

掲載日:2013年04月22日 試乗インプレ・レビュー
取材・写真・文/三上 勝久 写真・取材協力/山下剛・KTM
パニアケース、トップケースなどがそのままで装着できるリアキャリアを標準装備。パワーパーツが豊富に揃っているので、ツアラーに仕上げていく事ももちろん可能。
ストリートでの走りは、高い位置にあるライディングポジションによって実に爽快だ。スクリーンもショートタイプとされているので、実に視界が広く、気持ち良く風景を楽しみながらスポーツライディングを楽しむ事が出来る。今回装着されていたタイヤはノーマルではなく、オフロード用に近いパターンをもつコンチネンタルTKC80だったが、トラクションコントロール機能が優れているため、タイトなワインディングでも安心してバンクさせる事が出来る。タイヤがパワーに巻けて滑り出すようなシーンでも、トラクションコントロールが適切に(そして体感なく)効いてくれるので、神経質にならずに飛ばせるのがイイ。
左右への切り返し、バンキングも実に楽しい。高い位置から豪快に倒し込んでもグラっとくる事は無く、気持ち良くヒラヒラとワインディングを駆け抜けていける。今回は全部で2時間のみの試乗であったため、長時間でどうなるかは「?」だが、シートも快適だった。シートとステップの距離が、高いシート位置ゆえに長めで、足の曲がりがゆるい事も快適な理由の1つだろう。
しかし、1190アドベンチャーRの真価が発揮されたのは、やはりオフロードでだった。今回試乗したコースは、2013年4月6日にフライビッグ、7日にスクラッチマウンテンというオフロードレースが開催された千葉県の砂取り山。サンド質のフラットダートで、ところどころにマディなぬかるみもあるという、このサイズのバイクとしては結構手強い試乗コースだ。
このサイズのバイクでダートを走る時に問題となるのが、サスペンションの底付きと、滑る際の挙動だ。オンロードでは快適でスポーティでも、オフロードに入った瞬間に、途端にコントロールが難しくなるバイクが少なくないのだが、この1190アドベンチャーRは、まさに水を得た魚のような素晴らしさを見せてくれた。
このコースでは広く硬い路面の坂を登りきった後、ワダチが交錯するフカフカのサンドの場所に出るのだが、そこで撮影のためにアクセルを大きく開けてリアを振り出した状態で入っていってもまったく怖くないのだ。前後ともに滑っている状態から、アクセルを戻した際に大きな揺り戻しが来てヒヤっとするバイクが多い中、前後とも滑った状態でピタっと安定する。
また、大きめのギャップにフロントがドスン、と入った時も、サスペンションが奥の奥でじんわりとその衝撃を吸収し、ありがちな底付きやその反動で来るお釣りが無いのも確認出来た。正直、舌を巻いた。今回のモデルチェンジで、オンロードバイク的な傾向になっていたのだろうと思っていただけに、これは嬉しい驚きだった。これなら、乗れるライダーが乗れば、相当ハードなオフロード走行も出来るはずだ。
トラクションコントロール、ABSも良く出来ている。当初は両方ともOFFにして乗っていたが、トラクションコントロールのオフロードモードが良い仕上がりで、滑りやすい路面でアクセルを開けても効きが抑えめ。適度にリアが滑り出すあたりで効きが始まるので、一昔前のモデルのように失火してばかりで進まない、という事がない。これはABSに関しても同じで、いつになったら止まってくれるのかわからないABSではなく、適切にライダーの意志をサポートしてくれるフィーリングに仕上がっていた。
これだけ優れたバランスになっているのは、エキゾーストパイプ・サイレンサーが集合タイプのダウンエキゾーストになっている事や、エンジンの配置やシャシーの剛性がオフロードに最適なディメンションになっているからだろう。もちろん、フロント21、リア18インチというオフロードバイクらしいホイールサイズを採用している事が最大の要因だが、サスペンションの出来も良くなければこうしたスポーティな走りは無理だ。
おそらく、多くのライダーは高いシート高に恐れて『R』を敬遠するかもしれない。確かに、オンロードユースオンリーであるなら、スタンダードの1190アドベンチャーのほうが良いだろう。しかし、1台でオンロードからオフロードまで楽しみたい、これまで見た事のない風景を見てみたい……、そんな野望を持つライダーなら、ぜひRを選んで欲しいと思う。ちょっと女性的だが滑らかなフォルムも美しいし、きっと素晴らしい旅の相棒となってくれるだろう。僕にとっても、久々に乗った直後に「これ欲しい!」と思わせられた希少なバイクであった。
標準でエンジンガードが装着される。マシンの破損を防ぐだけでなく、転倒時の傾きを少なくして起こしやすくするという効果もある。
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