スズキ V-Strom650 ABS
スズキ V-Strom650 ABS

スズキ V-Strom650 ABS – 「アルペンマスター」の隠された実力とは

掲載日:2013年03月07日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/佐川 健太郎  写真・動画/MOTOCOM  衣装協力/HYOD

スズキ V-Strom650 ABSの試乗インプレッション

スズキ V-Strom650 ABSの画像

走・攻・守そろったオールラウンダー
派手さはないが実力は本物だ

見た目は従来のデュアルパーパス然とした無骨さから一転して、スポーティでスマートに変身した。気になるのはシート高。データでは15mmアップして835mmになっているが、実際に跨ってみると足着き性はあまり変わらない。むしろ良くなった気すらする。タンクまわりがスリムになったおかげだろう。アップライトなライディングポジションは基本的に変わらないが、よりスポーツモデル的になったと言える。

エンジンはマイルドですこぶる扱いやすい。同じ90度Vツインでも国産メーカーが作るとこうも違うのか、という見本のようなもの。ドゥカティやアプリリア、KTM、ハーレーなど、Vツインをウリにするメーカーは数多くあるが、そのどれと比べても穏やかで粘りがある。良い悪いを言っているのではなく、キャラクターがまるで違うのだ。Vツインらしさ、いわゆる鼓動感や爆発的なトルクのレスポンスなどを期待していると「アレッ?」と思うかもしれないが、その意外性こそがVストロームの良さ。スロットル操作に忠実に、直線的に立ち上がるパワー感や、振動が少なくきめ細かい回転フィールなどは並列2気筒か3気筒と言われても信じてしまうほど。まさにツアラーにぴったりのエンジン特性なのだ。極低速も直列4気筒エンジン並みに粘るので、リアブレーキで制御しながらのUターンも楽々。ハンドル切れ角も豊富だし、ホイールベースこそ直進安定性を重視して長大だが、それを考えると車格の割には小回りは利くほうだ。

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車格という話では、従来モデルにあったVストローム1000と共通なので、ミドルクラスとしてはかなり大柄だ。だが、逆に言えばこの車格ゆえ、高速道路での優れた直進安定性の高さを発揮できるのだ。そして安定性と言えばツインスパーフレーム。外観を見れば分かるが、まるで初期型GSX-R1000のようなガッチリとしたメインビームが2本左右に走っている。フレーム剛性としては、2倍のパワーと排気量でもいけそうな感じだ。高速道路ではこの強固なフレームと長い足、そして、プロテクション効果の高いウインドスクリーンのお陰で、とても安心感のある快適なクルーズが楽しめる。

パワー的にも必要十分なレベル。66psとスペック的には控えめな印象ではあるが、実際の走りではもっとアウトプットしている感じがする。穏やかな出力特性である分、どこでもしっかりスロットルを開けていけるので気持ち良くキビキビと走れるのだ。このあたりは、ミドルクラスならではのメリットだと思う。たとえば、東京から名古屋まで400kmを無給油で走れるタンク容量と燃費の良さ、荷物をたくさん積めそうなグラブバーと一体型のリアキャリアなど、実用性の高さも魅力だ。

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ワインディングもけっこう“攻め”の走りが出来る。従来型は前後に長い感じでタイトコーナーでは持て余し気味だったが、新型ではマスがよりセンターに集中した感じで、車体の動きにキレが増した。前後サスペンションはツアラーらしいしなやかな作動感を持ちながらも、ストロークした奥のほうではけっこうコシがあって踏ん張ってくれる設定。19インチのフロントホイールは、倒し込みでのステアリング角のつき方は穏やかだが、旋回中は安定感の塊。スロットルを開けながら、スポーツモデル並みにけっこう深いバンク角で曲がって行ける。サスペンション設定については標準でも十分だが、前後とも調整可能なので、体重や好みによってさらに細かく味付けしてもいいだろう。

ABSもコントロールユニット自体が進化したため、ロック&リリースの制御がより細かくなり、従来型より思い切ってブレーキがかけられるようになった。試乗した日は後半、雨に降られたが、悪条件になるほどABSがもたらす安心感と、安全への恩恵を感じずにいられない。と、そこで欲をいうのが人間のサガ。時期モデルではついでにパワーモードとトラコンを付けてもらって、加速時にも安心感と安全が欲しいと思った。それで10万円アップでも絶対に“買い”だと思う。

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さて、アドベンチャーモデルとなると、ダートでの性能も試したくなるものだが、不思議とVストロームではその気にはならなかった。その理由を考えてみたが、ホイールがスポークではなくキャストだったり、サスペンション設定がロード寄りだったり、いざというときトラクションコントロールの助けが得られないことだったり…なのだが、1番の理由は、スタイリングがオフロード向きではないことだ。カタチからしてロードバイクなのだ。とすると、Vストロームはやはりスズキが言うように、スポーツエンデューロツアラー(スポーティに長距離を駆ける旅バイク)なのだろう。今回のモデルチェンジでは、その立ち位置がより明確になったように思う。

最新テクノロジーを声高らかに謳うモデルではないし、地味な存在かもしれない。だが、信頼性の高いエンジンと車体、実用性の高さとコストパフォーマンスなど、まさに『無印良品』のような存在。と言っては失礼かもしれないが、それこそが合理主義の欧米人ライダーにも高く評価されている、Vストローム650ABSの魅力なのではないだろうか…。

スズキ V-Strom650 ABSの詳細写真は次ページにて

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