

掲載日:2012年10月05日 試乗インプレ・レビュー
取材・写真・文/三上 勝久 写真・取材協力/HUSABERG
大きな岩が転がるトレール、尖った角のあるギャップが続く狭い山道。スタンディングで走りたいが、コーナーが多く座らないと曲がりにくい試乗コースでフサベルの独自性が見えてきた。それが、フサベル全車に採用された、ポリアミド樹脂製のサブフレームだ。ポリアミド樹脂は、防弾チョッキなどにも素材として採用される、ケブラーと同じ素材。2013年モデルのフサベルでは、この樹脂素材で複雑な形状に成型したサブフレームを採用しているのである。
樹脂、プラスチック……というと、「軽さを狙って?」 と思うだろう。しかし、フサベルの狙いは重量ではなかった。実際、フサベルの2013年モデルは、2013年KTMと同じエンジン、メインフレームを採用しながら全モデルとも約2kgほど重い。
樹脂製サブフレームの狙いは、重量軽減ではなく、柔軟性の実現にあった。ハードなガレ場(岩がゴロゴロしているような場所)や、崖っぷちを走ることの多いのがエンデューロというモータースポーツ。特に近年では、エクストリームと言われる、丸太や巨大な岩場を走らせるセクションも増えてきている。どうしても、マシンを倒したり、時に崖から落としたり……ということも起きるわけだが、そうした際に、ほとんどのエンデューロマシンが採用するアルミ製サブフレームでは、大きく曲がってしまうことが多かった。
アルミ製サブフレームは、当然ながら一度曲がってしまうと自然には元に戻らない。ところが、樹脂製サブフレームでは完全に割れてしまうほどの衝撃でない限り、曲がることがない。自己復元性のある素材ならではのメリットだ。
そしてこの柔らかさは、ライダーへの優しさともなるメリットを持っていた。巨大な段差を飛び降りた時などに、スチールフレームにマウントされたステップに来る衝撃と、シートを通して伝わってくる衝撃が明らかに異なり、遥かに柔らかいのだ。そしてその柔らかさは、短い助走で急坂を上がる時など、リアタイヤを路面に押し付けたいようなシーンでも活きてくる。体重をグッとサブフレームにかけると、柔らかく車体のリア側が沈み込み、リアタイヤのブロック1つ1つを地面に刺してくれる感じになるのだ。サブフレーム自体がしなることがトラクションに繋がるのかどうか、物理的には「?」だが、実際のライディング感覚としては非常にトラクション感覚を得やすいシャシーに仕上がっている。
全体に「ソフトだな」と思わせる理由はサブフレームだけではない。KTM2013年モデルでは、上級グレードにのみ装備されているセパレートファンクションフォーク、WP製の4CSフロントサスペンションが全車標準装備となっていることも理由の1つだ。細かなギャップの1つ1つを素早く拾う、レスポンスに優れるこのサスペンションと、柔らかい樹脂製サブフレームのおかげで、2013年フサベル・エンデューロマシンは、ハードな路面を長時間走っても疲れにくい……。おそらくはKTMよりも疲れにくい……、マシンに仕上がっている。つまりは、生粋の「エンデューロマシンである」、ということだ。
さて、そうした特性をもつフサベル2013年モデルの、4ストロークエンジン搭載モデルは全部で4車種のラインナップとなる。250ccエンジンのFE250、350ccエンジンのFE350、450ccエンジンのFE450、そして510.4ccのエンジンを搭載するFE501である。FE501のみ排気量と車名が合っていないが、これはフサベルの初代モデルがFE501という車名だったことにちなんだもの。つまりは、革新的だったFE501が今蘇ったぞ! という意気込みから付けられた名前なのだ。
450と501は基本的に同系統のSOHCエンジンを搭載する。250は2006年の250SX-Fをルーツに毎年進化を重ねてきたエンジン、350は2010年350SX-FをベースとしたDOHCエンジンを搭載する。エンジンはすべてKTMと同じ基本構造だが、フサベルでは全モデルセルスタートオンリーとし、キックを廃している。
どのモデルも先に書いたように、KTMより1段しなやかな乗り味で、アマチュアエンデューロライダーにとって扱いやすいマシンとなっている。特にFE250はシリーズ最軽量、かつ最もスリムなこともあって、これから本格的なエンデューロに参戦したい……というユーザーに最適なマシンだ。350は、250とまったく同じ大きさ、軽さながら、一回りパンチの強いトルキーなエンジンを搭載したモデル。軽い走りを楽しみたい、でもパワーも欲しいし、そして扱える自信がある……というライダーにお薦めしたい。
450は、シリーズのなかで最もレーシーなモデルだ。昨年までのKTM450ccモデルは、正直、世界選手権エンデューロライダークラスでないと扱えない硬さ、パワー、そしてシャープ過ぎるレスポンスだったのだが、今年の450はずいぶんマイルドになった。特にこのフサベルのシャシーとの組み合わせはとても優しい印象で、これまで「450は……」と手をこまねいていたライダーにも楽しめるモデルとなっている。
最大排気量のFE501は、450よりも太いトルクとパワーを持つマシンだが、同時に450よりも優しいフィールをもつ。エンデューロマシンとして最高なことはもちろん、国内外で開催されている各種のラリーや、はたまた林道ツーリング用としても十分使える万能性を持っている(編注:全モデル、保安部品装着。公道走行可能。)。攻めようと思うとそれなりの腕が要求されるが、ファンバイクとしても是非オススメしたいモデルだ。
ただし、1つだけ忠告しておくと、どのモデルも高速を一気走りして……というマシンではない。基本的にフサベルのマシンはすべてコンペティション=競技用モデルだ。国産のトレールモデルや、ビッグシングルツアラーなどとは異なり、こまめなオイル交換やメンテナンスが必要になる。しかし、マニュアルに従ったメンテナンスさえ行なっておけば、非常に頑丈であることもまた事実。
オフロードモデルには、これまで国産のトレールモデルしか乗ったことがない、というユーザーにもぜひ一度触れてみて欲しいと思う。最高のパワー、トラクション性能、軽さ、そしてシャープなハンドリング。フサベルが掲げる「PURE ENDURO」の世界がどれだけ素敵なのか、きっとわかってもらえるはずだ。
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