掲載日:2021年01月05日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
BULLIT HERITAGE 50
BULLIT(ブリット)はベルギーのバイクブランドで、2013年に2人の若者によって設立された。イギリスの古いバイクに着想を得た小排気量モデルを得意とし、手ごろな価格で提供している。そのラインナップの中から、今回はHERITAGE 50(ヘリテイジ50)に試乗。その魅力を探ってみた。
ブリットのマシンラインナップを見ると、イギリスの古いバイクに影響を受けたと思われる、スクランブラータイプのマシンが中心となっている。その中でヘリテイジ50はちょっと異質で、1970年代を中心に人気を博した国産のレジャーバイクに強くインスパイアされた印象を受ける。当時を知る人にとっては、懐かしく感じる人もいるだろう。
T字型のバックボーンフレームに、スーパーカブのような単気筒の横型エンジンを搭載。それに組み合わされるのは丸型ヘッドライトとアップマフラー、ロングシートだ。ちなみにタイヤサイズは10インチ。これだけを見ると、まさに懐かしのレジャーバイクのようである。
しかし、ブリットの送り出すマシンは単なるオマージュではない。クラシックなデザインの中に、きちんと現代のテクノロジーが織り込まれ、製品としてのクオリティを高めているのだ。例えば、フロントブレーキはディスクを採用し、メーターはデジタルだ。エンジンはヨーロッパの排ガス基準であるユーロ4に適合しており、燃料供給はインジェクション。セルスターターも装備している。さらに細かいところでは、サイドスタンドスイッチも装備するなど、安全面にも配慮が行き届いている。
興味深いのは、ウインカーはLEDなのにヘッドライトとテールランプはバルブ式となっていることだ。もちろんコストダウンの意味もあるとは思うが、ヘッドライトが白いLEDなのとほんのり赤いバルブ球では、見かけの雰囲気が全く違う。個人的には、レトロイメージを持たせるために、あえてバルブ式を採用したのでは、と思っている。このあたり、バランスの取り方が本当にうまいなと感じる。
10インチタイヤを採用しているヘリテイジ50の車体はかなりコンパクトで、シート高も780mmとなっており、気負わずに乗れるサイズだ。しかしロングタイプのシートとアップハンドルのおかげもあって、小さな車体の割にポジションはゆったりとしている。エンジンをかけ、アクセルを空けると聞こえてくる排気音は、50ccにしては低く太めで、なかなかのサウンドだ。
走り出すと、加速はかなりもどかしい。50ccだから仕方のない面もあるものの、国産の50ccスクーターよりもスロースタートかもしれない。クラッチ付きの4速ギアを採用しているのだが、慣れないとシフトチェンジのタイミングがけっこう難しいのだ。ロー、セカンドあたりはエンジンを回してもそれほどスピードは乗らないが、3速、4速とシフトアップするにつれてグングンと伸びてくる。例えが古いかもしれないが、まるで蒸気機関車のようなイメージだ。
シートは硬く、座り心地は正直なところ良くはない。そして前後のサスペンションもこのクラスでは標準的な仕様といえるもので、ギャップに突っ込むとかなりの突き上げを食らうことになる。快適、というにはほど遠い仕上げかもしれない。
ところがこのマシン、走っていると無性に楽しいのだ。ちょっとシフトタイミングをミスると失速気味になってしまうのも「次はどの時点でチェンジしようか?」「ここはちょっと登りだから回転が落ちる前に……」など、どうやったら上手く走らせることが出来るか、を考えながら乗るのが面白いのだ。乗っていると「リアサスはあれに換えるといいかも」とか「キャンプツーリングに行くなら車体とともに荷物も軽量化しなきゃ」という感じで次々に妄想が湧いてきてワクワクする。若い頃に初めてバイクを手に入れた時の、あのときめきを思い出させてくれるようなマシンなのだ。
今どきのバイクは樹脂製のパーツを多用して軽量化とコストダウンを成し遂げ、性能や信頼性も高い。対してこのヘリテイジ50はほとんどがスチールで出来ており、速いわけでもない。だが、「乗って楽しい」「いじって楽しい」という、バイクの原点をきっちりと押さえたマシンだ。国産50ccクラスには新車で買えるMT車がなくなってしまった今、このヘリテイジ50は“新車で買える遊べる原付”としてとても貴重な存在と言えるだろう。