KTM 1190 RC8 – 一流品で造り上げられた圧倒的な存在感

KTM 1190 RC8の試乗インプレッション

「分かりやすい」高性能が
ライダーのココロを刺激する

「スーパースポーツ」と言う言葉に、思わず腰が引けてしまう。そんなライダーにとって、「レースで有名なKTM」が作ったバイクとなれば、敷居が高いと思えるかもしれない。実際、またがってエンジンをかけると、国産スポーツバイクとは全く違う迫力のある音が響き渡るし、右手から伝わる硬質なエンジンフィーリングは、このバイクがレースシーン直系のバイクであることを感じさせてくれる。しかし、そういった要素を踏まえた上で、RC8は想像以上にフレンドリー。他のスーパースポーツとRC8を分けるもの、それは「分かりやすさ」だ。例えば、スロットルを思い切り開けると、響き渡るエキゾーストノートと共にRC8は猛然と加速をし始めるが、今自分がどれだけのパワーをエンジンから取り出しているのか、ということが明確に右手から伝わってくるため、国産スーパースポーツのように、「気づいたらすごいスピード」ということはまず無い。ブレーキも同様で、高い制動力は持っているもののコントロールの幅が大きい。ストロークを多めにとられたサスペンションも、ダイレクト過ぎないレスポンスで応えてくれるため、どう対応すればいいのかライダーが思考するだけの余裕が残されており、通常のライディングなら乗り手がバイクに置いていかれるような感覚に捉われることは無いだろう。

ただ、だからといって乗りやすいばかりのバイクと考えるのは大きな間違いだ。RC8は乗り手に多くの情報をもたらしてくれるが、「こうしなさい」と手を引いてくれるわけではない。試行錯誤の機会はあるが、あくまでバイクを動かすのはライダーであり、そこには正しく「スポーツ」が存在する。未熟なライダーにはそれなりの挙動しか示さないし、エキスパートには高いポテンシャルを存分に味わわせてくれるだろう。重要なのは、バイク側がライダーを決して突き放すことがないという点だ。今回の試乗でも「今のコーナーはダメだった」ということが何度もあったが、その度に引き替えして同じ場所に挑戦したくなったし、実際に何度も走ってしまった。これまでに何台もスーパースポーツに乗ったが、これほど挑戦したくなるバイクは他に無い。「分かりやすさ」がもたらすバイクとの対話こそ、RC8の面白さの秘密ではないだろうか。

KTM 1190 RC8 こんな方にオススメ

初心者からレベルアップしたい
スポーツ派ライダーに最適

RC8は分かりやすいバイクだが、かといって気楽に街中で足として使えるわけではない。他のスーパースポーツに比べてポジションに余裕があるし、パワー特性も国内の道路事情にマッチしている。しかし、国産スポーツバイクのようにある程度「乗りっぱなし」が許されるモデルではなく、高性能を維持するためのメンテナンスが必要で、車両側でも「あと何kmでメンテナンス」という表示が行われるほどだ。しかし、ピュアなスポーツバイクとして楽しむのであれば、これほど心安い相手もなかなか居ないだろう。ライダーの挑戦心を掻き立てるRC8は、自身のレベルアップを計りたいスポーツ派ライダーにもってこいの1台。このバイクと対話しながら楽しむライディングは、きっと格別な悦びをもたらしてくれる。

KTM 1190 RC8 総合評価

ただ速いだけではない
新しいスーパースポーツ

今回試乗したRC8は、これまでのスーパースポーツの中で最もエキサイティングな1台だったかもしれない。速さだけ、乗りやすさだけで言えば、おそらく他のスポーツの方が費用対効果で上回るだろう。しかし、これほど自分の心をくすぐってくれるモデルは無かった。RC8は走りに特化したモデルとは言え、比較的アップライトなポジションと扱いやすいエンジン特性で、スポーツツーリングにも対応できる優等生だ。その上で、今のスポーツバイクの性能基準をクリアしつつ、速く走ることを無理強いしてこない。深くバイクと対話することで、自分自身のライディングに磨きをかける…そんな行為にずっと没頭していたくなる魅力を持っているのだ。「最近のスポーツバイクは高性能だけど、どこかしら乗せられている気がする」、と感じたことがある人こそ、RC8に是非乗ってみてほしい。乗り手とバイクがじっくりと語り合うことができる、新しいスーパースポーツをきっと体験できるはずだ。