オフ走行の基礎テクニック

【Vol.15】目の前のミゾを華麗に乗り越える!

掲載日:2010年05月11日 オフロードライテク講座オフ走行の基礎テクニック    

Gとは重力加速度(gravity)の略称。ここでは「スピードレンジを問わずに感じられる荷重の変化」のことを指す。「このGをライダーが積極的にコントロールすることで、オフロードバイクの楽しさは広がっていく」とは三橋選手のお言葉。オフロードライディングをより楽しむためのテクニック、それがG RIDEなのだ。

目の前のミゾは埋めずに 乗り越えていこう

三橋さんとクラモチの間に横たわる、いや、いつものように山を走る2人の目の前に現れたミゾ。ゆっくりなめるように通過すれば問題ないサイズだけれども、そんなミゾが現れる度にいちいち止まっていては山を楽しく走る気持ちがそがれるというもの。

クラモチ「これくらいのミゾなら、勢いをつけていけばクリア出来ると思うんですよ。ちょっとやってみます」

と、言うが早いか、クラモチは3速全開でミゾにアプローチしていく。その結果は…どうやら急所がシートに打ちつけられたようで、かなり痛がっている。

クラモチ「…………。痛いっすっね……」

三橋「勢いで行ってもダメだって言おうと思ったんだけど、間に合わなかったよ。スピードが出ている状態はマシンも速く移動しているけれど、マシンの挙動はそれほど大きくなっているわけじゃないんだ。こうしたミゾを越えるときは、フロントが刺さらないようにしないといけないんだけど、クラモチ君はスピードを出しているのにフロントサスがフルボトムしていたでしょ。つまり「ミゾを越えるための姿勢=マシン挙動」が出来ていなかった。だからフロントサスが刺さって、その反動で持ち上がってきたシートに打ちつけられてしまったんだ。マシンの姿勢が変化するのはどういう状態だったかな?」

クラモチ「……。サスにGをかけた状態ですよね……」

三橋「じゃあ、サスにGをかけるにはどうすればよかったんだっけ?」

クラモチ「…。あっ、加速力を使えばいいんだった…」

三橋「そう、加速力の出ている状態=マシンがいちばん動く状態だったよね。だから、勢いじゃなく、加速力がいちばん出るエンジン回転を使うのがポイントになるんだ。それを思い出していれば、こんな痛い思いをしなくてもすんだのに」

クラモチ「なくしてから気付くことってありますよね」

と、遠くを見つめるクラモチだった。

加速力を使うと、マシンは力強く前に進んでいく。言い換えれば、リアタイヤが路面をしっかりとグリップしているということでもある。リアタイヤをグリップさせるには、リア荷重が必要になる。だから加速力を使うには、リアにGをかける必要がある。そしてリアにGをかければ、リアサスは縮んだ状態になる。リアサスが縮めば、シーソーと同じようにフロントが浮き上がってくる。フロントが浮き上がってくれば、ミゾを通過してもフロントタイヤは下に落ちなくなる。だからミゾ越えには加速力とリア荷重が必要になってくるわけだ。

フロントタイヤが下に落ちなければ、ミゾの壁に当たっても受ける衝撃は減ってくる。そうすればフロントサスがフルボトムすることもなくなり、リバウンドでバランスを崩すこともなくなる。ただし、何かきっかけを使ってジャンプするテクニックではないので、リアタイヤはミゾを越えられず壁に当たることになる。だからリアタイヤが壁に当たったら、体を使って衝撃を吸収、つまり抜重してやる。マシンの加速力をしっかりと引き出してやれば、三橋センセイのお手本のように、大げさに体を後ろに引かなくても、リアにしっかりGをかけてやることが出来るようになる。これがミゾ越えのポイントだ。

クラモチ「加速力を使う練習は以前やりましたけど、今回はミゾを越えるために加速力を使うから、タイミングも必要になってきますね。ピンポイントで合わせるのは難しいので、フロントアップしたくなります」

三橋「それも間違いじゃないよ。ミゾ越えは勢いではなく、加速力を使うってことを忘れずにね」

リアブレーキはフロントブレーキのような繊細な操作がやりにくい。だから、走行スピードを速くした勢いでロックさせるのではなく、ゆっくりとブレーキペダルを踏んでいき、ロックしたらゆっくりとブレーキペダルをリリースしていく。走行スピードが速いからと言って、ブレーキペダル操作は速くしない。止まることを意識するのではなく、ブレーキペダルをゆっくり踏み込んでいった時のマシン挙動の変化を意識する。この挙動の変化が、リアブレーキの利き具合を表してくれる。

マシンを加速させるには、トルクがいちばん出るエンジン回転を使う。パワーバンドやアクセルの付きがいい、などと言われるエンジン回転域のことだ。これは、そのマシンのエンジン特性や、スピード、ギアによって変わるものなので、アクセルを開けてマシンが力強く前に進む時のGを体感(アクセル全開ではなく、加速Gを体感出来る開度)することで、アクセル開度を身につけていくしかない。

先にフロントタイヤを落としてから通過する

三橋センセイのお手本

ミゾが大きくない場合や、加速力を上手く使えない場合は、ミゾをなめるように通過する方法が確実だ。①まずはフロントタイヤをミゾの底に落として一度停止する。こうすれば足を着き易くなるので、マシンを直立させ易くなる。ギアは1速に入れておく。②停止状態からアクセルを開けて、マシンを加速させる。③フロントタイヤがミゾを越えても、リアタイヤがミゾを越えるまではアクセルを開けていく。この時に猫背の姿勢をとってリアにGをかけ、リアタイヤを路面にグリップさせる。④リアタイヤがミゾを乗り越えたらアクセルを戻していく。これでリアタイヤがスリップすることなくクリアできるはずだ。

クラモチのダメダメな例

3速全開でアプローチしていったものの、フロントタイヤは下に落ちてしまっている。その結果、フロントタイヤはミゾの壁にぶつかってフルボトムし、そのリバウンドでマシンは跳ね上がってしまった。バランスを崩して転倒する危険性も大いにある。フロントタイヤを落とさないためには、スピードを出してもダメということなのだ。

ミゾで止まってもいいことは何も無い

これ以上後ろに下がることはないので安心感があるかもしれない。しかし、実はこの状態は坂道発進になっているのだ。路面が滑り易いと再発進は至難の技になってしまう。

リアタイヤを落として止まる

これ以上後ろに下がることはないので安心感があるかもしれない。しかし、実はこの状態は坂道発進になっているのだ。路面が滑り易いと再発進は至難の技になってしまう。

この状態で止まることはほとんどないけれど、一番やってはいけないのがコレ。足を着くことが出来ず、バランスを崩せば即転倒につながる。落差もあるのでダメージも大きい。

ミゾの上で止まる

この状態で止まることはほとんどないけれど、一番やってはいけないのがコレ。足を着くことが出来ず、バランスを崩せば即転倒につながる。落差もあるのでダメージも大きい。

ミゾの手前で必要なのは加速力とリア荷重

止まらずに通過するなら飛び越える

①1速ではトルクが強過ぎ、3速ではスピードが速過ぎるので、今回は2速でアプローチ。②フロントタイヤがミゾにかかる前に体を後ろに引いてリア荷重し、同時にアクセルを開ける。マシンの加速力を引き出せるエンジン回転数にすることがポイントだ。リアにGがかかっているので、フロントがふわりと浮いてくる。③ミゾに差しかかってもフロントは浮いたまま。④フロントタイヤはミゾの壁に当たらずクリア。⑤ジャンプではないので、リアタイヤは壁に当たる。⑥ヒザとヒジを柔らかく使ってリアタイヤから受ける衝撃を吸収する。これが抜重だ。⑦加速力とリア荷重でバランスを崩すことなくミゾをクリア。⑧衝撃をしっかり吸収しているのでお釣り(リバウンド)をもらって痛い思いをしなくて済む。

フロントアップで越える方法も

フロント抜重×リア荷重でミゾ越え

川渡りやブッシュなど、先の路面が見えない場合は、リアにGをかけ、フロントを抜重することでフロントサスのストロークをフルに使えるようにして走るのが基本だ。これをミゾ越えに応用しているのが、フロントアップを使う方法だ。ミゾの手前でフロントサスを縮めてからリア荷重しているのが、上の連続写真と異なるポイントだ。フロントタイヤがミゾに当たることはなくなるが、着地の衝撃は大きくなるのでしっかり抜重する。

クラモチも出来た!

痛い思いをしたクラモチ。その後は慎重になり、フロントアップ方法でクリア。ここまで出来ればひとまず合格だ。勢いじゃなくテクでイかせられるようになったぞ!

痛い思いをしたクラモチ。その後は慎重になり、フロントアップ方法でクリア。ここまで出来ればひとまず合格だ。勢いじゃなくテクでイかせられるようになったぞ!

三橋 淳
インストラクター
三橋 淳

2007パリダカ・市販車無改造クラスで優勝を果たしたのは記憶に新しいところ。四輪ドライバー転向前は、BAJA1000、UAEラリー、ラリーレイドモンゴル、パリダカなどの海外レースで輝かしいリザルトを残してきた。豪快かつ繊細なライディングは未だに健在。

クラモチ
生徒
クラモチ

GARRRR編集スタッフではあるものの、オフロード経験はほぼゼロ。学生時代にカッコイイという理由で購入したKDX200SRも半日で焼きつかせてしまい、その後もストリート・オフローダーとしてRMX250S、DT200WRと乗り継いできた2スト好き。

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