掲載日:2018年09月28日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/田宮 徹
"車体は、フレームや前後サスペンション、シートやハンドルなどを従来型から踏襲するため、ライディングポジションは従来型と基本的に同じ。前後21/18インチ径という、市販オフロードモデルのフルサイズとなる前後ホイールを履くが、それでもシート高は830mmに抑えられていて、身長167cmの筆者がまたがっても、オフロードブーツなら両足裏がほぼ接地する。
ハンドルは、オフ車らしい幅広なバータイプだが、ワイドすぎない設定なので、またがるとスリムな車体に対するセローらしい安心感がある。従来型と比べて車重は3kg増えているが、またがったり押し引きしたりするときに、それを感じることはない。
走行性能に関しても、ライディングポジションと同様に、これまでのセロー250と基本的には大きく変わっていない。吸気系などが変更されているとはいえ、エンジンや車体の基本的な仕様は従来型を踏襲するので、これは当然と言えば当然である。車重は3kg増えているが、軽快なフットワークはまるで損なわれておらず、左右各51度が確保されたハンドル切れ角と1360mmのショートホイールベースを生かしながら、市街地をスイスイと駆け抜けられる。
そのまま河川敷のフラットダートに進入してみたが、ここでも軽快感は健在。最小回転半径は1.9mで、足もベタベタ着くので、行き止まりに遭遇しても簡単にUターンできるという長所もある。ストロークのある前後サスペンションは柔らかめの設定で、乗り心地に優れるだけでなく、遅い速度や少なめの入力でも車体姿勢の変化をつくりやすく、オンロードでもダートでも、バイクを操る楽しさを味わいやすい。
今回の試乗では、従来型と同じフィールドで比較することができなかったので、はっきり言うと2馬力の最高出力アップや0.2kgm・fの最大トルク増を実感できるシーンはほとんどなかった。1速で歩くような速度からフルスロットルした際には、従来型よりも元気よく前に進む感じもあったが、同条件で比較してみないことにはなんとも断言できない。
ただし、低回転域からレブリミット域までのエンジン回転フィーリングは、緻密なフューエルインジェクション制御の恩恵により、確実にスムーズさを増していることが体感できた。トルクが落ち込んだりモタついたりする回転域がなく、従来型以上に気持ちよく回転が上がってくれる。
2008年モデルで燃料供給がフューエルインジェクション化されて以降のセロー250は、極低回転域での粘り強さが向上されていたが、より高度な制御となっている2018年型も、当然ながらその長所を継承し、さらに磨きをかけている。1速どころか2速でも、平坦な路面ならクラッチを切ることなくアイドリングのまま、歩くような速度でエンストすることなく車体が前に進んでいく。しかも、その状態からスロットルを大きめに開けても、ギクシャクすることなく加速がはじまる。
これは、マウンテントレッキングでゆっくり山道を走るときにも、大きなメリットとなる。不意なエンストで立ちゴケする心配が減り、繊細なクラッチワークが不要となることで他の操作に集中できる。もちろん、走行条件によってはストンとエンジンが止まってしまうこともあるが、その回数が減ることで、オフロード初心者でもよりマウンテントレッキングを楽しめるようになるし、コミューターとして市街地で使用するときには楽に操縦できる。
セローがこの車体になってからすでに13年が経過していたことから、新型セロー250の開発をヤマハが表明したときには、オールニューに近いモデルが登場する可能性があることももささやかれた。しかしヤマハは、最低限の仕様変更で環境規制に適合化させることで、価格上昇を抑えながら環境性能を高める選択をしてきた。
もしかすると、これまでのセローを知らないライダーは、大きく変わっていないことにつまらなさを感じるのかもしれないが、これまでセローを愛してきたオフロード好きとしては、基本性能は不変という安心感のほうが圧倒的に大きかった。走りはどこまでも親しみやすく、価格は求めやすく、でもじつは中上級者がオフロードを走らせるとものすごいポテンシャルを発揮する。セローに要求されるそれらの要素は、従来型ですでに実現されていたのだから。
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