BMW Motorrad F800ST
BMW Motorrad F800ST

BMW Motorrad F800ST – バイクが手の内にある感覚

掲載日:2007年11月19日 試乗インプレ・レビュー    

ミドルレンジBMW「F」シリーズ
これから続々ニューモデルも登場

最近、BMWはとても元気がいい。先日もイタリアのミラノショーでF800GSやF650GSなど5モデルを発表。従来の「K」、「R」シリーズに加え、「F」や「G」など新たなモデルレンジを続々と拡大している。今回紹介する「F800ST」は並列2気筒800ccエンジンを搭載するスポーツツーリングモデル。2006年秋に兄弟モデルである「F800S」と同時にデリバリーが開始された、BMWの中ではミドルレンジに位置するシリーズだ。「F」シリーズは従来から「F650」といった単気筒650ccエンジンを積むオフロードモデルのみを展開してきた。しかし、今回のミラノショーで発表された「F800GS」、「F650GS」は、いずれも「F800S/ST」と同じ並列2気筒であり、単気筒は「G」シリーズに譲り、「F」シリーズは並列2気筒エンジンのシリーズとなるようだ。排気量は「K」や「R」の1200ccに対して800ccと小さく、価格も「F800ST」のベーシックな仕様で1,224,500円と、上位シリーズに比べて6割程度に抑えられている。それもあってかF800S/STが発売された頃のディーラーには、興味を持った国産バイクユーザーが多数訪れていたようだ。また排気量なりにボディサイズも小さく、扱いも軽いためか、「K」、「R」シリーズはちょっと大きいと敬遠していた小柄なライダーや女性にも人気が高い。僕自身もF800シリーズには関心が高かったため、今回の試乗はとても楽しみにしていた。

BMW Motorrad F800ST 特徴

BMW Motorrad F800ST 写真「F800」シリーズを印象付ける
ベルトドライブ駆動リヤホイール

今回試乗したのは、スポーツツーリング仕様の「F800ST」。あえて“仕様”と表現したのは、F800Sとシャシーや外装、エンジンはほぼ共通となっているから。各部のパーツの違いでよりスポーツライディングを意識した「S」と、ツーリングの使い勝手に配慮した「ST」というキャラクターという構成だ。特に大きな違いは「S」がトップブリッジに直接ハンドルバーが付くセパレートタイプなのに対して、「ST」はバーハンドルとなっている点。「ST」の方が「S」に比べてハンドルが高くややライダー側にあるため、ライダーはやや体が起きたポジションを取ることができる。それ以外は、サイドパネルやスクリーンの形状が「ST」の方が大きく、リヤキャリア、パニアケースステー、センタースタンドなどが付いているといった点が「S」との違いだ。

F800シリーズの外観上の特徴は、リヤビューを印象付ける片持ち式スイングアームとベルトドライブ。日常メンテナンスの手間を省きつつ、軽い足回りを実現するチェーン駆動とシャフトドライブのいいとこどりのようなこのベルトドライブは「K」、「R」シリーズでシャフトドライブを採用しているBMWならではのチョイスだといえる。

また、この「F800」のために新たに開発された並列2気筒800ccエンジンは、2つのピストンとコンロッドがバランスするように、もうひとつのコンロッドとバランスアームを持ち、2気筒特有の振動を打ち消す構造になっている。そのため、スムーズに高回転まで吹け上がり、800ccながら85ps、86Nmというパワフルさを持ち合わせている。

メインテナンス性が高く個性的なデザインとなる片持ち式のスイングアームはBMWの定石だが、F800シリーズはここにシャフトではなくベルトドライブを組み合わせる。大きなベルトプーリーがサイドビューをグッと引き締めている。

ベルトドライブと片持ち式スイングアーム

メインテナンス性が高く個性的なデザインとなる片持ち式のスイングアームはBMWの定石だが、F800シリーズはここにシャフトではなくベルトドライブを組み合わせる。大きなベルトプーリーがサイドビューをグッと引き締めている。

単気筒650cc時代から「F」シリーズの燃料タンクはシートの下全面に配置する独特のレイアウトで、F800もこれを踏襲。給油口はシートカウル右側面にエアプレーンタイプを装備し、「F」シリーズのキーアイコンのひとつとなっている。

燃料タンクはシートの下

単気筒650cc時代から「F」シリーズの燃料タンクはシートの下全面に配置する独特のレイアウトで、F800もこれを踏襲。給油口はシートカウル右側面にエアプレーンタイプを装備し、「F」シリーズのキーアイコンのひとつとなっている。

BMWではR1200シリーズが登場した頃から、フル電子制御のメーターユニットを採用。メーターの透過照明は、昔“最も視認性が高い”とクルマに採用していたオレンジ色。メインキーをオンにするとメーターがフルスケールを往復する。

楕円複眼デザインのメーターユニット

BMWではR1200シリーズが登場した頃から、フル電子制御のメーターユニットを採用。メーターの透過照明は、昔“最も視認性が高い”とクルマに採用していたオレンジ色。メインキーをオンにするとメーターがフルスケールを往復する。

「F800ST」はテールキャリアがトップケースステーを兼ねており、そのまま純正オプションのトップケースを装着可能。コンパクトながらフルフェイスヘルメット1個を収容できる。またパニアケースステーも標準装備されている。

オプションのケース類も充実

「F800ST」はテールキャリアがトップケースステーを兼ねており、そのまま純正オプションのトップケースを装着可能。コンパクトながらフルフェイスヘルメット1個を収容できる。またパニアケースステーも標準装備されている。

BMW Motorrad F800ST 試乗インプレッション

乗せられて安心なR,Kに対して
F800はバイクが手の内にある

BMW Motorrad F800ST 写真

今回の試乗車はヤナセモトラッドのローダウン仕様。フロントの突き出しとリヤサスの長さを調整することで、シート高で約2cmのローダウンを実現している。もともと、BMWの中では比較的コンパクトなF800STではあるが、ノーマル状態では若干高い印象があった。しかしこのローダウンのおかげで、小柄なライダーでも安心して乗ることができる。また、跨ってハンドルバーに手を伸ばすと、これが自然な位置にハンドルが位置しているのが嬉しい。最近のBMWのハンドルはその位置関係がやや広く、広がっている傾向が多かった。特にバーハンドルのモデルはそのキャラクターからか、ほとんど一文字のハンドルバーで、小柄なライダーにはかなりつらいポジションだった。しかしF800STはバーハンドルでありながら、ムリに腕を広げることなくポジションすることができる。

BMW Motorrad F800ST 写真エンジンをかけて走り出した最初の印象は、これまでのBMWに比べて排気音がとても“快活”だと感じたこと。太くて長いサイレンサーから発する「バルバルバルバル」という音が、ライダーをソノ気にさせてくれる。それでいて80km/h辺りを過ぎる高速域に入るとこうした猛々しい感じはなりを潜め、足元でジェントルに「ブーン」と存在感を示す感じは、他のボクサーツインなどと同じような印象だ。走り始めたF800STの動きは軽快そのもの。ワインディングの高い速度域でも、僅かにオシリにきっかけを与えるだけでクイッとバイクが反応して曲がっていってくれる。最近のBMWといえば、テレレバーの「R」シリーズ、デュオレバーの「K」シリーズなど、フロントサスペンションに独自の機構を採用し、“しっかり支えているから安心して乗りなさい”と、バイクに乗せられている感じがあった。一方F800は一般的なテレスコピックで、それもよく動くフロントフォークによって、バイクがライダーの手の内にある感じがある。それがワインディングロードでの楽しさをさらに倍増しているように強く感じたのである。

BMW Motorrad F800ST こんな方にオススメ

国産バイクからの乗り換えに
検討しやすい価格と車格

車両価格がベーシックな仕様で110万円弱と、最近の国産ビッグバイクとそれほど変わらない価格。これは国産バイクからBMWに乗り換えてみようかというライダーにとっても嬉しいところだ。それでいて、BMWのフィロソフィーを車両の各部に見ることができる。さらにパニアケースやトップケース、グリップヒーナーなど、ツーリングのための各種純正アイテムを選ぶことで、BMW Motorradが昔から基本としてきたツーリングワールドを堪能することができる。また、ドイツ生まれということでどうしても大柄なライダーに向けて作られているため、今までのBMWには“大きい”“重い”というイメージを持ちがち。しかし「F800」はそういったイメージを覆すコンパクトさと軽快さを持っている。だからこそ、僕の行きつけのディーラーでも「F800」を選ぶ女性ライダーが多いのかもしれない。

BMW Motorrad F800ST 総合評価

F800Sと同じスポーツ性を持ち
ツーリング性を“加えた”のが「ST」

実は今回、「F800S」の試乗だと思っていて、ヤナセモトラッドで「F800ST」に対面したとき、正直ちょっと「ツーリングタイプか…」と思ってしまった。スポーツを標榜している「S」に対してスポーツツーリングの「ST」は、軽快にワインディングを駆け抜けるイメージが僕の中になかった。しかし、実際に乗ってみると「ST」はすごく楽しかったのだ。一番ネックだったバーハンドルも、広く開いておらず、ちょっと低めにあるため、スポーツライディングをまったく邪魔しない。それどころか僕の頭の中には、80年代のAMAスーパーバイクのシーンが過ぎる。エディ・ローソンやフレディ・スペンサーが当時のZ1000やCB900、FZ750に乗り、バーハンドルを押さえつけるようにして豪快にライディングしていた姿を、恥ずかしながらF800STでワインディングを走る自分にダブらせていたのである。そのくらい「F800ST」は、「F800S」のスポーツ性そのままに「T」を加えた、文字通りのバイクだったのである。

SPECIFICATIONS - BMW Motorrad F 800 ST

BMW Motorrad F800ST 写真

価格(消費税込み) = 122万4,500円

BMWのミドルレンジを受け持つ「F」シリーズのスポーツツーリングモデル。独特のバランサーを持つ並列2気筒エンジンとBMWではコンパクトな車体で、誰にでも扱いやすいキャラクターを持っている。

■エンジン = 水冷4ストローク並列2気筒 798cc
■最高出力 = 85PS/8,000rpm
■最大トルク = 86N・m/5,800rpm

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