ホンダ VTR – 充実のユーザビリティにも注目

ホンダ VTRの試乗インプレッション

誰にでも楽しく扱える
等身大のスポーツ性能

キャブからインジェクションに変更されたこともあり、VTRの目覚めは軽快。軽くボタンを一押しすれば、Vツインエンジンに火が入りアイドリングが始まる。最近の排気ガス規制モデルに比較すると、ツインエンジンらしい太めの排気音が印象的だ。いざ走り始めると、出足は排気音から予想するよりソフトなフィーリング。クラッチのつながりも分かりやすいため、初心者でも発進に戸惑うことなく気軽に操作できるだろう。エキサイティングな加速感が始まるのは、中速域以降のお楽しみで、特に5,000回転からは伸びが気持ちよく、VTシリーズらしい突き抜けるような爽快感を味わわせてくれる。ビジネス用途に使われることもあるため、実用的な印象が強いVTシリーズだが、初代はあまりにエンジンが回りすぎるので、電気式リミッターを搭載したという逸話を持つスポーツモデル。その血を受け継いでいることを感じさせるエンジンフィーリングは好印象だ。また、ブレーキ性能は秀逸で、特に鋭い制動力の立ち上がりは、スポーティな走行で活躍してくれるだろう。

そして何より素晴らしいのは、車体の動きがとても素直で分かりやすいこと。ライダーが与えた入力に対し、わずかな余裕を加味しつつシンプルに返答してくれるので、タイヤのグリップ感覚やサスペンションの動きが理解しやすいのだ。基本に則った丁寧な操作を心がければ、それに呼応するようにスムーズな走りを見せ、小排気量だからと侮って適当な入力を行うと、それなりの動きしか返してくれない。ただ、間違った場合でも直接的に反応がくるのではなく、少しの猶予をライダーに与えてくれるので、恐れることなく自分のライディングに向き合うことができる。実際、今回の試乗中は自分のライディングについて改めて考えさせられることが多く、その度に乗り方を少しずつ調整してVTRとの対話に没頭してしまった。このソフトなスポーツ感覚は乗れば乗るほど面白くなっていく。誰にでも扱える余裕と心地良いスポーツ感こそ、VTR最大の美点と感じられた。

ホンダ VTR こんな方にオススメ

シチュエーションを選ばない優等生
長く楽しめる気軽なエントリーマシン

VTRは、乗り手を選ばない扱いやすいモデルだ。軽量でコンパクトな車体は混雑する街中でも快適で、乗っていてストレスが少ない。かといって高速道路での走行も不得手ではないので、どんなシチュエーションにも対応できるだろう。燃費も都内の一般道から高速道路までを走行してもリッター25kmなので、経済的にも優れている。乗りやすくて、走る場所を選ばないバイクだけに、初心者からベテランまで万人に薦められる1台。初心者のライダーが経験を重ねていく相棒として、これほどふさわしいバイクは少ない。また、ベテランライダーが普段の快適な足として使うセカンドバイクとしてもおすすめだ。

ホンダ VTR 総合評価

奥深さを感じる好パフォーマンス
250ccクラスの新しいベンチマーク

これまでも排気ガス規制に対応したインジェクションモデルを試乗してきたが、今回のVTRは特に印象深い。カタログ数値上では一見排気ガス規制前モデルの方が有利に見えるが、実際のトータルパフォーマンスで言うと、新型の方に軍配が上がる。無駄なモノがついていないシンプルな車体にまたがって、熟成されたエンジンを使い切るようにして走るのは本当に面白い。乗り手のアクションに対するレスポンスの「間」が絶妙で、どんどんVTRと「会話」したくなるのだ。今回の試乗では都内のいろいろな道を走り抜けたが、どんな場所でも小さな発見をライダーに与えてくれる。ブレーキのちょっとしたかけ方や、コーナーリングの些細な荷重まで、やわらかく返答をしてくれるバイクは、ありそうで少ない。どこか無理のある最高出力でもなく、過剰な豪華装備でもない、バイクの面白さをシンプルに追求したモデルとして、VTRは250ccスポーツの新しいベンチマークと成り得る存在ではないだろうか。この奥深いパフォーマンスは体験するだけの価値がある。「Feel the Real」というキャッチコピーの通り、バイクを楽しむリアルな感覚を伝えてくれる、稀有な1台と言えるだろう。