BMW Motorrad G650 X country
BMW Motorrad G650 X country

BMW Motorrad G650 X country – BMWの確信的異端児

掲載日:2008年05月27日 試乗インプレ・レビュー    

構成/バイクブロス・マガジンズ編集部

BMWの確信的異端児
G650 X country

2007年5月に国内販売が始まったG650シリーズ。エンジンと車体を共通としながらも、エンデューロモデルのG650 X challenge(クロスチャレンジ)、モタードモデルのG650 X moto(クロスモト)、スクランブラーのG650 X country(クロスカントリー)という、それぞれ違った個性を持つ3台のXファミリーが同時リリースされ話題となった。今回取り上げるのは、その中でも最も汎用性の高いモデルと言われているG650 X country(以下、X country)だ。

R、K、Fなどの既存シリーズに加えて、"G"という新たな名称が用意されたためか、このシリーズはデビュー前からさまざまな憶測を呼んだ。そして、その概要が明らかになってからもエンジンが先代F650GSと同一だったため、その後継モデルとして見られることも多かったようだ。しかし、先ごろデビューを果たした新型F650GSがF800シリーズと同様の並列2気筒エンジンを搭載して正式な跡目を継いだため、ユーザーにとってはこのシリーズ自体のポジショニングが理解し難いものとなっているのではないだろうか。特にX countryは、曖昧と受け取られかねないスクランブラー的なモデルで、そのコンセプトが最も分かり難い存在だと言える。果たして、このX countryはいかなるモデルなのか、またその魅力は何処にあるのだろうか。

BMW Motorrad G650 X country 特徴

基本構成は兄弟モデルと共通
個性を際立たせるのは足回り

BMW Motorrad G650 X country 写真G650シリーズの3モデルに搭載されるエンジンは、熟成に熟成を重ねてきた旧F650GSの水冷単気筒エンジンをさらにリファインしたもの。単体で2kgの軽量化と3馬力の出力向上を果たしたロータックス製ユニットは、DOHC4バルブにツインスパークを備えるヘッドを持ち、ボア100mm、ストローク83mmで排気量は652cc。最高出力53ps/7000rpm、最大トルク60Nm/5250rpmを発揮し、潤滑はドライサンプ方式という基本構造も先代F650シリーズから受け継いでいる。インジェクションによって燃料供給が行われ、エンジン制御は扱いやすくもスポーティな味付けとなっているのが特徴だ。高々とアップされたマフラーには、もちろんキャタライザーを内蔵している。

そして、よりビビッドになったエンジンパワーを受け止めるために十分な剛性が確保されたフレームは、アルミとスチールの4ピース構造。ボルトと特徴的なサブフレームによって部材を連結する方式も3モデル共通となっている。すなわち、このモデルのキモとなるのは足回りの違いのみなのだが、これで見事に高性能スクランブラーとして成立しているのには驚くばかりだ。フロント19インチ・リア18インチのホイールにオンオフ両用タイヤを装着し、フロントフォークは45ミリ径のインナーチューブを持つマルゾッキの倒立タイプ、リアはザックス製のサスペンションユニットのコンビネーション。ストロークはそれぞれ240ミリと210ミリを確保している。サンスター製ソリッドディスクとブレンボ製キャリパーから成るブレーキや、質感の高いマグラ製ハンドルバー、いかにも剛性が高そうなリアスイングアーム、低重心を狙ってシート下にアレンジされた容量9.5リットルの燃料タンクなど、走りに関する装備には一切抜かりがないことが分かる。一方、シート後端には小ぶりながらも積載スペースが設けられているほか、シリーズ中唯一標準状態でタンデム可能なモデルであることも特徴だ。さらにActive LineとHi Lineの2仕様が用意され、後者にはABSが搭載されている点にBMWらしさが感じられる。

3モデル共通のエンジンは味付けを変更されスポーティになっているが、熟成極り信頼性は十分。フレームは色の変化した部分でボルト連結される4ピース構造。内側に特徴的なサブフレームがある。

兄弟モデルと共通のフレームとエンジン

3モデル共通のエンジンは味付けを変更されスポーティになっているが、熟成極り信頼性は十分。フレームは色の変化した部分でボルト連結される4ピース構造。内側に特徴的なサブフレームがある。

低重心を狙って燃料タンクはシート下に配置されている。ただし、容量は9.5リットルとBMWとしては最小限。走る喜びだけを追求した、従来のF650シリーズとはまったく異なるコンセプトが垣間見える。

シート下にアレンジされた燃料タンク

低重心を狙って燃料タンクはシート下に配置されている。ただし、容量は9.5リットルとBMWとしては最小限。走る喜びだけを追求した、従来のF650シリーズとはまったく異なるコンセプトが垣間見える。

小ぶりなデジタル速度計とインジケーター類のみで構成されたメーターユニット。シートからの眺めではハンドルバー前方には何もないかのような印象を受ける。左側グリップにはABSのカットスイッチが装備されている。

シンプル極まりないハンドル回り

小ぶりなデジタル速度計とインジケーター類のみで構成されたメーターユニット。シートからの眺めではハンドルバー前方には何もないかのような印象を受ける。左側グリップにはABSのカットスイッチが装備されている。

シリーズ中X countryのみが標準状態でタンデム可能だ。シート後部はわずかながら積載性を考慮。ウインカーはオレンジのバルブ式だが、テールランプとブレーキランプは18個のLEDによって構成されている。

最小限の利便性を考慮したリアセクション

シリーズ中X countryのみが標準状態でタンデム可能だ。シート後部はわずかながら積載性を考慮。ウインカーはオレンジのバルブ式だが、テールランプとブレーキランプは18個のLEDによって構成されている。

BMW Motorrad G650 X country 試乗インプレッション

BMWの認識が新たになる
意外なまでのスポーツ性

BMW Motorrad G650 X country 写真これまでさまざまなバイクに試乗してきたが、良い意味で、見事に予想が覆されたというのが率直な感想だ。G650は、BMWが既存ユーザー以外のライダーに向けてリリースした注目すべきシリーズであり、従来モデルとはまったく異なるコンセプトで構築されているということは認識していた。しかし、3モデルで車体とエンジンを共通化したミドルクラスのシングル。数値的にも目を見張るものがないうえ、スクランブラーというコンセプトにもピンとくるものが無かったのでX countryは完全なノーマークだった。ところが、実際に乗ってみると面白くて仕方がないのだ。試乗車を借り出し、スタートすべく取り回してみるととても軽い。燃料タンクがシート下に配置されていることも影響しているのか、まるで小排気量車のような手軽さだ。しかも、BMW従来モデルと比較すると、フロント回りの装備品をバッサリと切り落としたような潔さ。シート高も兄弟モデルと比べれば標準的なレベルにあるため、普段大型バイクに乗りなれているライダーなら、跨った瞬間から自由自在に操れると直感するのではないだろうか。試乗する側の気分もこのあたりから俄然盛り上がってくる。そして、軽快極まりない車体にトルクフルなエンジンの組み合わせは、その期待を裏切ることは無かった。

BMW Motorrad G650 X country 写真満タン走行可能状態で168キログラムに抑えられた軽量な車体ゆえ、旧F650GSよりも一発一発の燃焼がハッキリと伝わり、地面を蹴り出す感触がとても強い。数値が示すよりも数段パワフルに感じられ、高回転域まで淀みなく回るこのエンジンだけでも十分に酔える。ハンドリングも絶妙だ。自由度が大きい上に過敏な反応を示すことがないので、ライディングは自然とアグレッシブになる。結果的に、街中でもワインディングでも振り回すような走り方になってしまうのだが、フレームはヨレる気配もなく、足回りもさまざまな荷重を余裕で受け止めている。メインフレームは華奢に見えるが、車体がエンジンに勝ったバランスであるため、不安になるような挙動が一切見られないのだ。この手のバイクでは車体の剛性不足がウイークポイントになりがちだが、それはまったくの杞憂だった。最後に、試乗車に搭載されていたABSについても触れておきたい。このABS、実はかなりスポーツ走行寄りのセッティングであると感じたからだ。見た目以上にグレードが高い足回りが執拗に路面を捉えて放さないということもあり、タイヤの滑る音が長めに感じられるほど作動はギリギリまで我慢する味付け。このABSならオンでもオフでも邪魔になることはなさそうだ。こんなところにもこのモデルの真の目的が垣間見えたような気がした。

BMW Motorrad G650 X country こんな方にオススメ

オン・オフ性能はほぼ50:50
両刀使いを目指す方にお勧め

試乗はオンロードがメインとなったが、撮影のためにこのバイクで河原に下りてみた。そこで期せずしてこのX countryが想像以上の走破性の持ち主であることに気づいた。そう、やはりこのモデルはオンもオフも楽しく走れるスクランブラーとして忠実に仕立てられているのだ。兄弟たちと比較すれば圧倒的に足付きも良いので、オンロード主体のライダーやオフロードのビギナーがダートに挑戦するための相棒としても適任だ。オフロードなら、高性能で長い前後の脚を誇るX challengeという手もあるが、あちらはもっとストイックな楽しみを追求する存在でそれなりの技量も必要。オンもオフも適度なバランスの中で、精一杯のスポーツ走行を楽しみたいと考えているライダーにはこのX countryの方がお勧めだと言える。シリーズ中唯一タンデム可能なモデルであり、スポーティなデートバイクとしても使えるようになっているのは、BMWのちょっとした遊び心か。

BMW Motorrad G650 X country 総合評価

食わず嫌いは損をする
まずは乗ってみるべし

正直に告白してしまうと、これほどまでにBMWというメーカーに対する認識を新たにさせてくれたモデルはこれまで存在しなかった。これはHP2エンデューロやメガモトにも試乗した上での感想だ。外観や前評判から、エントリーユーザーを意識したモデルであると予想していたX countryが、徹底したスポーツ性を隠し持っていたことに対してHP2シリーズ以上の衝撃を受けたからだ。バイクという乗り物は走らせてみないと分からないものだとつくづく思う。シリーズ中でもX countryは若干ながら利便性を考慮した跡があり、他の2兄弟と比較すると乗りやすいモデルだと言われている。しかし、このシリーズは3モデルともスポーツ性が相当高い。ミドルクラスにおけるHP2シリーズ的役割を担っているのがこのG650シリーズだと思えるほどだ。その中での相対評価として乗りやすいのは事実だし、軽くて扱いやすいことからビギナーにもお勧めできる。しかし、それがこのモデルの本質ではないと感じた。例えば、主に大排気量車に乗っているベテランライダーが、手足のように扱える小排気量車の楽しさを新鮮に感じることがある。X countryの面白さはそれを純粋培養したようなものだが、チープな部分が一切ないというのが重要だ。剛性の高いフレームやしたたかな前後足回り、そして強いパルス感をともないながら高回転域まで回り切るDOHCエンジンからは「スクランブラーとして走る性能を純粋に追求しただけだ」というBMWの明確なメッセージが伝わってくる。ミドルクラス・シングルとしてはやや高価だが、オンもオフも行ける刺激的なモデルに興味があるなら、是非とも試乗してもらいたい一台だと言える。

SPECIFICATIONS - BMW Motorrad G 650 X country

BMW Motorrad G650 X country 写真

価格(消費税込み) =
118万2,000円(Active Line)
128万7,000円(Hi Line ABS)

先代F650シリーズのエンジンをリファインして高剛性シャーシに移植したG 650 Xシリーズの一角。基本構成は他の2兄弟モデルと共有しながら、足回りの入念な仕様変更により、高性能なスクランブラーとしてのキャラクターを与えられている。

■エンジン = 水冷4ストローク単気筒 652cc
■最高出力 = 53PS/7,000rpm
■最大トルク = 60N・m/5,250rpm

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