

掲載日:2013年12月19日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/MOTOCOM 衣装協力/HYOD
国産メーカーが産声を上げる遥か以前に、世界のレース界を席巻したノートンというブランドに、敬意にも似た特別な思いを抱く人も少なくないだろう。コマンド961シリーズは、そうしたファンの期待に応える現代のバイクである。エンジンにはかつてのコマンド同様、あえて旧式のレイアウトである空油冷並列2気筒OHVを採用しているあたりが泣ける。それでいて足周りは現代のハイグレードパーツで固めつつ、デザインは1950~60年代のカフェレーサーイメージを投影しているところが渋い。単なる旧車のリバイバルではなく、ノートンを現代的に解釈したモデルと言えるだろう。
外見は最近流行りのネオクラシック風で、往年のプロダクションレーサー『マンクス・ノートン』(マン島仕様のノートン)を彷彿させるロングタンクと、丸みのあるシングルシート、クロームメッキのホイールなどが特徴的だ。跨ってみると、ロングタンクであるが故にシートポジションはかなり後ろ寄り。タンク後端部が極端に絞り込まれているため、ニーグリップすると内股気味になるほどヒザが入る。ハンドルは遠いが比較的高い位置にあり、ステップ位置も前寄りなので、前傾は思ったほどきつくない。ひと昔前のヨーロピアンスタイルといった感じだ。
ノートンという名前とエキセントリックな外観から気難しいイメージもあったが、走り出してみると意外なほど素直で乗りやすい。エンジンはOHVらしからぬ軽やかな吹け上がりでとにかくパワフル。リッター近い排気量から繰り出される270度ツインらしい鮮明なパルス感、中回転域での弾けるトルクは迫力満点で、軽量な車体をグングン加速させていく。スペック的には最高出力80pを7,700rpmで発生するが、実際は7,000rpm辺りがピーク。あまり上まで引っ張るより、5,000~6,000rpmのミッドレンジを使って、早めにシフトしていくのがこのエンジンには合っているし、走っていて楽しい。粗目のソリッドな鼓動を感じつつ、ガツガツと路面を蹴飛ばしながら立ち上がっていく快感は、電気仕掛けの最近のマシンではなかなか味わえないものだ。なお、エンジンにはバランサーを内蔵しているが、リジッドマウントであることも含めて振動はそれなりに伝わってくるし、メカノイズも賑やかでシフトショックも大きめ。そういった個性が強いモデルなので、そのつもりで付き合う覚悟は必要だ。
スチール鋼管フレームを主体とするシャーシは、エンジンも補強メンバーとして利用するタイプで、かなりしっかり作られている印象だ。加えて、前後オーリンズとブレンボが標準装備されるなど、パワーに負けないハイスペックな足周りが与えられたことで、走りのレベルは相当高いところにある。ハンドリングはほどよく軽快かつ安定感もあり、想像していた以上に洗練されている印象。それもそのはずで、スペックを見て納得。1,420mmのホイールベースに24.5度のキャスター角、前後17インチホイールにワイドラジアルタイヤの組み合わせは、まんま現代のスポーツモデルとして通用するディメンションだ。
よって、中高速コーナーに飛び込んでいくような走りが得意。スパンと寝かせたら、車体にしっかり荷重を与えてサスペンションに仕事をさせてやったほうが、コーナリングもピタっと決まる。巷のネオクラシックモデルにありがちなヨレ感などは皆無だ。ブレーキは初期タッチが鮮明で、車体が軽いこともあって強烈に効く。ABSの装備は無くコントロールにはやや気を遣うが、そこらへんも含めてスパルタンな乗り味だ。
直列4気筒エンジンのように唸らないので、一見スピード感は無いのだが、メーターを見るとスーパースポーツ並みのペースだったりする。なんとも不思議な感じだ。やろうと思えば、トコトコと流すような走りもできなくもないが、それはノートンらしくない。熱的に厳しい空冷の大排気量エンジンということもあり、渋滞路などは苦手なので、なるべく避けたほうが無難だ。
旧き良き時代を語りたくなるような雰囲気なのに、現代のマシンにも引けを取らない豪快な走りを見せつける。まさに作り手のノートンへの熱い想いが込められたモデルと言えるだろう。高価なパーツを使ったハンドメイドモデルということで簡単に手に入れられる代物ではないが、そのステータス性がまた、格別の魅力になっていると思う。
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