掲載日:2025年05月22日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA TENERE700
MT07などにも採用されているパラレルエンジンのCP2を搭載したテネレ700が登場したのは2020年のことだ。それ以前の系譜を遡ると、シングルエンジンのXT660Zテネレと、パラレルツインのXT1200ZEスーパーテネレが存在し、前者は軽量なオフロード、後者はオンロードツーリングよりのアドベンチャー志向というキャラクターとされていたのだが、現在のテネレ700はその中間と言うよりもオフロード志向が強めの仕立てとなっており、それがファンたちに支持されている。
そのテネレ700が2025モデルでマイナーチェンジを受けた。その内容はフェイスリフトにはじまり、電子制御スロットルYCC-Tの採用、サスペンションの最適化、シートやタンク形状の見直しなど多岐に渡る。熟成されたテネレ700に触れ、詳細をお伝えしていこう。
テネレ700のことをまったく知らないという方もいることと思うので、”テネレ”という名称が持つ意味、そしてこれまで続いてきた系譜を知ることから紐解いていくとしよう。
テネレ700の源流を遡ると、1976年に登場したヤマハの名機XT500に辿り着く。SR500と同系エンジンが搭載されたデュアルパーパスモデルであり、普段使い、ツーリング、エンデューロレースなど何にでも使える万能さによって大ヒットを遂げた。そのXT500を用いて様々なラリーレイドに参戦したのが、後のヤマハフランスの社長となるジャン・クロード・オリビエだった。
中でも世界で最も過酷なラリーレイドとして始まったパリダカールラリーでは、第一回、二回と続けて圧勝とも言える強さを見せつけ、欧州ではヤマハ=ラリーというい図式が確立されていく。そして1982年のパリショーにて初めて”テネレ”のイニシャルが与えられたXT600テネレが発表される。
”テネレ”という言葉は、サハラ砂漠中南部の一帯を指す呼称であり、現地の言葉で「何も無いところ」を意味している。つまりはパリダカールラリーでの勝利というのがテネレ誕生のきっかけとなったのだ。
ラリーレイドモデル開発と平行して市販モデルのテネレも年々進化をしてゆく。シングルエンジンは660ccに排気量を引き上げXTZ660テネレへ、80年代後半には360度クランクのパラレルツインエンジンを搭載したXTZ750スーパーテネレが登場し、そのスーパーテネレは2010年にさらに排気量を増大しXT1200Zスーパーテネレとして復活していた。そして2020年、新たな道を切り開くテネレ700が登場し、現在へと続いているのである。
この記事を書きはじめる前に、村上龍氏が記した1988年のパリダカールラリーレポートを読んでいたところなので、当時の熱狂に胸を馳せつつ、テネレ700の詳細を追っていこう。
険しい悪路でも走破できる長いサスペンションストロークを確保するほか、岩や木を乗り越えるような場面に遭遇した際のことを考え最低地上高を引き上げるなど、オフロードバイクというものはえてしてシートが高いものである。それは分かっていながらも、テネレ700は多くのライダーを”うおっ”と思わせるほどシートが高い。スペックシートを確認すると875㎜。身長177cmの筆者は大抵のバイクで足つき性に不満を持つことは無いが、テネレ700は両足トゥ立ち状態だ。
エンジンを始動し走り出す。MT07などにも採用されてきたCP2(クロス・プレーン・2気筒)エンジンは、270度クランクを採用しており、低回転からトルクフルだ。
2025モデルでは電子制御スロットルを採用し「スポーツ」と「エクスプローラー」からライディングモードを選択できるようになっている。ライディングモードの切り替えによるキャラクターの差はかなりあり、スポーツモードでは同型エンジンを使用するYZF-R7さながらのハイペースな走りを楽しめる。高速道路やワインディングではじゃじゃ馬のような荒々しさに思わず笑いがこみあげてくるほどだ。一方で渋滞路など低速走行時にはギクシャクした感じもあった。なので日常的なシーンでは、パフォーマンスも十分で扱いやすいエクスプローラーモードがむしろ適しているだろう。
強いてネガティブポイントを挙げるなら、他のCP2エンジン搭載モデルと同様にシフトチェンジの操作が渋めだが、使っている内に慣れることだろう。
テネレ700に触手を伸ばすような方の多くは、オフロードを楽しむことも前提としていることだろう。そこでオフロードコースにこそ持ち込まなかったが、割りと長めの未舗装路林道に入ってきた。2025モデルではトラクションコントロールも装備されているのだが、電子制御スロットルとの相性が絶妙であり、ペースを上げても不自然さが少ない。
手練れであればABSもトラクションコントロールもカットしてガンガン走らせるところだが、私はさほどオフロードに長けていないこともあり、ABSとトラクションコントロールがあるおかげで、マディや砂利場なども楽にパスすることができた。
ブレーキのタッチ、そして効き具合、サスペンションの動き、スロットルワークによって得られるトラクション、これらすべてが見事にリンクしており、気負うことなくオフロードを走破できる。これはとても気持ちが良い。
そして前述したように足つき性こそ悪いものの、車体全体の重量バランスが良く、自由度の高いシート形状であることなどから、オンロード、オフロード問わず扱いやすいことも大きなポイントで、高速道路、ワインディング、未舗装路と繋ぐアドベンチャーツーリング本来の楽しみ方を満喫することができた。
オフロードの走破性能は流石と唸る出来栄えでありハンドリングも秀逸。オフロードガチ勢、いわゆるマニア向けと思われがちだが、実はテネレ700はオールマイティに使えるモデルなのである。
排気量688cc、空冷4ストローク並列2気筒エンジン、通称CP2を搭載。最高出力73馬力を9000回転で、最大トルク69Nmを6500回転で発生。2025モデルでは電子制御スロットル”YCC-T”で制御される。
フロントタイヤは90/90-21サイズのチューブタイプ。フロントフォークはバルブのセッティングを見直し、新たにプリロードアジャスターが追加されている。
リアタイヤのサイズは150/70R18でこちらもチューブタイプ。ピレリのスコーピオンラリーSTRが標準で装着されており、オンロード、オフロード問わず感触は良かった。2025モデルではオン・オフ可能なトラクションコントロールも装備。
従来モデルからデザイン的な意匠を受け継いでいるものの、形状が見直されている燃料タンク。タンク容量は16Lで、レギュラーガソリン仕様となっている。
ヘッドライトケースは従来モデルと比べてコンパクトな形状とされており、その中にレイアウトされる4灯LEDは従来の丸型から角型に変更されている。
ライディングシートは従来のセパレートタイプから一体型に変更されている。フラットな座面でライダーの自由度が高く、スリムなのでスタンディングポジションも取りやすい。
2024モデルからターンシグナルもLED化されており、テールセクションには大きな変更がない。ライセンスプレートステーはフェンダーも兼ねている。
新設計となる6.3インチフルカラーTFT縦型メーターを採用する。専用アプリ「Y-Connect」との連携も可能となり、電話やメールの着信通知、ターンバイターンナビゲーション表示などが行える。
やや幅広のハンドルバーは、車体の抑えが効きコントロールしやすい。ディスプレイの左右にABSオンオフスイッチ、USBタイプCソケットを装備する。
様々なコントロールを行える新たなスイッチボックスを採用。ライディングモードの切り替えをはじめ、各種設定を直感的に操作をすることができた。
従来モデルと比べて幅を広くし、足を乗せやすくなった新型フットレストを採用。奥に見えるリアサスペンションは、ストローク量を200㎜としたリザーバータンク付フルアジャスタブルモノショックとなっている。
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