スズキ GSX-R1000
スズキ GSX-R1000

スズキ GSX-R1000 – 調教された猛獣

掲載日:2010年06月17日 試乗インプレ・レビュー    

構成/バイクブロス・マガジンズ編集部

調教された猛獣
公道で味わうGSX-R1000

136.1kW/11,500rpm。スペックシートに記載されたこの数値を見るだけでも複雑な思いがよぎる。今回試乗するのは2010年型のスズキGSX-R1000。GSX-Rと言えば海外でも高い人気を誇る日本製スーパースポーツのビッグネーム、そしてこの数値を馴染み深い馬力に換算すれば、軽く180馬力をオーバーするポテンシャルの持ち主であることが分かる。かつて750ccの油冷GSX-Rを所有した経験からも、目の前のGSX-R1000が悪かろうはずがないことは容易に想像がつくが、果たしてこの底無しのポテンシャルを公道で楽しむことができるのか…。混合交通に解き放たれたGSX-R1000が単なる怪物なのか、それとも調教された猛獣なのか。じっくりと味わってみたい。

スズキ GSX-R1000の試乗インプレッション

スズキ GSX-R1000の画像

GSX-R1000の魅力は
速さに直結する扱いやすさ

「緻密なエンジンフィーリング」。最新のGSX-R1000に対するファーストインプレッションはここから始まった。

エンジンを始動するとグリップにピリピリと細かいバイブレーションが伝わってくる。そして低く乾いたエキゾーストノート。油冷時代から連綿と受け継がれるGSX-Rらしい一面に思わずニヤリとしてしまったが、最新のGSX-R1000では緻密なギアが幾重にも重なって回転しているという新たなフィーリングが付け加えられていた。クラッチをミートしても、負荷が変動する際に生じるガタやバックラッシュのようなものが一切感じられず、まるでエンジンとタイヤが直結されていたかのように走り出す。右手を操作することなく、クラッチさえ繋いでしまえば何事もなかったかのように発進する豊かな低速トルクもGSX-R一族の美点と言えるだろう。街中での扱いやすさも際立っており、ハイグリップタイヤを装着しながらもハンドリングは極めて軽快。ポジションが前傾していなければ、これがスーパースポーツであることを忘れそうになるほどだ。

スズキ GSX-R1000の画像

さて、いよいよいつもの試乗コースへ。空いている真昼の首都高は走りやすいとは言え、舗装の質やカントの変化、アップ・ダウン、そしてギャップなど、路面のバリエーションは多い。このような場所ではバイクの従順さが何よりも重要だが、GSX-R1000の意外な一面は早くも発揮された。前後サスペンションが非常にソフトでハンドリングが軽いのだ。乗り心地が良いのはサスペンションだけではなくタイヤやシートとの相乗効果だと思われるが、どのような乗り方をしてもリーンが軽いのは明らかにソフトなサスペンションが効いている。腰をずらさずとも荷重するポイントをそっとずらしてやるだけで、スッと進路を変更。そのまま荷重を加え続ければペタンと寝てくれる感触も強い。また、こうした身のこなしが直線でも維持されているのが素晴らしい。例えば、高速道路上でよくある加速しながらの進路変更。ワイドでハイグリップなリアタイヤに強大な駆動力が掛かっているため、なかなか向きが変わってくれないシーンだ。このようなケースではグリップを思わず押し引きしてしまいそうになるが、GSX-R1000ではその必要性はまったく感じない。少し肩をイン側に入れるだけで、駆動力を掛けたまま面白いように向きが変わる。最新スーパースポーツのハンドリングには驚かされることが多いが、このGSX-R1000の軽く素直なハンドリングは別格だと感じた。

シーンがワインディングへと変化してもGSX-R1000の扱いやすさに変化はない。むしろリーンの軽さが際立ってくるようだ。他のスーパースポーツと同じ調子で倒すと、路面が接近してくるスピードが速くて思わず動作を止めてしまうほど軽くリーンできる。これには操舵系とブレーキの良さも密接に関連しているようだ。スーパースポーツのコーナーリングではフロントブレーキを残したまま進入するが、この時フロントの「立ち」が強くなってしまうバイクも多い。ところが、GSX-R1000の場合はこの段階から軽快に倒れ始め、しかも曲がり始める。ここからブレーキをリリースすればさらにスッと車体が倒れるので、あっという間に路面が近づいてくるというわけだ。ニッシン製のラジアルポンプマスターとトキコの新型キャリパーのコンビネーションも素晴らしい。まるで指先でブレーキディスクをつまんでいるかのようにコントロールできるうえに、あっという間に速度を殺してしまう。リアブレーキは最近試乗したスーパースポーツの中ではもっとも効かない部類だと言えるが、フロントのコントロール性がこれだけ高ければ何ら不満はない。エンジンも136.1kW/11,500rpmという大パワーを発生するが臆する必要はまったくなく、数値的なスペックを忘れそうになるほど従順だ。右手の動きに対して絶妙な「タメ」があり、いわゆる「ドンツキ」もない。何時でも期待通りのパワーを提供してくれる。一方、3つの走行モードを選べるS-DMSは、公道でその変化を感じ取るのは条件が揃わなければ難しいと感じた。何れにしても底無しのポテンシャルを持つバイクであることは間違いないが、それがこれほど扱いやすいとは…。「速く走るならGSX-R1000」というエキスパートライダーは多いが、その理由が少しだけ分かったような気がする。

スズキ GSX-R1000の特徴は次ページにて

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