原チャでchacha茶

第十一回 奥武蔵で峠の茶屋をハシゴする!!(埼玉県)

掲載日:2013年10月25日 原付漫遊記原チャでchacha茶    

文・写真/野岸“ねぎ”泰之  写真/野呂瀬悦史

第十一回 奥武蔵で峠の茶屋をハシゴする!!(埼玉県)

たまには峠の茶屋で
「お茶する」のも悪くない?

いつもはお散歩ツーリングを楽しんだ最後にお茶を飲む、というスタイルのこのコーナーだけど、今回は趣向を変えて「峠の茶屋」を走りつないでハシゴしてみよう、と思い立ったのだ。そうは言っても関東近郊にそんなに峠の茶屋ってあるのかな、と思って調べてみると……埼玉県の奥武蔵~秩父にかけて、けっこう存在していることが判明。峠に行くなら原付だってスポーツバイクで気持ち良く走りたいぞ、ってことで、ホンダのCBR125Rを相棒に、さっそく出かけることにした。

首都圏の外周をぐるりと回る国道16号線を埼玉県の入間市まで走り、そこから国道299号線にスイッチして秩父方面へと向かう。最初は郊外のベッドタウンを貫くバイパス道路だったのが、進むにつれて徐々に山間の谷あいを走る道へと変化。脇を流れる高麗川と西武池袋線に沿うように、適度にクネクネと曲がりながら距離を稼いでいく。街乗りからツーリングモードへとスイッチが切り替わるこんな瞬間は、いつだってワクワクする。

吾野駅の少し手前で右にそれ、まずは第一の茶屋ポイントである顔振峠に向けて登っていく。急な登り坂でグイグイと標高を上げるこの道は、舗装こそしてあるもののセンターラインもなく、車がすれ違うのもやっとという細さ。峠を攻める、なんて雰囲気の道じゃないけど、ギアつきのCBRだとキビキビ走れて面白い。

峠の頂上付近に着くと、目の前にいきなり数軒の建物が現れた。看板にはどれも「茶屋」の文字がおどる。なんと顔振峠には平九郎茶屋、顔振茶屋、小峰茶屋、冨士見茶屋と4軒も茶屋があり、さながら茶屋銀座の様相。しかも休日にはライダーはもちろん、チャリダーやハイカーで大いに賑わうという。幹線道路の峠道がどんどんトンネル化され、峠の茶屋が次々に消えゆく現代にあって、「どの茶屋に入ろうかな?」と悩めるなんて、なんとも贅沢な空間だ。


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東京から秩父への下道最短ルートが国道299号線。平日はダンプ、休日はマイカーやバイクで交通量が多い。顔振峠入り口には看板がある

東京から秩父への下道最短ルートが国道299号線。平日はダンプ、休日はマイカーやバイクで交通量が多い。顔振峠入り口には看板がある

顔振峠は峠の茶屋銀座!?
どこに入るか悩める幸せ

お店によって名物が違うなど、それぞれ個性がありそうな中で、今回入ってみたのが顔振茶屋さん。山側の高い場所に位置して眺めがいいのに加えて、店の雰囲気がきわめて素朴なのもポイントだ。店内には壁に貼られた手書きのメニューや額入りのイラスト、梅酒の瓶、ダルマなどが脈絡なく存在し、まさに昭和テイスト全開なカオスの様相。でも、不思議と落ち着くんだよね。外を見れば、秩父山塊はもちろん、晴れた日には富士山まで見渡せるという眺望の良さ。「昔は商品や氷を担いで峠道を運んだり、水で冷やす冷蔵庫なんてのもあったんですよ」なんて女将さんの話を聞きながら食べる味噌おでんや山芋の磯部揚げが、またうまいんだよね。おっと、まだ一軒目だった。居心地が良すぎてつい長居したくなる気持ちを抑えて、先に進むとしよう。他の茶屋も気になるけど、それはまた次回のお楽しみだな……。

顔振峠からは、奥武蔵グリーンラインを進む。この道は国道299号線と並行するように走る舗装林道で、外秩父山地の尾根筋を走る。道幅は狭めでそれほど展望は良くないけれど、信号もなく、高原を駆け抜ける雰囲気で、まるで避暑地の別荘地を走っているかのような感覚を味わえる。途中で展望が楽しみたくなったら、バイクを置いて山道をちょっと歩けば抜群の眺めを誇る「関八州見晴台」もあるし、対向車と路肩の落ち葉に気を付ければ、下界の国道を走るよりもかなり快適だ。

顔振茶屋は道路より一段高いところに店があるので眺めよし! この日は晴れて気持ちが良かったけれど、残念ながら富士山は見えず

「源義経が奥州へ逃れる際、絶景に何度も振り返った」「お供の弁慶があまりの急坂に顔を振りながら登った」などが顔振峠の由来とか

細く曲がりくねり、何もなかった峠道が頂上に着くとご覧のとおりの賑やかさ。砂漠のオアシスのように人々が吸い寄せられれる

レトロともちょっと違う、雑然としながらもどこか味わいのある顔振茶屋の店内。ダルマやレジスターがシブいなあ……

アツアツのコンニャクに甘い味噌だれがかかった味噌おでん。女将さんがその場でユズをすってかけてくれる。香りがいい~

気持ちのいい見晴らしを堪能しながら、山芋の磯部揚げを食べるシアワセ。モチモチ、ふわふわでパクパクいけちゃいます!

顔振峠の茶屋群で、一軒だけちょっと離れたところにある冨士見茶屋。手打ちそばが名物で、静かな雰囲気とともに人気とか

関八州見晴台への道。顔振峠からは廃業した茶屋を越え、入り口の石碑があるところまで行ったほうが近い。きつい山道をほんの数分

見晴台からのビュー。実際はもっとぐるりと見える。安房、上野、下野、相模、武蔵、上総、下総、常陸の関東八州が見渡せたのが由来とか

奥武蔵グリーンラインは原付でのんびり走るのにちょうどいいスケール。杉林が多く見通しがきかないが、走る分には爽快だ

峠の茶屋なのに、なぜか
ジンギスカンを食べる!?

しばらく走って刈場坂峠まで来たらグリーンラインを降り、国道の反対側にある正丸峠を目指すことにした。この峠道は約30年前に正丸トンネルが開通するまでは国道だったとあって、顔振峠よりは道幅が広い。けれど今は舗装もひび割れ、けっこう荒れた印象だ。にもかかわらず走り屋っぽいクルマやバイクが行き来しているのは、80年代後半から90年代にかけてローリング族のメッカだったことと、ドリフトを題材にした人気のアニメで登場したからかな。

峠の頂上にポツリとあるのが奥村茶屋だ。中に入ると売店には“正丸峠”のステッカー各種が並ぶ。単に走り屋文化がまだ残っているのかな、と思ったら、最近ではチャリダーでも制覇した峠のステッカーを貼る人がいるらしい。そういえばこの峠も、完全装備の自転車乗りがけっこういたもんな……。

お昼時の店内は、煙がもうもうと立ち込めている。実はここの名物は、炭火で食べるジンギスカンなのだ。なぜこんなところでジンギスカン? と思って店の人に尋ねてみたら、ここからほど近い、今は芝桜で有名な秩父の羊山公園一帯では、明治期あたりには飢饉対策で実際に羊が飼われていたんだとか。羊がいなくなった今も、その名残りで一帯にはジンギスカンを出す店がまだあるのだという。そんなウンチクもいいけれど、眺めのいい峠の茶屋で、昼から煙を浴びてジンギスカン、っていうギャップが面白いよね。もちろん、お肉も美味しいんだけど、こんな個性的な茶屋なら、トンネルができて峠が旧道になっても人気なのがわかる気がする。

グリーンライン上、廃業した茶屋の脇からの眺め。奥武蔵から秩父にかけては、標高こそ高くないものの、山深いことがわかる

グリーンライン上、廃業した茶屋の脇からの眺め。奥武蔵から秩父にかけては、標高こそ高くないものの、山深いことがわかる

正丸峠の奥村茶屋ではステッカーが人気らしい。中には1985年のデザインの復刻版などもあり。当時の走り屋には感慨深いのかも

正丸峠の奥村茶屋ではステッカーが人気らしい。中には1985年のデザインの復刻版などもあり。当時の走り屋には感慨深いのかも

昔から変わらない温もり
それが峠の茶屋の魅力!!

さて、この後は峠を反対側に降りていったん国道299号線で秩父方面に走り、道の駅「果樹公園あしがくぼ」の手前を右に折れ、再びグリーンライン方面を目指す。地図で見ると、グリーンラインと接するのは大野峠となっている。ところがここに行くまでが急坂とクネクネ、細かく分かりにくい分岐が何個も待ち受けていて、まるでアリの巣の中を走っているような気分。「ん、迷ったかな?」と何度も不安になる。ここはとにかく県民の森を目指し、さらに越えて進むのが正解だ。大野峠からは高篠峠、白石峠と山の中を走りつなぎ、かなりの時間をかけて最後の目的地である定峰峠にたどり着いた。

この峠も例のドリフトアニメの舞台になっているからか、走り屋系のクルマやスポーツバイクが目立つ。そしてここにはズバリ「峠の茶屋」という店があるのだ。トタン張りのちょいとヤレた建物に、うどん、ラーメンののれん。店先にはみそおでんの鍋が湯気を出したりして、名前も渋いが外観も激シブだ。そして、中に入ると雑然と貼られた写真、ポスター、手作りの木工品にキーホルダー、黒電話、丸イス……もう何十年も変わってないんじゃないか、という昭和臭がバリバリ漂う店内に思わずニヤリ。お約束の峠ステッカーも発見した。最初の顔振茶屋もそうだったけど、この手の懐かし系のお店は、なぜかホッとするし、リラックスできるんだよね。まるで田舎の親せきの家に寄ったような感じだ。

ここで食べたのが、「あずきすくい」という東秩父村の郷土料理。小豆と小麦粉を使ったお汁粉のようなデザート感覚の食べ物で、小麦粉が小さな農具の「箕(み)」の形になっていて、小豆をすくって食べることからこの名が付いたとか。ほんのり温かく、控えめな甘さにちょっと塩気が効いて、こういうのが疲れて冷えた身体にはありがたいんだよね。そしてお供には、峠の水でいれた「水出し」コーヒー。これが濃くて、たっぷりとカップに入って、美味しいやら嬉しいやら。いつもは自分で持ち歩いているけど、たまにはこういう場所でお茶を飲むのも、やっぱりいいね。個性豊かな峠の茶屋のハシゴ、走りも満足、お腹も満腹で、かなりオススメです。さぁて、次回はどこでchacha茶しますか~!?

秋の気配を見せる正丸峠。道幅はそこそこあるが、急こう配と急カーブの連続だ。昔、国道だった頃はさぞや難所だったはず

正丸峠名物、奥村茶屋のジンギスカンはボリュームたっぷり。もうもうとした煙の中でワシワシと豪快に食らうのが愉快だ

車道の正丸峠は標高636メートル。奥武蔵や奥秩父の山はもちろん、条件のいい日はスカイツリーまで見渡すことができる

国道299号線の芦ヶ久保から再びグリーンラインへと向かう道は、ヘアピンカーブの連続で急激に標高を稼ぎながら延々と続く

秩父のシンボル、武甲山。セメント原料の石灰石を採掘するため山肌が削られまくっているが、それがまた一種異様な存在感となっている

おそらくモータリゼーション初期から基本的な姿を変えていないであろう、定峰峠の茶屋。店の内外に温かい懐かしさが満ちている

名物「あずきすくい」。お汁粉のようだが、具には小麦粉をこねた「ほうとう」を使う。素朴な味わいはなぜか郷愁を誘う

長年の歴史がそのまま積み重なったような店内。雑然としているが不思議と不快感はなく、むしろ落ち着く。峠の茶屋には磁力があるね

峠の湧き水でいれたという「定峰コーヒー」。水出し特有の香りとコクが味わえる。なみなみと注がれたカップに愛を感じるなぁ

定峰峠から秩父方面に下る途中で日没を迎えた。高い場所から暮れゆく街並みを眺められるのが、峠道ツーリングのいいところ

今回の原付&装備

ホンダ CBR125R

6速ギアを備え、勾配のきつい峠でもスクーターでは味わえないダイレクトな操作感や加速感が得られる。ポジションは見た目ほどレーシーではなく、街乗りからツーリングまで楽にこなせる。満タン法でリッター47キロの好燃費を記録。

>>この車両の試乗インプレッションはコチラ

着脱式インナーベスト装備で3シーズン、別売のインナーを組み合わせれば真冬でも快適に過ごせるオールシーズンモデル。デザインはスッキリ系だがポケットが多く、収納力が高めでツーリング時にかなり重宝する。

ラフ&ロード
RR4003 GTジャケット

着脱式インナーベスト装備で3シーズン、別売のインナーを組み合わせれば真冬でも快適に過ごせるオールシーズンモデル。デザインはスッキリ系だがポケットが多く、収納力が高めでツーリング時にかなり重宝する。

フルフェイスの安全性とジェットの快適性を両立させたシステムヘルメット。ワンタッチで上げ下げできるインナーサンバイザーを装備し、昼夜や夕方、トンネルなど光の状況に素早く対応でき、ツーリングでの利便性は高い。

SHOEI
NEOTEC

フルフェイスの安全性とジェットの快適性を両立させたシステムヘルメット。ワンタッチで上げ下げできるインナーサンバイザーを装備し、昼夜や夕方、トンネルなど光の状況に素早く対応でき、ツーリングでの利便性は高い。

●今回の訪問先

顔振茶屋(顔振峠)

■所在地/埼玉県飯能市長沢1667-1■営業時間/10:00~日没■定休日/水曜日■TEL/042-978-0056

奥村茶屋(正丸峠)

■所在地/埼玉県飯能市南川447-2■営業時間/10:00~16:00(日曜のみ9:00~17:00)■定休日/不定休■TEL/042-978-0525

峠の茶屋(定峰峠)

■所在地/埼玉県秩父郡東秩父村白石311■営業時間/10:30~16:00■定休日/不定休■TEL/0493-82-0659

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プロフィール
野岸“ねぎ”泰之
神奈川在住のフリーライター。バイクツーリング雑誌を中心に、防衛問題からデジタルグッズまで、興味の赴くままに幅広く執筆。原付バイクによる島旅も多くこなす。グッズからグルメまで、B級と名のつくものが大好物。愛車はヤマハTDM850、TT250レイド、カワサキKSRⅡ。好きな言葉は「人生は祭りだ!」。HUB倶楽部の主宰メンバーでもある

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