
掲載日:2010年03月02日 オフロードライテク講座 › オフ走行の基礎テクニック
Gとは重力加速度(gravity)の略称。ここでは「スピードレンジを問わずに感じられる荷重の変化」のことを指す。「このGをライダーが積極的にコントロールすることで、オフロードバイクの楽しさは広がっていく」とは三橋選手のお言葉。オフロードライディングをより楽しむためのテクニック、それがG RIDEなのだ。
いつものように山へやってきた三橋さんとクラモチ。今回は「段差の飛び降り」をマスターするためにお目当ての場所へとバイクを走らせて行ったのだが、路面状況が悪く、なんと通行止め! 自然の力には勝てないので、仕切り直すために一度引き返すことにした。路面が荒れていて道幅も狭いので、クラモチは得意のアクセルターンでUターンが出来ない。そこで、足を着きながらマシンを前後させて、細かく切り返して方向転換している。やっとのことでUターンし終えると、息が上がってしまった。そんなクラモチを後目に、三橋さんは路面脇の斜面を使いアッという間にUターンしてしまった。
クラモチ「三橋さん、今のUターンはどうやってやったんですか? 流れるようなスムーズな動作で、アッという間に方向転換して、僕の苦労はなんだったんですか…」
三橋「オフロードバイクにはバックギアがついてないから、またがったまま切り返すのは疲れるでしょ。だから道路脇の斜面を少しだけ上って、あとは惰性で下る力でバックして方向転換したというわけ。簡単だし、体力も温存できるんだよ」
と、斜面を使うことを知ったクラモチ。早速、斜面を少しだけ上り、惰性で下りてきた。三橋さんのように一気に方向転換はできなかったが、最初よりは素早く、そして体力も使わずにUターン出来た。
クラモチ「狭い場所や路面状態のよくない場所でのUターンが苦手なんですけど、それはバックするのが大変なのが原因だったんですね。斜面を使うという発想は、目から鱗ですよ!」
三橋「地形をうまく使えば、体力を消耗することなく方向転換出来るんだよ。たとえば、うまいライダーでもヒルクライムで失敗することがある。でも、その後のリカバリーもうまいから、体力を消耗せずにすばやく再トライできるんだ。だから、未知の場所を走るクロスカントリーライディングでは、地形を使える能力がより重要になるのが分かるでしょ。ということで、斜面を使ったUターン方法をいくつか紹介していこうか」
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リアブレーキを使う方法とバイクから降りる方法を練習したクラモチ
クラモチ「バイクの方向転換をするには、方向転換したい方へバイクを傾けるとやり易くなるのが分かりました。でも、足を着き替えるときは足着きが悪くなるので、少し怖いです。だから、足を着き替える時間を極力短くしたいんです」
三橋「斜面を使った方向転換に慣れるまでは、一度止まったり、バイクから降りるやり方が確実だけど、バイクのバックする動きに慣れてきたら、一連の動作で方向転換したほうがもっと楽になるんだよ。それにはリアブレーキを使って止まるのではなく、斜面を上っているときにバイクの向きを変えてしまうんだ。斜面を上っているときはリア荷重、つまりフロントが抜重された状態になっているから、フロントアップし易くなっている。だから斜面でほんの少しだけフロントアップして、その瞬間にハンドルを反対側に切って、足も着き替えてしまうんだ。言葉で説明すると難しそうだけど、ほんの一瞬でバイクの傾きを変えられるから、じつはこの方法がいちばん楽に方向転換出来るんだよ」
クラモチ「斜面でフロントアップですか!?」
とクラモチはやや引き気味だが
三橋「フロントアップを意識するんじゃなく、ちょっとリアにGをかけることを意識するんだ。フロントが抜重されればハンドルが切り易くなるでしょ。ハンドルがすぐに切れれば、バランスを崩す原因も減る。不安定な状態がほんの一瞬しかないから、結局いちばん安定しているんだよ」
クラモチ「僕はその一瞬を怖がったことで、アプローチしてきた状態のままバックしていたんですね。冷静に考えれば、不安定な状態でバックしている時間のほうが長いじゃないですか」
クラモチは無駄に気力と体力を消耗していたことに愕然としている。ほんの一瞬を怖がり、逆に難しいことをするのがビギナーの特徴でもある。まだまだ先は長いぞ!
まずはいちばん簡単なやり方から練習しよう。方向転換で大変なのは、またがったままバックすること。だからバックは斜面を下りる惰性を使ってやる。①斜面にアプローチ。②リアタイヤが斜面にかかったら、クラッチを握りリアブレーキをグッと踏んでマシンを止める。③ハンドルを反対側に切り(この場合は右に切る)、リアブレーキを少しだけ緩め、足を着きながらゆっくりバックする。④平らな路面までバックしてきたら、ハンドルを切って(この場合は左)方向転換完了。リアブレーキを使って斜面で停止出来れば、後は少しずつ降りてくるだけ。これが斜面を使った方向転換の基本なので必ずマスターしよう。ただし、バイクがほぼ直立しているので、写真を見れば分かるように、一気に方向転換出来ないというデメリットもある。
以前ヒルクライムを練習した際に、斜面で止まるには谷側のブレーキ(この場合はリアブレーキ)を使うことを学んだクラモチ。今回もリアブレーキを使ってしっかり止まれたのだが、ハンドルを反対側に切り忘れて真っすぐ下ってしまった。意外と多いミスなので、落ち着いて動作を確認しよう。
次はバイクから降りる方向転換。この方法はヒルクライムの途中で止まってしまった場合や足場の悪い路面でのリカバリーに有効な方法なので、確実にマスターしておこう。①リアブレーキを使って停止。ギアは入れたままでクラッチもつないだままにしてエンジンストップ。②右足を着いてバイクから下りる。③降りたらハンドルをグリッと切る。またがっているときよりも軽く切れるはずだ。④リアブレーキは使えないので、クラッチを切ってバックする。少しバックしたらクラッチをつないで止まる。ギアを入れたままにした理由はリアブレーキの代わりに使うためなのだ。また、バックするときは、バイクを体にもたれかけるようにすると、グラつくのを防ぐことが出来る。フロントブレーキは使わなくてもO.K.だ。
左足から右足に着き替えるときに、一瞬足着きが悪くなってしまう。その一瞬をガマン出来れば後は簡単なのだが、クラモチは足を着き替えずにバイクの左側に降りてしまった。この状態で方向転換すると、体が谷側(バイクの下側)になってしまう。もし、足がすべったりすると、バイクの下敷きになって非常に危険!
ギアは1速で斜面にアプローチ。後輪が斜面にかかる程度の位置にあればいいので、アプローチスピードはそれほど速くなくてもO.K.だ。最初はグリップの良い斜面で練習しよう。
後輪が斜面にかかるくらい斜面を上ったらアクセルを閉じていく。この時点では左足を着いていても良い。また、斜面で停止しないのでリアブレーキも踏む必要は無い。
アクセルを閉じたら、お尻でシートを押し込むようにしてリアサスにGをかける。するとフロントが抜重されて、ふわっとフロントアップしてくる。そして、この瞬間にハンドルを反対側へ切る。フロントが抜重されているので、ハンドルはクルッとスムーズに切れる。フロントアップよりリア荷重を意識することがポイントだ。
ハンドルを切る動作をきっかけにして、体もハンドルを切った側へササッと入れ、左足をステップに乗せて右足を地面に着く。ここまでクラッチを握ったまま出来ればその後もスムーズになる。だが、バックが不安な場合はクラッチをつないでエンストさせてしまってもO.K.だ。
右足を着き、クラッチを握ったままスーッとバックしていくとスムーズ。それが怖い場合はギアを入れたままエンジンを止め、クラッチをブレーキ代わりにして少しずつバック。
バイクの向きが変わるまで斜面を降りていけばUターン完了。ハンドルを真っすぐにして来た道を引き返そう。アプローチからUターン完了まで、所要時間は約4秒といったところだ。
バイクから降りる方向転換もフロントアップを使った方向転換も、そのカギとなるのは体を素早く山側に移動すること。つまり体をバイクより上にすることだ。こうすれば少ない力でバイクの向きを変えられるようになる。逆に、谷側=バイクの下側に体を置いてしまうと、少しバランスを崩しただけで写真のようにバイクがのし掛かってくる。クラモチはバイクを離すことが出来たが、この体勢ではバイクの下敷きになる危険性が非常に高い。必ず山側に立つようにしよう!
どうせフロントアップをするのなら、一気にバイクの向きを変えてしまおうというのがこの方法だ。つまり足着きフローティングターンを斜面でやっているというわけ。体がバイクの下側にあるので、誰もが出来るテクニックではないけれど、Uターンのスピードはそれこそアッという間。ヒルクライムでめくれ上がったときにも応用出来る。上級者向けテクニックだ!
2007パリダカ・市販車無改造クラスで優勝を果たしたのは記憶に新しいところ。四輪ドライバー転向前は、BAJA1000、UAEラリー、ラリーレイドモンゴル、パリダカなどの海外レースで輝かしいリザルトを残してきた。豪快かつ繊細なライディングは未だに健在。
GARRRR編集スタッフではあるものの、オフロード経験はほぼゼロ。学生時代にカッコイイという理由で購入したKDX200SRも半日で焼きつかせてしまい、その後もストリート・オフローダーとしてRMX250S、DT200WRと乗り継いできた2スト好き。
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