

掲載日:2012年09月05日 試乗インプレ・レビュー
取材・写真・文/三上 勝久 協力/池田 智泰
このモデルを、どういった視点で見るかによって、インプレッションの評価はガラっと変わってくる。オンロードをメインとしたツーリングが主用途で、まれに砂利道などに入ったときも安心して走りたい……という目的であれば、かなりいい線を行っている。
水冷DOHCエンジンのパワーとトルクは十分。外国製エンデューロマシンのようなシャープなレスポンスや、簡単にフロントを上げられるようなパワーこそないが、高回転をキープすれば気持ちのいい加速を楽しめる。そんな走りでもエンジンの振動が少ないため、快適性も高い。さらに、かなりアグレッシブな走りをしても燃費が30km/Lを切ることがまずないのも大きな美点だ。北海道~東北で、一般道、林道、高速道路とあらゆる道を走るツーリングを1,000kmほど走ってきたのだが、ほぼすべての区間で実測33km/Lほど走ってくれた。燃料警告灯は200kmほど走行したところで点灯するが、タンク容量は7.7Lあるので230km程度は一気に走れる計算となる。
幅が広めのシート、ソフトだが腰のあるサスペンションによってオンロードでの走りも悪くない。上りの高速ワインディングなどでは「パワーが細いな……」と感じることがないわけではないが、気持よく上までまわるエンジンのため、こまめにシフトアップ、ダウンを繰り返して走ればスポーティな走行が楽しめる。
ダート走行も、普通乗用車が走行出来る程度の林道であれば、なんら問題はない。初期作動が柔らかめのサスペンションによって、シッティングのままでも舗装路と同じような感覚での快適な走行ができる。
ただし、路面が深い砂利、砂、あるいはマディ(ぬかるみ)、連続したギャップが続くような状況になってくると話は変わってくる。オフロードバイクとして見た時に決して軽いとは言えない重量(143kg)と、ボリュウムのあるフロントまわりによって時々ハンドルがとられ、グラっと来るような挙動を示しやすくなる。そうした場面でもアクセルを開けてコントロールできる上級者であればなんとか出来るが、オフロードスキルの低い人はかなり不安に感じるだろう。
スピードが上がり、路面状況が悪くなればなるほど、重量とボリュウム感を原因とするネガな要素が強くなってくる。エンジン自体のパワーとトルクは十分にあるが、荒れたコースでそのパワーを生かした走りをすると、スピードと路面の荒れに比例して前後の接地感が失われ、コントロールが難しくなってくる。
また、重量があるため、難コースに入り込んで狭い場所で方向転換しなければいけなくなったときや、リアがワダチに入ってしまったりしたときに、リアを片手で持ち上げて脱出するのは常人では難しい。なので、エンデューロやモトクロスコースなどのスポーツ走行にCRF250Lが向いているかと聞かれたら、答えはNOだ。難所の少ないレジャー的なエンデューロであればトライしてみるのも楽しいだろうが、競技にお薦めのバイクかと聞かれたら、それは違うと言わざるを得ない。
では、このバイクがダメなバイクかと聞かれたら、それもまたNOだ。250ccクラスのデュアルパーパスバイクとしては非常によく出来ている。低振動、低騒音でトルク、パワーともに十分な性能をもつエンジン。通常のツーリングの範囲のスピード、林道ツーリング程度の走りであれば快適に楽しんで走行できる足まわり。ダメな点があるとすると、重いために転倒すると起こすのがタイヘンだと言うことくらいだ。
いい面はもっとある。優れた燃費と、高速道路を100km/hで2時間走り続けてもさほど疲れを感じさせない安定性と快適性。意外に便利な左サイドカバー内側の小物入れと、見やすく機能的なデジタルメーター。そして価格を考えれば十分に高い質感。そう、このCRF250Lは40万円そこそこという低価格で購入できるのだ。
この価格で、高速道路を使って一気に距離を稼ぎ、ワインディングを楽しみ、林道ツーリングまで楽しめるバイクなんて他にはそうそうない。現在人気の高い大排気量のアドベンチャーバイクに近い万能性を、250ccクラスという手頃なクラス、価格で楽しめるわけだ。もちろん、大排気量アドベンチャーバイクほどのパワーや快適性は望めないが、逆にそれらより軽快であり価格も安い。
そんな性格のバイクであるだけに、レーサーライクな外観ではなく、旧SL230のようなシックな外観のバージョンがあってもよかったのでは……と発売当初に思っていた。しかし、森の中を実際に走ってみると緑に赤と白のルックスがよく映え、「これはこれでいいのかな」と感じた。ルックスの好き嫌いについては意見が別れるところだが、「林道ツーリングを体験してみたい」「軽くて、しかも使いやすいツーリング・バイクが欲しい」というユーザーには安心してお薦めできるバイクであることは断言しておこう。
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