラーを換装したことで、さらに車重は10kg軽くなって、モトGPマシンと同水準。最高出力215psを発揮する。
STDの213V-Sの特性をそのままに、サーキット性能が高次元化されていると感じる一方で、レーシングマシンそのものとの印象が交差する。驚いたことに、サスセッティングは、プリロードから伸び圧のクリック位置までSTDのままだというではないか。やはり、フラストレーションとは無縁である。
RC213V-Sは、単なるモトGPマシンレプリカではなく、最高のスーパースポーツであるとともに、将来の進化の方向を示唆。偉大なモデルだったというわけである。
基本はモトGPマシン RC213Vそのもので、各パーツの材質や製法も同車を忠実に再現しながら、公道走行に適合させるための変更が加えられた。保安部品、マフラーへの触媒、サイドスタンド、セルモーターなどを装着して、ハンドル切れ角も15度から26度に拡大されている。
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